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ユーリ達はハルルから少し西に存在するエフミドの丘に辿り着いた。ハルカの故郷も自然が多くキレイな丘のある所だったが、ここはそれ以上に緑が溢れており木の匂いが鼻に心地いい。思いっきり息を吸い込むと懐かしさで胸が埋まる。ワクワクしてきたハルカは、くるりと振り返ってカロルを見た。
「カロル、ここがエフミドの丘?」
「そう、だけど……おかしいな、結界がなくなってる」
「ここに結界があったのか?」
「うん、来るときにはあったよ」
今度はユーリを見上げながらカロルが答える。するとリタが腕を組んで眉を寄せた。
「あんたの思い違いでしょ。結界の設置場所は、あたしも把握してるけど知らないわよ」
「リタが知らないだけだよ。最近設置されたって、ナンが言ってたし」
「ナンって誰ですか?」
「え?え、えっと……ほ、ほら、ギルドの仲間だよ。ボ、ボク、その辺で情報集めてくる!」
「あたしも、ちょっと見てくる」
目を輝かせて尋問並みの質問をかましかねないエステルから、適当な理由を付けて逃げるカロル。気になる物でも見付けたのだろう。リタも走って奥の方へ行ってしまった。それを見てユーリがため息を零すと、隣でアイナが苦く笑う。
「ったく、自分勝手な連中だな。迷子になっても知らねぇぞ」
「私達も行こう?」
その場から少し奥へ進むと、壊れた魔導器(ブラスティア)が道を塞いでいる。数人の騎士や魔導器の技師がそれを囲んでおり、リタは迷いもなく壊れた魔導器に近付いていた。部外者は立ち入り禁止だと言われれば名乗り、上へ話を通すまで勝手をしないでくれと頼まれても無視して調べている。
一歩引いた所でそんな光景を眺めていると、ユーリが魔導器を調べ続けるリタの背を見詰めながら呟いた。
「あの強引さ、オレもわけて貰いたいね」
「ユーリには必要ないかと、思うんですけど……」
「奇遇だね、エステル。あたしもそう思うよ!」
「うん、そうだね。私もそう思う」
「ワフ」
「お前ら……」
ラピードすらエステルに同意するような様子で鳴いて、ユーリは酷く不服そうに眉を寄せる。その様子に三人で顔を見合わせてクスリと笑っていると、カロルが興奮した様子で戻って来た。両手をぎゅっと握って拳を作ったまま声を張る。
「みんな聞いて!それが一瞬だったらしいよ!槍でガツン!魔導器ドカンで!空にピューって飛んで行ってね!」
「……誰が何をどうしたって?」
「竜に乗ったやつが!結界魔導器(シルトブラスティア)を槍で!壊して飛び去ったんだってさ!」
「人が竜に乗ってか?んな馬鹿な」
「そんな話、初めて聞きました。本当に居るんですね、竜騎士って」
エステルが少し嬉しそうに言う。それに首を傾げたのはハルカと、カロルだった。アイナは一瞬肩をビクリとさせるが、それだけで。隣に居るユーリはからかうみたいに笑っていて、ラピードは欠伸をひとつ。エステルもカロルも彼らのそんな様子には気付かなかったが、ハルカは居心地の悪そうなアイナを見て、なんとなくわかってしまった。
しかしハルカは、わかった直後に少し意地悪な気持ちが込み上げて来てしまう。緩みそうになる頬に心中で叱咤しながら、エステルにその言葉の意味を問う事にした。
「エステル、それどういう事?」
「私が一番大好きな作家の作品に、騎士異聞伝という様々な騎士達の様々な正義が書かれた本があるんです。その中に、竜と共に生き戦う竜騎士と呼ばれる凛とした女性が登場して……彼女は槍で扱いますし、本当に似ています!感激です!夢のようです!会ってみたいです!」
「エステルは、その本が好きなの?」
「はい!騎士異聞伝に限らず、あの方の作品は全て大好きです!ひとつひとつの表現や言葉がとてもキレイで……本の最後に必ず綴られている言葉も、もう本当に大好きです!」
エメラルドのような瞳を輝かせて語るエステルが、どこからともなく取り出した一冊の本を胸に抱える。すると、ついさっきまで興奮していたカロルが呆れたみたいに目を細めた。
「……エステル、その本どっから出したの?」
「お城から持ってきました!」
「いや、そうじゃなくて……まぁ、いいや」
まるでエステルにさっきまでの興奮を根こそぎ取られたみたいに、ガックリと項垂れるカロル。そんな彼の様子と瞳を輝かせて熱く語るエステルと、それから目を泳がせているアイナと笑いを堪えているユーリと。ハルカは、それら全部に込み上げてくるものを必死に堪えてキレイに笑った。
「その人の本、エステルはすっごい好きなんだね」
「はい!帝都に住んでいる方らしいので、一生に一度は絶対に会いたいです!!」
「そ、そんなに!?」
思わず声を出してしまったらしいアイナがそう言い、隣でユーリが肩を震わせて笑う。するとエステルは流石に何か察したらしく、アイナに詰め寄って行こうとした瞬間だった。
「ちょっと、放しなさいよ。何すんの!?」
リタの叫ぶような声が聞こえて、壊れた魔導器のある方へ視線を向ける。そこには何をやったのか、リタがふたりの騎士によって両腕を背中で拘束されていた。カロルが騒ぎを起こしていると呆れるが、リタは捉えられていても眉を吊り上げて主張を続けている。
「この魔導器の術式は、絶対おかしい!」
「おかしくなんてありません。あなたの言っている事の方がおかしいんじゃ?」
「あたしを誰だと思ってるのよ!?」
「存じています。噂の天才魔導士でしょう。でも、あなたにだって知らない術式のひとつくらいありますよ!」
「こんな変な術式の使い方して、魔導器が可哀想でしょ!」
技師と口論するリタは、声を荒げたのと同時に拘束された腕を振り解いた。騎士や技師達が阻止しようとしているのも構わずに、彼女はまた魔導器を調べ始めている。すると技師のひとりが、壊れた魔導器を挟んで向こう側に立って見張りをしているらしい、ふたりの騎士に捕まえるのを手伝えと苛立たしげに叫んだ。
そうすると合計、四人の騎士がリタの周りに集まって来る。カロルが咄嗟に山火事だと嘘を叫ぶけれど、そのような音も臭いもないのであっさり嘘だと知れてしまった。慌てたカロルが踵を返して逃げ出すと、リタを取り囲んでいた中の三人騎士達はカロルを追い始める。その中のひとりが、ユーリとアイナの前を通り過ぎようとして足を止めた。
「お前達、確か手配書の……」
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ほたるび