由布院からの手土産に、鬼怒川と有基は大いに驚いた。
「え、何この野菜、どうしたの?」
「もらったんだよ職場で……あー、疲れた……」
「かぼちゃっ、かぼちゃっすー!」
ぐったりした由布院が渡してきた袋には、じゃがいもに人参、玉葱がどっさり入っていた。一番上に乗っていた大きなかぼちゃを抱えて、有基は嬉しそうにはしゃいでいる。
「もらったって、職場に農家の人でもいるの?」
「実家でやってる奴がいたんだよ。しかも北海道で」
「それは広大そうだね……」
「牛も飼ってるらしい」
「牛っすか! 牛はモフるより、撫でる方が気持ちいーっす!」
「それ何か違うの?」
盛大に脱線してしまった。
とにかく、この野菜たちは、北海道の実家で農家を営む社員からもらったそうだ。独り身の彼を案じてのことらしいが、量を見る限りでは、案じすぎている気がしてならない。何せその場にいた十余人が、概ね同じ量を引き取っていったというのだから。
「折角頂いたわけだし……。今日はこの野菜使って、ご飯作ろうか」
「カレー?」
「何で俺イコールカレーなの。確かに材料的にはそうだけど、他のでもいいだろ」
「はいはいはい! 俺、かぼちゃスープがいいっす!」
飛びつかんばかりの勢いで、有基が手を上げた。因みに反対の手は、未だにかぼちゃを抱えている。
「こんな風に、おっきーいかぼちゃがある時、あんちゃんが作ってくれてたんす! 切って煮るだけだから、ユモトもできるーってあんちゃん言ってたっす」
「かぼちゃスープかぁ」
「いいんじゃねぇの。何か判んねぇことあったら、強羅さんに聞いてみりゃいいんだし。寧ろユモトから電話とかしたら喜ぶんじゃね」
「……そっか。そうだね」
「決まりっすね!」
有基の瞳が、三割増しで輝いた。正直眩しい。
「まずはかぼちゃ切るっす! スパーンと!」
「かぼちゃ丸一個って、切るの難しいんだよね。普通に切ろうとしても、まず切れないし」
「そーなんすか? あんちゃん、フツーに切ってたっすよ。こう、『っしゃー!』って」
動作を再現してくれたようだが、どう考えてもかぼちゃを切る動きではない。例えるなら、何かを割るような。薪とか、薪とか。
「いやいや、それは強羅さんだからできるのであって、俺らにはできねぇから。つーわけでアツシ、普段どうやって切ってんの」
「……っしゃー」
「アツシ、やろうとしなくていいから」
一瞬包丁を構えた鬼怒川の肩を叩くと、はっと我に返ってくれた。もう一度同じ言葉を繰り返すと、漸く理解できたようだった。
「包丁を浅く入れて、そのまま一周させるんだ。一周したら裏返して、思いきりいけば、すぱっと切れるよ」
「そうかそうか、じゃあそういう感じで」
「やらないのかよ」
「ぐ、ぐらぐらするっす……」
「ちょっ、ユモト! 先にヘタ切ってから!」
いつの間にか、有基がかぼちゃと戦い始めていた。今回のかぼちゃはヘタが飛び出ているから、先に切り落とさないと、裏にした時に安定しない。手を切る原因にもなりかねないので、重要なポイントだ。
かぼちゃを横向きにして、ヘタに包丁を当ててみるが、中々刃が通らない。暫し格闘したが勝てそうになかった。一度手を休めていると、ずっと黙っていた由布院が、すっと包丁を握った。
「なぁ、アツシ。ヘタ切らなきゃいけない理由ってさ、安定しないからってだけだよな」
「え……、うん」
「なら切らなくてもいいんじゃねーかな」
「え、いや、ぐらついて危な、煙ちゃん!」
鬼怒川が慌てて止めようとしたが、それよりも早く由布院が包丁を一周させ、裏に返した。ぐっと力を込めると、ぐらぐらと傾いだが、上手くバランスを取って切り込んでいく。めきめき、と食品にあるまじき音がした。
「お、いける」
思わず零れてしまった、というような響きを持っていた。
鬼怒川がハラハラしながら見ていると、かぼちゃが両断された。わいわい騒ぐ有基をよそに、ヘタの部分を削ぐようにして切ってから、「はい、あと宜しく」と包丁を戻した。
「今回は切れたからいいけど、危ないんだよ! ユモトが真似したらどうするの!」
「悪かったって」
眉を吊り上げている鬼怒川に対して、密かに「母親だな」という感想を抱いたことは、勿論秘密だ。
切ったかぼちゃは、半分使う。残り半分は、鬼怒川がこのあと煮ることになっているから、特に何もしなくて大丈夫だ。
かぼちゃを切りやすくする為に、レンジにかけている間に他の野菜と鶏肉を切っていった。ゆっくりゆっくり、猫の手で、だ。
「玉葱痛いっす……」
「ったく、仕方ねぇな……。ユモト、包丁寄越せ」
「煙ちゃん先輩、あざっす!」
涙を浮かべた有基に、何となく罪悪感を感じた。別に由布院が泣かせたわけではないけれど。というか泣かせでもしたら、強羅が特攻してきそうだ。
『ユモトを泣かせた奴はいねぇーがぁぁぁ!』
背筋がうすら寒い。余計なことは考えるもんじゃないなと思いつつ、玉葱をみじん切りにしてから、再び有基へパスした。
「煙ちゃん先輩、このあとヒマっすか」
「まぁ別にやることはねーけど」
「じゃあ炒めてほしいっす。かぼちゃできるまで」
レンジから出されたかぼちゃは、まだそのままの状態になっている。暫し炒め続けるのは、面倒と言えば面倒だが、このくらいは頑張ってやろう。そう決めて、差し出された木べらを受け取った。
柔らかくなったかぼちゃを、一口大に切ってからまたレンジにかける。こうすれば火の通りが早くなる、というのは強羅から教わった。
『いいかユモト。こうしておけばすぐに火が通って、すぐにできるようになる。その分、早く食べられるからな』
「……うんっ」
あの日を思い出して、過去の強羅に返事してしまった。
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