キャベツと玉ねぎのトマトスープD−Zoro−




スープがたてるコトコトという音が気持ちを落ち着けていって、
考える自分が戻ってきた時に出た結論が「ゾロにも言ってみよう」だった。

もしかして、また傷つくかもしれないけど。
できれば、そうじゃないといいなと思うけど。

どうなったとしても。
このごまかしを許さない人を、誤魔化し続けることの罪悪感や気持ち悪さに比べれば。
自分が傷つくほうがまだマシだと思った。

コーヒーの入ったマグカップを手に、スペースの奥の席に移る。
いつもの場所だと誰かが帰ってきた時にすぐ聞こえてしまうから。

お酒を手にしたゾロが無言で隣の席に移ってくる。

さあ、何から話そうか。

「ゾロも知ってる通り、私がこの物件を所有していて、
でもそれは出来るだけ皆には知られたくないってことを前提に聞いてね」
「あァ」
「だから、今からする話は絶対他の人に言わないで」
「約束する」

「私が物心ついたとき、私の家は三人家族だった。父と、兄と、私。
母は私を生んだと同時に他界していたから。
父は高齢だったけど、事業を経営していてすごく忙しくしてた。
だから私は、兄と、15歳まで家に来てくれてたお手伝いさんに育てられたのね。」

コーヒーを一口含む。

「ただ、父は無理がたたって病気になって、私が18歳の時に亡くなってしまった。
その時に初めて、兄が血のつながった実の兄じゃなくて、父の養子だってことを知ったの。
私が生まれた時の話だったみたいで、それをみんなで隠し通してくれてたらしいんだけど、
それまでは本当の兄だと思っていたから、父のこともあったし私は頭が真っ白になって。」

いったん言葉を切る。
一気に話しすぎたかもしれないとゾロを見るけど、ちゃんと聞いてくれているようだった。


「しかもそのタイミングで、兄が父の戸籍を出ていくと言い出したのね。」

昨日と同じ話なのに、痛みは今日も鮮やかだ。


「私は当時未成年だったから、せめて成人するまではって周りからも説得してもらって、
いったん兄は思いとどまったけど、私が成人した年に父との養子縁組を解消した。
だから、今は兄とは赤の他人にあたるんだけど、」

ゾロに視線を送る。
眉間に寄せた皺。

「その、昔兄だった人が、この物件の管理人のシャンクスなのよね」

眉間に寄っていた皺が一気に消えて、見開かれる目。

「…マジか」
「うん」

かすかに笑みを返す。

「だから今は、父の事業を引き継いだ二代目経営者というか、管理者としてのシャンクスと、
物件そのものを引き継いだオーナーとしての私の関係性になるわけ。
昨日、サボにはシャンクスと私がどういう関係なのか聞かれて、この話をした。
サボは一番入居年数が長いし、たぶんいろんな場面で気づいてたんだと思う。
ただのオーナーと管理人にしては関係性が近すぎるって」

これ以上は、昨日のことを話すべきではない。

「…私は、人として話してもいいな、絶対秘密にしてくれるなって人にしか、
この話をしないから、それだけは覚えといてね。」

「あァ、わかった」

ゾロを取り巻く空気が格段に柔らかくなったのを感じながら、マグカップに口をつける。


不意に頭に置かれた手に体が跳ねた。


「悪かったな」
「え、」
「話させて、悪かった」
「…謝られると複雑だわ」
「ああ、わりぃ」

目を上げると、今まで見たことがないくらい温かい視線が待っていた。
ああ、これはきっと、ありがとうって言いたいんだろう。

「…いいよ」


どういたしまして、を込めて言葉を返した。



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