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当てちゃ嫌、と冗談めいて言った後で表情を一変させたレイヴンは、不敵に口角を上げて目を細める。

「この街の地下には複雑に地下水道が張り巡らされてる。その昔、街が帝国に占領された時、ギルドはこの地下水道に潜伏して反撃の機会をうかがったんだと。で、ここがその地下道に繋がってて、ここからこっそりと連中の足元に忍び込めるって寸法な訳よ」
「ちゃちゃっと忍び込んでやつらをふん捕まえる。回り道だが、それが確実って事か」
「そういう事。信じてよかったでしょ?」
「まだ、よかったかどうかは行ってみないとわかんねぇよな」
「やっぱ、おっさんは信用ならない?」
「当然おっさんも付き合ってくれんだろ?」
「あっらー?おっさん、このままバックれる気満々だったのに」
「またそんな事言っっちゃって、ほんとはアイナ助けるの手伝う気満々でしょ。そういうの時間の無駄だから。ほら、さっさと行くよ」

ハルカが目を逸らして乾いた笑みを零すレイヴンを急かし、隠し扉が音を立てて開かれる。全員で奥へ進んで扉を閉めてしまえば、光のない真っ暗闇だった。何も見えず、ただ声や息などの音のお陰で、少しばかり互いの存在を感じられる程度だ。ここを進む、進まない以前の問題だ。

「ほら、天才魔導士のお嬢ちゃんよ、ここはひとつ、火の魔術でバーンと先を照らしてくれんかね」
「あたしをランプ代わりにしようっての?いい根性してるわね」
「リタ、なんとかなりませんか?」
「うーん……無理。火の魔術は攻撃用なのよ。照明みたいに持続させるには、常時エアルが供給されないと。光照魔導器(ルクスブラスティア)みたいにね」
「そうなのか?アイナ普通にやってたぞ」
「ちょっと、あたし程度の魔導士をあの戦乙女と一緒にしないでよ。アイナに失礼でしょ!」
「なんかリタってアイナ贔屓だよね……」

どこか呆れた声色でカロルが零すと、ハルカは笑いながら肯定する。リタ本人が以前ファンだと言っていたし、騎士時代に助けられた事があると言っていたので、まぁ憧れているのだろう。それは別として、こうも暗くては先に進めない。今から別の策を考えなければいけないのか、と焦る気持ちを押し殺してどうにか冷静になろうとする。

そうしていると突然、ラピードの声が聞こえた。鼻の利く彼は臭いで位置を特定したのか、リタに何かを渡したらしい。手元も何も見えない中でどうにかそれを把握した彼女は、かなり傷んでいるが使用可能な魔導器(ブラスティア)だと判断した。リタを中心に周囲が見えるようになって、ハルカはほっとした。これで先に進めそうだが、傷んでいると聞いたカロルが不安げな音をあげる。

「わ、ちょっと、爆発したりしない?大丈夫!?」
「する訳ないでしょ。これ光照魔導器(ルクスブラスティア)の一種よ。あの充填機でエアルを補給して光る仕組みね」

リタが視線を向けた先には確かに、送風機のような物があって空いた口の部分から緑色の光が出ているのがわかる。

「流石リタです!」
「でも、かなりガタきてるみたいだから、長持ちしないと思うわ」
「じゃぁ、こいつが光ってるうちにとっとと行こうぜ」

狭く暗い中をリタの手にある僅かな光を頼りに、互いを見失わないよういつもより身を寄せて進んでいく。少しばかり進むと、水路に魔物が居た。が、こちらに気付いている様子であるのに襲っては来ない。相手にその気がないのなら、無理に戦う必要はないのだ。時間も惜しい。そのまま事を構えず通り過ぎようとしたその時、充填していたエアルがなくなってしまう。光が失われると、それまで近付こうともしていなかった魔物が突然襲いかかってきた。暗闇の中でなんとか撃退するが、ハルカと相性が悪い。暗くなった途端に襲ってくる魔物という事は、この暗闇に棲息する事で逆に光には耐性がないようだ。環境に適応しているのだろうが、銃で戦うハルカには弾が仲間に当たってしまう可能性が怖くて手出し出来ない。足を引っ張って時間を無駄にしてしまうくらいなら、と光照魔導器(ルクスブラスティア)を持つ係に名乗りを上げた。

幸いあちこちに充填機があるようなので、消えないように気を配ればいい。光さえ絶やさなければ魔物と対峙して時間をロスする事はないのだ。

エアルの充填がなくならいよう気を配りながら地下を進んで行くと、ユーリが壁面に何かを見付けて足を止めた。自然とハルカ達も立ち止まり、見上げると大きく、びっしりと文字が書いてある。この世界の文字がわからないハルカは読めなかったが、エステルがそれを読み上げた。

「……かつて我らの父祖は民を護る務めを忘れし国を捨て、自ら真の自由の護り手となった。これ即ちギルドの起こりである。しかし今や、圧政者の鉄の鎖は再び我らの首に届くに至った。我らが父祖の誓いを忘れ、利を巡り互いの争いに明け暮れたからである。ゆえに我らは、今一度ギルドの本義に立ち戻り持てる力をひとつにせん。我らの剣は自由のため。我らの盾は友のため。我らの命は皆のため。ここに古き誓いを新たにす」
「ねぇ……これって『ユニオン誓約』じゃない?」
「何よ、それ?」
「ドンがユニオンを結成した時に作られた、ユニオンの標語みたいなもんだよ」
「自分たちのことは帝国に頼らないで自分たちで守る。そのためにはしっかり結束し、お互いのためなら命もかけよう、みたいなことね」
「でも、なんでこんな所に誓約が書かれてるの?」

カロルが薄暗闇の中でレイヴンを見上げながら問う。

「ユニオンってのは、帝国がこの街を占領した時に抵抗したギルド勢力が元になってんのよ。それまでギルドってのは、てんでバラバラ好き勝手やってて問題が生じた時だけ団結してた。で、事が済めばまたバラバラ。帝国に占領されて、ようやくそれじゃまずいって悟った訳ね」
「そのギルド勢力を率いたのがドン・ホワイトホースなんだ!?」
「そそ。そん時、この地下水道も大いに役に立ったはずよ」
「じゃぁ、その時ここで結成の誓いを立てたって事なんだね」
「そういう事みたいね。確かに誓約書の実物がどこかにあるって話だったけど、こんな壁の落書きだったとはね」
「でも壁に書かれた誓約書って、なんとなくいいなって思っちゃうな。ロマンがあるというか、この街やここで生きてきた人の歴史を感じるよ」

見上げながらそう零したハルカの隣で、壁面に刻まれた文字を隈なく辿っていたエステルが下の方を見て驚いた風に声を上げた。

「ここ、アイフリードって書いてあります」
「あぁ、あの大悪党って噂の海賊王か」
「ドンが言うには一応、盟友だったそうよ。でも頭の回る食えない人物で、あのドンですら相手にすんのに苦労したってさ」
「それでも盟友とか言う辺り大した器のじいさんだな、ドンってのは」
「我らの命は皆のため、か……」
「これって要は、ひとりはみんなのために、みんなはひとりのためにって事だよね?久しぶりに聞いた、懐かしい」

カロルが自分に刻み込むように呟いたのを聞いて、ハルカは気付けばそう言ってしまった。エステルが酷く反応している。急に距離を詰め、逃がしてはくれなさそうな雰囲気で矢継ぎ早に質問してきた。

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ほたるび