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「その騎士、何者なの?」
「ユーリとアイナのお友達です」
「ふ〜ん、あんた達の友達ね。それは苦労するわ」
そうは言うけれど、リタの視線は背の高い黒だけを捕らえている。それに気付いたユーリが少し眉を寄せて不服そうに言う。
「なんだよ?」
「別に。で、なんでそいつがこの街に居るの?」
「ハルルの結界魔導器(シルトブラスティア)を直せる魔導士を探しに向かったと、ハルルで聞きました」
「あぁ、あの青臭いのね……あたしのとこにも来たわ」
「フレン、元気そうでした?」
「元気だったんじゃない?」
「うっわ、適当……」
思わずそう零したカロルの頭に、リタの拳が降り注ぐ。痛みに身悶えるカロルを無視して、リタはエステルを見上げて話を続けた。
「騎士の要請なら他の魔導士が動くだろうし、もうハルルに戻ったんじゃない?」
そんな、と呟いたエステルがまた俯く。ハルカは頭の端っこでなんとなく考えていたけれど、まさか本当に入れ違いになっていたみたいだ。
ハルカは落ち込むエステルの手を握ってあげた。ありきたりな言葉しかかけられない自分の脳みそでは、かえってエステルに気を遣わせてしまうかもしれないと思って。だから手を握るだけで、何も言わなかった。
「で?疑いは晴れた?」
今度はユーリに向き直ったリタが、彼を真っ直ぐ見たままそう尋ねる。リタを少しでも弁護しようと思ったのだろう。エステルの唇が開いて、けれど音が出る事はなく閉じられる。そうした彼女の視線の先に、ユーリの隣で穏やかな微笑を湛えたアイナが、人差し指を立てて唇に当てていた。
大丈夫。彼女の表情は暗にそう語っている。だからエステルは口を挟むのをやめたのだと理解出来た。
「あのくらいで疑いが晴れるかどうか、自分でもよくわからない。けど、ほんとにやってないから」
「ま、お前は泥棒よりも研究の方がお似合いだもんな」
「通訳すると、もう疑ってないよって。わかり悪くてごめんね。ユーリって素直じゃないから」
口角を上げているユーリの隣でアイナが眉を八の字にして言う。彼女の言葉で自分の疑いが晴れた事を理解したリタは、ふっと少しだけ、少しだけ穏やかに笑った。
「……変なやつ。警備に連絡して来るから、先にあたしの研究所戻ってて」
「って言われても、あの怖いおじさん達が通してくれるかどうか」
「そうね、これ持ってって」
リタは懐から何かを取り出すと、それをユーリに投げ渡す。しっかりユーリの手に渡ったそれを指差して、彼女は続けた。
「それ見せれば、通れるから」
「サンキュ」
「いい?あたしの許可なく街出たら、酷い目に遭わすわよ」
ビシッ!という効果音が似合う動作でユーリを指差して言い残し、走り去る。置いて行かれてしまったユーリ達は、仕方ないと彼女の言う通りに研究所へと向かった。
部屋へ入るなりユーリが適当な場所に腰を下ろして落ち着くと、その隣にアイナが座って、彼女の太股にラピードが頭を乗せて目を閉じた。彼女とは反対側の、ユーリの隣を陣取ったカロルは少し満足げに笑む。
ただエステルは落ち着かないようで、部屋の中をあちこち動き回っていた。しかし焦っても仕方がないので、ハルカは彼女の手を掴んで引っ張り、半ば強制的に座らせる。腰を落ち着けたら少しは気持ちも落ち着いてきたらしく、エステルの唇から長く息が零れ肩の力が抜けていったのが繋いだ手からハルカに伝わった。
ねぇ、と足を伸ばしながらカロルがユーリを見上げる。
「ユーリは、この後どうするの?」
「魔核(コア)の黒幕のとこに行ってみっかな。デデッキってやつも同じとこ行ったみたいだし」
「だったら、ノール港まで一直線だね!」
「トリム港って言ってなかったか?」
「ユーリ、知らないんだ」
「知らないって何を?」
どうやら本当に知らないらしい様子のユーリに嬉しくなったカロルは、それはそれは嬉しそうに説明を始めた。
「ノールとトリムは、ふたつの大陸に跨ったひとつの街なんだよ。このイリキア大陸にあるのが、港の街カプワ・ノール。通称ノール港。お隣のトルビキア大陸には、港の街カプワ・トリム。通称トリム港ってね。だから、まずはノール港なの。途中エフミドの丘があるけど、西に向かえばすぐだから」
「へぇ、あたしも知らなかった。大陸違うのにひとつの街とか変わってんね。あ、エステルは、これからどうするの?」
「私は、ハルルに戻ります。フレンを追わないと」
ハルカに尋ねられ、はっきり答えるエステルの表情にあるのは焦りではなく、憂いだった。すると、それを見たアイナがラピードの頭を撫でる手をそのままに、ユーリを見上げて言う。
「私達も、一旦ハルルの街に戻ろっか」
「ん、そうだな」
「え?なんで?そんな悠長な事言ってたら、泥棒が逃げちゃうよ!」
「慌てる必要ねぇって。あの男の口ぶりからして、港は黒幕の拠点っぽいし。西行くならハルルの街は通り道だ」
「それに、入れ違いになったフレンがハルルで私達の話を聞いて、走り書きか手紙か、メッセージを何かしら街の人に預けてると思うの」
「え〜、でもぉ……」
まるで拗ねるみたいに、カロルは唇を尖らせる。そうすればユーリは、からかうみたいに口角を上げた。
「急ぐ用事でもあんのか?好きな子が不治の病で、早く戻らないと危ないとか」
「そんな儚い子なら、どんなに……」
そう言って、カロルは重い息を吐き出した。言い方から察するに、彼の急ぐ理由は「好きな子」にあると思って間違いないだろう。それも儚い子、ではないらしい。会話が途切れてしまった。しかし、まるで見計らったみたいに扉が開いて、その向こうにリタが立っていた。彼女はこちらを見て、呆れた表情をする。
「待ってろとは言ったけど……どんだけくつろいでんのよ」
「あ、おかえりなさい。泥棒の方はどうなりました?」
「さぁ。今頃、牢屋の中でひ〜ひ〜泣いてんじゃない?」
リタは適当に言ったけれど、ハルカには彼のそんな様子が想像出来て少し笑った。そんなハルカの横をすり抜けてリタの真正面に立ったユーリは、いつもと変わらない調子で口を開く。
「疑って悪かった」
「軽い謝罪ね。ま、いいけど。こっちも収穫あったから」
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ほたるび