とても短い話
1000文字に満たない話、ネタなどを置いています。
名前変換はありません。

助けた人が教祖様だった*張角
origin設定です。体験版やっていないので、イメージはYoutuneのプレイ動画より引っ張っています。
何でも許せる方のみ、お読みください。
「皇帝が支配する時代は終わった!今、この時を以て我ら黄巾党が天に立つ!」
居丈高な教祖らしき男の声に、眼下に群がる手下たちは一様に呼応する。湧き上がる歓声に地割れが起きそうだ。目の前で繰り広げられる光景を傍観に徹していると、長身の男がゆくりなく振り返った。
「―――そして今日。官吏の兇手から救ってくれた者を、みなに紹介しよう」
「えっ」
こちらに歩み寄ったかと思えば、男の手に背中を押されて前へ押し出されてしまう。黄色い頭巾を巻いた大勢の男共の視線が突き刺さる。うわ、なにこれ最悪。注目されるの一番嫌いなんですけど自分。後退りした自分の肩を空かさず抱き寄せる。それは逃がさないと言っているようだった。
「馬車の前に倒れてしまったというだけで幼き子を罰そうとした官吏を、我は止めてみせた。しかし官吏はあろうことか不敬罪で我諸共処断しようとしたところ、この者が勇ましく救い出してくれたのだ」
「え。いや、そんな大したことは……」
「聞けばこの者も官吏の非道な政治によって住処を追われ、流浪に身をやつしていると言う。―――このようなことは断じて許されない!ゆえに!我はみなの願いを背負い、朝廷に反旗を翻す!!」
またしても、おおおぉぉ、という叫び声が上がる。なにこれ怖い。男の言う通り流浪の身だし住処を追われたけども、この男の言うような悲観的な気持ちや恨む気持ちなどはないし、皇帝に剣を向ける気もない。ていうか怖い。
「……あのう、教祖様?私はいつになったら解放してもらえるんです……?」
周囲の者たちに聞かれないよう、顔を近づけて耳打ちする。とても大きい声で逃がしてくださいなんて言える雰囲気じゃない。人から「お前は色々抜けすぎだ」と言われる自分でもそれくらいはわかる。教祖とおぼしき男はこちらに目をくれることなく平然と言い切った。
「我らが天に立てばこのような暮らしも終わるだろう」
違う、そうじゃない。そういうことを聞いてるんじゃない。喉元まで出かかった本音を噛み砕き、気を落ち着かせる。冷や汗が背中を伝ったのは気の所為だと信じたい。
「そうじゃなくてですね……。そろそろ自分お暇したいなあって……」
「すまない。それはできない」
「えっっ」
「俺にはお前の力が必要だ。手を貸してほしい」
ようやくこちらを向いた彼は、苦しそうに眉根を寄せていた。悩む顔も素敵だな、と率直な感想もとい雑念を頭から掃き出し、ぶんぶんと頭を振る。流されるな私。いくら顔がいい男だからって相手は国賊率いる棟梁だ。絆される場面じゃない。
「こんだけのお仲間さんが居れば不要かと……」
そう言って一歩後退りした刹那。
「わっ!?」
ぐいっと肩を強く抱き寄せられた。指が食い込んできて骨が軋む。なんですかこの人。怖いよ、怖すぎるよ。こんなことなら助けるんじゃなかった。いや別に助けようと思ったわけでもないけど。たまたま偶然土地に詳しそうな官吏が居たから道を訊ねようとしただけで、そしたら急に激昂したから倒すはめになっただけで。その官吏に絡まれていたのがたまたまこの男だったというわけで。嫌な偶然が重なって生み出されたのは、取り返しのつかない災厄だった。
「女だてら果敢に悪を挫いたこの智勇を称え、―――この者を我が側近として迎え入れようと思う!」
「………………、はっ?」
「今まさに万夫不当、一騎当千の力を我らは手に入れた!朝廷を打する日はすぐそこだ!!」
教祖の掛け声に合わせて信徒たちが声高に叫ぶ。おいおいおいおい、どういうこと、どうなってるの。
「ちょ、ちょっと……!私入るなんて一言も―――」
続きの言葉は言えなかった。喉を擦ったのはただの空気で、萎縮して縮こまる。男の双眸が自分を射抜く。氷のように冷たく、熱した鉄のように熱いという矛盾したものを抱えながらも息をするような、危うさを兼ねた静謐な目だった。
「三十もの数をたった一人で薙ぎ倒したその腕を、みすみす逃すことはできない。悪いが、なんとしてでも力を貸してもらうぞ」
彼の目を見つめ続けていると意識が浮ついてくる。この人は一体なんなんだ。しかしそれらは一切言葉に表せず、腕を締める強さにただただ困惑するしかなかった。
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