おにぎり・味噌汁・卵焼き−Law−


ここに住むことに決めたのは、職場から近いセカンドハウスが欲しかったからだ。
今日みたいに深夜まで残った日に、実家は遠いうえに広すぎる。
セカンドハウスを借りるなら、オンコールから30分以内に職場に行ける場所に限られるし、安いに越したことはない。
寝に帰るだけならワンルームで十分だ。
そう思ってここを借りたが、住んでみて思いのほかいい環境だと気づいた。

当直明けで帰ろうが、深夜でない限りほとんどスペースに誰かいる。

筆頭があの女、マナ。

入居時説明で
「朝食希望時は朝7時までにスペースの黒板に名前を書くこと」
「メニューは黒板参照」
「夕飯が必要な時は16時までに連絡すること」
「16時以降でも食材持参なら300円で調理を請け負う」
などと説明された。
下宿のようなものかと思ったが、どうもそうではなく、単純にこの女がほぼボランティアでやっているらしい。

いつも朝7時にはスペースで朝食を作っていて、匂いにつられて起きてくるやつら(主に麦わら屋)に、定食屋もびっくりの安値で朝食を提供している。
時間が合えば俺も頼むが、普通にうまい。特に和食が絶品。

夕方、帰ってくるとまたスペースで夕飯を作っている。
これがまた酒が進む味で、食べる予定はなかったのだが気づくと住人たちと酒盛りしていることもしばしば。
ただ、仕事と関係のない相手と酒を飲みながら、
テレビを見たり、どうでもいいことを話すというのが、
意外に翌日の疲労感を消す効果があることも、ここに来て知った。

自室に戻る前にスペースを覗くと、
いつものように朝食のメニューが黒板に書いてあり、数名の名前がその下に記入されている。
「おにぎり(鮭)、味噌汁(大根、ナス)、卵焼き」
自分の名前を足して自室に向かう。
シャワーを浴びて、仮眠をとろう。
朝食の香りがするまであと数時間。


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