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「あ、あの、何か間違えました?」
「いや、別にな……で、エステリーゼは、これからどうすんの?」

若干笑いを堪えながらユーリが問う。

「フレンを追います」
「追うって、行き先知ってるの?」
「先日、騎士の巡礼に出ると話していましたから……」
「あ〜、あれか。帝国の街を回って、善行を積んで来いってやつ」
「はい。だから花の街ハルルを目指します。騎士の巡礼では、最初にハルルへ行くのが慣わしですから」
「となると、結界の外か」

聞き慣れない言葉にハルカの口数が自然と減っていった。わからないのに知ったかぶって喋るのは自滅行為だし、聞きながらでも徐々に理解していけると思う。

「ユーリさんは、結界の外を旅したことあります?」
「少しの間だけならな。興味はあるけど、下町を留守にする訳にはいかないしね。オレも下町に戻るから、街の出口まで案内するよ」

そう言って自分ばかり先に行くユーリの背中に、エステリーゼは言った。

「ありがとうございます」

見失わないように、ハルカとエステリーゼは彼に駆け寄る。三人並んで歩きながら、ハルカは心が躍っていた。
ユーリが「戻る」と言った。つまりは、もうすぐアイナに会えるという事だ。早く会いたい。会って思いっきり抱き付いて十年分の思いをぶつけたい。そればかり思って歩いていると、市民街から下町へ続く坂を下ろうとした所で大きな声が響いた。城の中で散々聞いて厭きた三種類の声だ。

「そこの脱獄者!待つのであ〜る!」
「ここが年貢の納め時なのだ!」
「ばっかも〜ん!能書きはいいから、さっさと取り押さえるのだ!」

振り返って本人達を目にすると、ハルカは思わず吹いた。人を見て笑うなんて失礼なのはわかっているが、部下と思われるふたりの身長差やら体系やらが真逆すぎて笑える。

「ど、どうしましょう?」
「んなもん……こうすんに決まってんだろ!」

笑うハルカと焦るエステリーゼを尻目にユーリが、彼の大きな手に収まる大き目の石を手にして振りかぶった。どうやら投げるつもりらしい。
だが、その瞬間。

「ごがっ!」
「もふっ!」

こちらへ向かい走っていたひょろ長い男と、背が低く丸々としていて大きなボールみたいな男、ハルカが笑ってしまった原因にふたつの火球弾が襲いかかった。悲鳴にしてはおかしな声を上げて同時に倒れる。振りかぶって投げる気満々だったユーリが、火の飛んできた方を勢いよく振り返って、そして目を細め口角を上げた。その表情は嬉しそうにも見える。

「下町に逃げるぞ」

ハルカは何が起こったのか理解できないまま、少し様子の変わったユーリを追った。



「おお、ユーリ!どこに行っとったんじゃ!」

ユーリの姿を目にするなり怒鳴ったハンクスに歩み寄りながら、彼はいつもの調子で言ってのける。

「ちょいとお城に招待受けて、優雅なひと時を満喫してた」
「何をのん気な……」

ハンクスが深いため息を吐く。そこでやっと彼は、坂を下りきった所で遠巻きに見ていたハルカとエステリーゼの存在に気付いた。視線が向けられている事に気付いたふたりは小走りでユーリ達の所に行く。するとエステリーゼが丁寧にお辞儀をした。

「こんにちは、エステリーゼと申します」
「いや、こりゃご丁寧に」

ハンクスも軽く頭を下げて返すと、今度はハルカがエステリーゼにつられて頭を下げる。

「ハルカです」
「……ハルカ、じゃと?」

目を見開いて驚いたハンクスに、その反応に困惑するハルカ。どうして自己紹介しただけでそんな顔されるのか理解出来なかった。しかし、すぐに頭を切り替えたハンクスが深刻な表情でまたユーリを見た。

「いや、それよりも騎士団じゃよ。下町の惨状には目もくれず、アイナに詰め寄って探そうとしておったぞ。やはり騎士団ともめたんじゃな」
「ま、そんなとこだ。また心配かけちまったな……ラピードはアイナのとこ戻ってるか?」
「あぁ、ラピードがくわえておった袋ならアイナからもう受け取ったぞ。モルディオさんに会ったのか?」
「当人は逃げちまったけどな。アスピオって街の有名人らしいんだ」
「逃げた?という事は、やはりわしらは騙されて……」
「あぁ。家も空家だったし、貴族って肩書きも怪しいな」

予想はしていた事実を知ったハンクスが小さく「そうか」と呟く。ユーリはすっかり静かになった水道魔導器(アクエブラスティア)を見上げた。

「水道魔導器は」

その先は言えなかった。アイナが鎮めたのか確かめたいが、ハルカもエステリーゼも居るから最後まで言う事が出来ない。しかしハンクスには彼の訊きたい事が理解出来た。ゆっくり頷いて、それから少しだけ目を伏せる。

「魔核(コア)がなくては、どうにも動かん」
「残りの水で、しばらくは大丈夫だよな?」
「あぁ。じゃが、長くはもたんよ。後は腹壊すの承知で川の水を飲むしかないかの……」
「騎士団は何もしてくれねぇし、やっぱ泥棒本人から魔核取り戻すしかねぇな」
「まさか、モルディオを追いかけて結界の外に出るつもりか?アイナはどうするんじゃ」

ハンクスが睨むようにユーリを見た。連れて行くにしろ置いて待たせるにしろ、彼女が危険に晒される事に変りはない。ユーリの居ない下町で彼女を守り貫くのは非常に難しい。彼はそれをよく知っているはずだ。
ユーリは苦い笑いを浮べて、その問いに答えた。

「そうなったら一緒に行くって昨日言ってたよ。街の出口辺りでラピードと待ってるだろ。心配すんなよ。ちょっくら行ってすぐに戻ってくっから」

するとハンクスは意地悪く鼻で笑う。

「はん、誰がお前さんの心配なんぞするか。丁度いい機会じゃ、しばらく帰って来んでいい」
「はぁ?なんだよ、それ」
「お前さんが居なくても、わしらはちゃんとやっていける。前にフレンも言っておったぞ。ユーリはいつまで今の生活を続けるつもりなのかとな」
「余計なお世話だっての」

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ほたるび