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呪いの森として名を馳せるそこにユーリ達が足を踏み入れたのは、本日二度目であった。
未だ入り口付近に居る状態だから陽の光は差し込んでくるものの、この先に少しでも足を進めてしまえば昼間でも薄暗い。

飲み込まれそうな暗がりを目の前に、自ら進んで先頭を歩いていたカロルが不意に歩みを止めて振り返った。ユーリとエステルを見上げ交互に視線を送りながら「ねぇ」と声をかける。

「疑問に思ってたんだけど、ふたり……アイナとラピードもなんだけど、なんで魔導器(ブラスティア)持ってるの?普通、武醒魔導器(ボーディブラスティア)なんて貴重品持ってないはずなんだけどな」
「カロルも持ってんじゃん」

そう言ったユーリのまとう空気が僅かに変った気がして、ハルカは彼を横目で見た。しかし、それに気付いたのは彼女だけだったらしく、当の本人もハルカの視線に気付かないふりをしている。

「ボクはギルドに所属してるし、手に入れる機会はあるんだよ。魔導器の発掘が専門のギルド、遺構の門(ルーインズゲート)のおかげで出物も増えたしね」
「へぇ、そんなギルドまであるんだ」
「うん。そうでもしなきゃ帝国が牛耳る魔導器を個人で入手するなんて無理だよ」

そうなのか、と頭の中にまた小さくても新しい情報を書き記す。けれど、なぜ帝国なる国は魔導器を牛耳ったりするのだろうかとハルカは疑問に思った。すると、彼女の心中を察したかのようにエステルが説明を始める。

「古代文明の遺産、魔導器は有用性と共に危険性を持つため帝国が使用を管理している、です。魔導器があれば危険な魔術を誰でも使えるようになりますから、無理もない事だと思います」
「やりすぎて独占になってるけどな」
「そ、それは……」

俯いて言葉を濁すエステルには悪いが、ハルカはそれなら帝国側にも問題があると思った。何事もやりすぎはよくない。少なからず何に関しても賛否は存在するだろうし、だからこそ何事も適度にできれば一番いいのだけれど、それを見極めるは酷く難しい事なのだ。

「で、実際のとこどうなの?なんで持ってんの?」

カロルによって元に戻された話題にユーリが小さくため息を漏らす。それから、少し面倒臭そうに答えた。

「オレ、昔騎士団に居たから辞めたせん別に貰って、余分に貰った分をアイナあげたの。ラピードのは、前のご主人様の形見だ」
「せん別って、それ盗品なんじゃ……えと、エステルは?」
「あ、私は……」
「エステルは貴族のお嬢様だもん。魔導器くらい持ってるでしょ」

どこか困ったように言葉を選びながら話そうとするエステルを、ハルカが遮って言う。驚いたエステルの視線が刺さって、ハルカは横目で彼女を見ると小さく微笑んだ。
エステルは会ったばかりの頃から自分の事をあまり話したがらなかったし、その辺りは深く追求して欲しくないのだろう。そう感じたからこそ、ハルカは割って入った。

「あ、やっぱり貴族なんだ。エステルには品があるもんね」
「馬鹿言ってねぇで、さっきんとこにニアの実取りに行くぞ」

納得したらしいカロルの頭を軽く小突いて、ユーリが奥へ進んでいく。彼が歩くと間もなくラピードも寄り添うように進み、そんなふたつの後ろ姿をカロルが慌てて追いかけた。
するとエステルがハルカの手をそっと握り、小さな声で囁く。

「ありがとうございました、ハルカ」
「いいって。あたし達も早く行こう」

笑みを浮かべて言うと、そのまま手を繋いでユーリ達の後に続いた。

独特の雰囲気を漂わせる森の中を奥へ奥へと進んでいく。アイナとエステルがエアルに酔い倒れた際に休んだのと同じ場所で、ふたつの木の実を見つけた。その木の実は、たったひと口でもの凄い苦味が口内いっぱいに広がったのと同じ物だ。ユーリがそれらを拾う。どうやらあの苦い木の実が「ニアの実」なる物らしい。

ルルリエの花弁はアイナが探しているから、残るはエッグベアの爪だ。

「森の中を歩いて、エッグベアを探すんです?」

エステルがそう尋ねると、カロルは首を小さく横に振ってそれでは見付からないと言う。

「なら、どうすんだ?」
「ニアの実ひとつ頂戴。エッグベアを誘い出すのに使うから。エッグベアはね、かなり変った嗅覚の持ち主なんだ」

言われた通りにユーリの投げて渡したニアの実をしっかりキャッチすると、カロルはその場にしゃがみ込んだ。するとラピードが隻眼を細めて後退り、カロルから一番距離のあるハルカの背後に来る。

「ラピード?どうしたの?」

ハルカが屈んで声をかけるがラピードは一点を見詰めたまま、どこか怯えたように下がるだけ。なんとなく彼の視線を追ってみると、辿り着いたのはカロル……が持っているニアの実だった。これから起こる事を恐がっているのだろうかとも思ったが、なんだかラピードらしくない気がする。

この世界には「ライター」という点火するのに便利な物がないというのに、カロルは手際良くニアの実に火を点けた。途端に広がる酷い異臭が鼻を強く刺激する。すぐに自分の鼻を手で覆い、少しでも臭いが来ないようにするが、気休めもいいところだ。

「臭っ!!お前臭っ!」
「カロル臭い!」
「ちょ、ボクが臭いみたいに!」

ユーリとハルカが鼻を摘まんだまま後退りながらカロルに言う。カロルが近付いたのと同じだけ、ユーリ達が後ろに下がった。

「先に言っておいてください」

そう言いながら両手で鼻を覆うエステルが、珍しく眉間に皺を寄せている。あまりの臭さにラピードが倒れ込んでしまった。彼は生物学上、人間よりも数段嗅覚に優れている犬なのだ。人間の鼻でも相当この臭いはきついのだし、犬であるラピードの辛さは計り知れない。
というか、この臭いは言葉で表現してはいけない気がした。ただでさえ思い出として一生、鮮明に残りそうなのに、臭いまでこびり付いてしまいそうだ。

「みんな警戒してね!いつ飛び出してもいいように。それにエッグベアは凶暴な事でも有名だから」
「その凶暴な魔物の相手はカロル先生がやってくれるわけ?」
「やだな、当然でしょ。でも、ユーリも手伝ってよね」
「私もお手伝いします」

悔しかったが、ハルカには手伝うなんて言えなかった。戦う術は揃っていても、それを生かすだけの技術も経験もない。そんな自分が戦闘に参加するという事は、ユーリ達の足を引っぱるどころか余計な危険に晒してしまう可能性があるという事だ。

それがわかっていて軽々しく無責任な事は言えない。そう思いながらも、ハルカは不甲斐なさを押し殺して笑った。

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ほたるび