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「あの子を調べたら自立術式が解析出来たのに!」
リタが怒ってそう言えば、たまたま隣を走っていたカロルがしかめっ面をする。まさか、と彼は口を開いた。
「そのためにボクらを戦わせたの?」
「当たり前でしょ」
「極悪人だよ!」
「泥棒探しのついでに手伝って貰っただけよ」
酷い、とまたカロルが叫ぶ。
イライラと、イライラと。新しい手がかりを掴めるかもしれないユーリのそれが、珍しく声を荒げさせた。
「口じゃなく足使えよ!!」
ユーリの一喝で更に全速力で足を動かした一行は、遺跡内部の入り口付近で魔物に囲まれているローブの人物を発見した。背丈からしても、おそらく先程の彼で間違いない。
その彼を取り囲む魔物に向かってユーリが剣を振り上げて衝撃波を飛ばせば、ラピードが鋭い突進から体当たりを繰り出す。
アイナが走りながら詠唱しているのを耳にして、ハルカも走りながら引き鉄を絶え間なく引いて援護した。
「闇の微笑みを……スプレッドゼロ!」
アイナの声に反応して深い闇が一点に集中し、爆発を起こす。タイミングよく放たれたハルカの弾丸が、その爆発に飲まれている魔物に当たったらしく、痛々しい咆哮が聞こえた。どうやら彼を取り囲んでいた魔物を蹴散らせたらしい。
ユーリ達は、逃げる間を与えずに彼を囲った。ローブ越しにも彼の動揺が感じられる。
「魔核(コア)盗んで歩くなんて、どうしてやろうかしら……」
意地の悪い笑みを口元に湛えながらリタが指を鳴らした。男の唇から抑えられなかった恐怖が短い悲鳴となって零れる。
あんまり怯えてちょっと面白いので、ハルカは勢いよく彼の片腕を掴んで背中の方に回した。おそらく男女の差だ、相手がその気になればすぐ抜け出せるはず。けれど彼は、余計に怯えて縮こまるだけで抵抗らしい抵抗もない。
「や、やめて、もう、やめて!俺は頼まれただけだ……魔導器(ブラスティア)の魔核を持ってくれば、それなりの報酬をやるって」
半べそをかきながら彼がそう白状し始めれば、意地の悪い笑みを浮かべるもうひとりの人物が居た。他でもないユーリである。突然親しげに肩を組んで顔を寄せれば、彼はまた悲鳴をあげる。
「お前、帝都でも魔核盗んだよな?」
「帝都?お、俺じゃねぇ!」
「お前じゃねぇって事は、他に帝都に行った仲間が居るんだな?」
「あ、あぁ!デ、デデッキの野郎だ!」
「そいつはどこ行った?」
「今頃、依頼人に金を貰いに行ってるはずだ」
「……どこのどいつだ?」
「ト、トリム港に居るってだけで、詳しい事は知らねぇよ。顔の右に傷のある、隻眼で馬鹿に体格のいい大男だ」
「そいつが魔核集めてるって事かよ……」
重い息を零して、ユーリが彼を解放する。深い、深い安堵の息を漏らした彼を見ていると、なんだかどちらが悪いやつなのかわからなくなってきてしまう。今度はリタが、彼の襟を掴かみ上げた。
「ソーサラーリングもどこかで盗んだのね」
「ぬ、盗んでなんていねぇ!仕事の役に立つって依頼人に渡されんだ!!」
「嘘ね。コソ泥の親玉なんかに手に入れられるものじゃないわ」
「ほ、本当だ!信じてくれよ!」
「なんか話が大がかりだし、すごい黒幕でも居るんじゃない?」
「カロル先生、冴えてるな。ただのコソ泥集団でもなさそうだ」
「そうだね……帝国の政治に関わるような人でないと、ソーサラーリングを泥棒に渡すなんて事、出来ないだろうし」
「や、やだなぁ、怖い冗談言わないでよ、アイナ」
「ん?こんな事、冗談で言ったりしないよ。あくまで可能性だけど、絶対ないとは言えないしね。それに、私はその可能性の方が高いと思うの。帝都の魔核のほとんどが盗まれてるのに騎士団が動く気配もないしね」
アイナの言うひとつの可能性の話に、彼なりに信憑性を感じたのだろう。身震いをして、それからアイナの服にしがみ付いた。その様子に苦笑いして、彼女はカロルの髪を撫でる。くすぐったくて、でも気持ちよくて目を閉じたカロルは、照れ臭そうに笑った。
なんだか穏やかになり出した空気を壊すように、突然ローブの彼は酷くイラ立った声を発した。
「騎士も魔物もやり過ごして奥まで行ったのに!ついてねぇ、ついてねぇよっ!」
「騎士?やはり、フレンが来てたんですね」
「あぁ、そんな名前のやつだ!くそー!あの騎士の若ぞ」
「うっさい!!」
言葉を遮ったリタはフードの奥にある彼の顔を、その小さな拳で思いっきりぶん殴った。とても痛そうだ。彼はそのまま、動かなくなってしまった。
どうやら彼は気絶してしまったらしく、その場に崩れ落ちた。意外に打たれ弱いらしい。しゃがみ込んだカロルが、彼を指で突いて確認している。
「リタ、気絶しちゃったよ……どうすんの?」
「わざわざ運ぶのも手間だよねぇ」
カロルと一緒になって、そんな風に言いながらハルカも突いてみる。やっぱり気絶しているみたいだ。はぁ、と息を吐いたリタは、自らの腰に片手を置いて目を細める。
「そんな面倒臭い事しないわ。後で町の警備に頼んで、拾わせるわよ」
テキパキと、縄を取り出したアイナが気絶している男を縛り上げていく。それを見たユーリが「そんなもんまで持ってきたのかよ」と驚けば、アイナは自慢げに頷いた。まぁ備えあれば憂いなしと言うし、どこから出したのかとかそんなの気にせずに準備がいいな、という事にしておこう。
縛り終えたアイナの腰にいつも通り腕を回して引き寄せたユーリは、いつも通り彼女とラピードを携えてアスピオへ向けて足を進め始めた。
まだまだ外の陽は高いというのに、アスピオはやっぱり薄暗くて湿っぽい。その空気の中に、エステルは落胆しながらひとつ息を零した。
「……肝心のフレンは、居ませんでしたね」
あくまでエステルの目的は、フレンに身の危険を知らせる事。まるで彼に逃げられているみたいに会えなくて、焦る気持ちばかりが募るのだろう。彼女が落ち込むのも仕方がない。そんな、肩を落としているエステルへ質問を投げかけたのは唯一フレンを全然知らない、リタだった。
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ほたるび