たこやきB−Sabo−


「楽しかったねー」
「ああ、要塞もう一息だったのが悔やまれるけどな」
「また来れるよ」

マナがあくびをしながら目をこすっている。
一日中歩きまわったわけだから、疲れて当然だ。

最初から子供向けジェットコースターに乗ろうと決めていた。
絶叫系ではむしろ楽しそうにはしゃぐマナが、子供向けであんなに怖がるとは思わなかったが。
ほんの3分間、マナの体の華奢さと柔らかさを全身で味わって。
密着した体と髪からは花の香りがした。

左を見やれば、うとうとと舟をこぎ始めるマナ。
電車の進行方向のせいだろうが、オレとは反対側に倒れそうになっている。
反対側にいる知らない男の肩を借りることにならないといい、と思っている最中、
マナの体が男のほうに大きく揺れて、反射的に腕をつかんで自分のほうに引き寄せた。

「…んー…」

マナの頭を肩にもたせ掛けて、腕も組んで。
これで例えオレが寝ても落ちることはないだろう。
広がる花の香り。

「ねえ」

顔を上げると、ゼミ同期のコアラが目の前に立っていた。

「なんだ」
「君ってそういう人がタイプなの?」

珍しく無表情だが、少なくともネガティブな感情を持っていることは見て取れる。

「いや、違うな」
「じゃあなんで、」
「オレが好きなのはこういうタイプの女じゃなくて、」

いったん言葉を切ってマナに目を落とす。

「こいつだから」


コアラに目を上げると、顔を赤くして肩を怒らせてこっちを一瞥した後、足早に去っていった。

心の中でコアラに礼を言う。
声をかけられた時、マナの体が一瞬こわばったから、たぶん今の話は聞こえていたはずだ。
さあ、今のやり取りがどう出るかな。

妙に愉快な気持ちのまま、静かな車内に倣って目を閉じた。



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