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その背中に訴えるように、しかし弱音みたいに小さな音がリタの唇から奏でられる。
「無茶もしたいわよ。やっと見付けた手がかりなんだから……――」
嘆きにも似たそれは、誰の耳にも届かなかった。
街の入り口が見えてくると、ユーリとリタは眉を寄せた。ほんのひと間で状況を理解する。
ハルカとアイナ、ラピードが背に庇い、エステルはカロルと並んで立ち困惑していた。前に立つ女性ふたりと犬一匹は己が武器を抜き構えている。
彼女達が対峙しているのは、三人の騎士だった。それもルブランとアデコール、そしてボッコスという名前の、ユーリがよく知る騎士だった。
ルブランと目が合う。ユーリに気付いた彼は、その顔に怒りで染めた。
「ここで会ったが百年目……ユーリ・ローウェル!そこになお〜れぇ!」
「今回は馬鹿にしつこいな」
「昔からのよしみとはいえ、今日こそは容赦せんぞ!」
いつも容赦しないだろ、と言いたいが面倒臭いので止めた。代わりに彼の口から出てくるのは、酷く重い、重いため息である。声が大きくて耳が痛い。
エステルは誤解を解きたかった。だからこそ叫ぶ。
「ユーリは悪くありません!私が連れ出すように頼んだのです!!」
しかし、それは逆効果になった。ルブランは更に怒る。
「えぇい、おのれユーリ!エステリーゼ様を脅迫しているのだな!」
「違います!これは私の意志です!必ず戻りますから、あと少し自由にさせてください!!」
「それはなりませんぞ!我々とお戻りください!」
「戻れません。わかってください!」
エステルが必死になれば、なる程に彼女の意思とは反した方向へ話が進んでしまう。それは、エステルにとって痛い程苦しくて辛い事だった。彼女の翡翠のように美しい瞳に涙が溢れる。
その一方で、恋人にありもしない罪を擦り付けられたアイナの、まとう空気が怒りに染まり始めた事に気付いたのは、ユーリとラピードだけだった。
エステルの涙を見て怒ったのだろうか。リタが魔術の詠唱を始めた。
「戻らないって言ってんだから、さっさと消えなさいよ!」
怒号と共に放たれた複数の火球弾が、真っ直ぐにルブラン達を襲う。彼らが吹き飛ばされる様子を目で追っていたハルカが、ついでに嫌なものを視界に捕らえてしまった。
高台に黒装束の男達――あのザギとかいうやつらだ。目が合ってしまった。こっちへ、来る。ハルカはユーリを呼んで、あの男達の方を指し示す。彼はそれだけで理解してくれた。何度目だかわからない。重苦しいため息の音が聞こえた。
当然ながらリタとカロルが状況を理解出来ず戸惑っている。そんなふたりを、剣を鞘に戻したアイナが宥めていると、ユーリが小さな声でカロルを呼んだ。吃驚したカロルの肩が跳ねる。
「ノール港ってのは、どっちだっけ?」
「え、あ、西だよ、西。エフミドの丘を越えた先に、カプワ・ノールはあるんだ」
自分はどうすべきか、エステルはこんな状況になっても決められずに目を泳がせていた。
ハルカ、アイナ、そしてリタ。友達と呼べるようになった初めての人達へ、視線で助けを求める。それに気付いていても、ハルカもアイナも何も言わなかった。それは自分以外の誰かに答えを貰うべき事ではないと理解していたから、ふたりはエステルの決断を待つ。
しかし、リタは痺れを切らした。
「あ〜もう!!決めなさい。本当にしたいのはどっち?旅を続けるのか、帰るのか」
本当にしたい事。そういう風に問われてみると、エステルの心は非常に素直だった。
帰るという言葉をエステルの全部が拒絶している事に、彼女自身が気付く。それを自分で決めてもいい事が嬉しかった。
「今は、旅を続けます」
「賢明な選択ね、あの手の大人は懇願したってわかってくれないのよ」
不敵に、そして満足そうにリタは笑った。エステルの決断を待っていたのだろう。ハルカやアイナと一緒にユーリの口角も上がっていた。
そして、彼はルブランと改めて対峙する。ニヤリと笑っているユーリは胸を張って、声を張った。
「騎士団の心得ひと〜つ!!その剣で市民を護る。そうだったよなぁ?」
「その通り!!いくぞ騎士の意地を見せよ!!」
どう見てもユーリ達を襲おうとしている怪しい男達にルブランが剣を抜けば、アデコールとボッコスもそれに続く。彼らはユーリを追ってくる黒装束の男達に、その刃と共に立ち向かってくれた。
その隙にユーリ達は揃ってハルルの街から走り去る。エステルの小さな謝罪の言葉だけが、街に落ちた。
to be continued...
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