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「カロル、任せた。面倒なのは苦手でね」
「え?いいの?じゃぁ、ボクがやるね!」
ユーリから手渡されたパナシーアボトルを大事そうに抱えたカロルが前へ出て根本に一層近付いてしゃがみ込む。
「カロル、誰かにハルルの花を見せたかったんですよね?」
「たぶんね。手遅れじゃなきゃいいけど」
小さな背中を見つめながらエステルとハルカがそんな会話を交わしていると、カロルは土の変色した部分にパナシーアボトルの蓋を開けて中の液体を振りかけた。すると、樹が光を放ち始める。
「お願いします。結界よ、ハルルの樹よ。蘇ってくだされ」
ルルリエの花弁を渡してくれた老人がそう祈りを捧げた。しかし、程なくして光は何事もなかったかかのように消えてしまう。
「そ、そんな……」
「嘘、量が足りなかったの?それともこの方法じゃ……」
誰もが項垂れた。唯一の希望が失われてしまった。絶望してしまった人々を励ますように響く歌声も、今はなんだか空しく感じる。
ただエステルだけが、まだ諦めてはいなかった。
「もう一度パナシーアボトルを!」
「それは無理です。ルルリエの花弁はもう残っていません」
「そんな、そんなのって……」
花弁を分けてくれた老人がそう言って力なく首を横に振ると、エステルは再び樹を見上げる。
「……お願い」
そう呟いてエステルが祈り始める。すると彼女の体が淡い光を帯び始め、周りに光の粒子が現れた。歌がより強くなる。
「咲いて」
――咲いて
エステルの声にもうひとつ、微かだけれど音が重なった。ハルルの樹に閃光が走り、辺り一面に光の粒子が飛び交い舞う。樹は見る見るうちに生気を取り戻し、葉をつけて花を開いた。薄い桃色の花を着飾ったその樹は、ハルカのよく知る桜に酷く似ている。そして何より月明かりに祝福される姿が酷く美しくて、彼女は言葉を失った。その隣でカロルが「すごい」と声を漏らす。
奇跡のような出来事に驚愕し固まるが、その驚きが次第に歓喜となり、ハルルの住人達の表情が明るくなっていった。
力を使い果たしてその場に座り込むエステルを子ども達が囲んで嬉しそうに飛び跳ねる。感謝の言葉が彼女に降りかかる中、当の本人は状況が掴めないのかキョトンとしていた。
「わ、私、今何を……?」
「すごいね、エステル。大丈夫?立てる?」
ハルカに声をかけられると、短く返事をしてゆっくりと立ち上がる。そのやり取りの隣ではカロルがユーリに近付き、手を掲げていた。
「ユーリ」
呼ばれて彼を見下ろすと、その意図を察してハイタッチを交わして笑い合う。それから美しく咲くハルルの樹に視線を移すと独り言のように言った。
「フレンのやつ、戻ってきたら花が咲いててビックリするだろうな……ざまぁみろ」
「ユーリとフレンって不思議な関係ですよね」
「確かに。友達なんじゃないの?」
「ただの昔馴染みって……」
突然に言葉を止めたユーリを不審に思って彼の表情を窺うとするが、その前に動かれてしまった。
ユーリは両腕をいっぱいに伸ばす。まるで空から落ちてくるものを受け止めようとしているように見えた。何事かと困惑していると、その腕の中に人が納まる。受け止めた衝撃に座り込みそうになったものの、なんとかその場に踏み止まった。
ユーリの腕で横抱きに受け止められたのは、紛れもなくアイナだ。彼女の顔色を窺うと、その青白さにユーリは眉を寄せる。
薄っすらと目を開いたアイナは、憂いを孕んだ瞳で自分を見つめる彼の頬に触れて小さく微笑んだ。するとユーリが、彼女の額に自分のそれをコツンと合わせる。
「……心配した」
「うん……ごめん」
眉を寄せているユーリの唇にそっと自分の唇を重ねて「ありがとう」と呟く。
無理矢理に微笑むとアイナの腕が首に巻き付き、引き寄せられた。彼女の体温をもっと鮮明に感じたくて、ユーリは目を閉じる。
問いたい事は山のようにあった。
かけたい言葉もたくさんあった。
けれど、ハルカもエステルもカロルも。何も声にできなくなった。
今、ふたりの邪魔をしてはいけない……――そんな気がした。
to be continued...
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