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「確かに……でも、あたしは魔物出る方が旅してる!って感じでいいなぁ。危ないけどさ」
「……あんた変わってるわね」
「そうかな?だって何事もさ、楽しまないと損じゃん。それにほら、急がば回れっても言うし」
「ふふ、ハルカらしいね」

歩きながらそんな話をする。微笑んで「らしい」と言ってくれたアイナは、会話に参加しても抜かりなく、辺りを見回しながら警戒を怠っていなかった。
アイナをハルカとエステルに取られて拗ねているユーリとラピードが、先頭を歩いている。カロルはそんなユーリの隣、いつもアイナが立つ場所に居た。リタは彼らの後ろ、ハルカ達の前をひとりで歩いている。

そもそも前を歩いていても後ろを歩いていても、間はあまり開けないようにしているので並びなんて大した問題じゃない。が、それは後姿から不機嫌さを滲ませるユーリとラピード以外の話だけであって、彼らにとってはそうでもないらしかった。

しかしそんな事、ハルカにとってはどうでも良かった。ラピードには悪いなと思ったが、それでもハルカは、自分ばかりアイナを独占するユーリがやっぱり羨ましくて。十年もの間探し続けた親友が目の前に居るのに全然話せなくて、不満なんだ。ユーリだって少しくらい、我慢すべきではないか。

訊かれたくないだろう、真面目な話はしなかった。代わりに、別にどうでもいいような他愛ない事ばかり話して笑った。それは料理の話だったり、下町の話だったり、ユーリとの惚気話やフレンの話だったり。

そうやって楽しく獣道を進んで行くと、途中で背の高い花を見つけた。カロルより高く、ハルカやリタと同じくらいの真っ赤な花は、向日葵に似ているように一瞬思ったが、そうでもない。

「山の中じゃ、こんな花咲くんだ」

感心したようにリタが呟き、花弁にその手を伸ばした。するとエステルは触ったらダメだと叫び、寸の所で止める。彼女が触れる前に止められた、とエステルが安堵の息を漏らしてから説明を始めた。

「ビリバリハの花粉を吸い込むと目眩と激しい脱力感に襲われる、です」

ふ〜ん、と言いながら静かにカロルの背後に回ったリタは突然、花へ向けて彼の背中を思いっきり押した。一応「あ、ごめん」と言って偶然を装うリタだが、どう見ても不慮の事故ではない。目眩と激しい脱力感の効果があるというビリバリハの花粉を吸い込んでしまったカロルは、足元をふらつかせ立っている事も叶わなくなってしまった。

座り込む、と言うよりは尻餅を着いた形に近い状態のカロルに慌てて駆け寄り、エステルは治癒術を施す。その様子を真剣な瞳で見詰め始めたリタは、何か思案し始めたみたいだった。するとリタの隣に立ってユーリが問う。

「治癒術に興味あんのか?」
「……別に」

都合の悪い質問だったのだろうか、それとも単純にユーリをあまり好ましく思っていないのだろうか。定かではないが、リタは素っ気ない返事をするとその場を離れてハルカの隣に立った。それから顔を逸らしたリタを、ユーリが横目で見ている。
そんなふたりを交互に見たハルカは、なんとなくアイナが関わる事で何かこのふたりの間にあったんじゃないかと思った。今さっきリタが探るように見ていたのはエステルだったが、なんとなく、直観的にそう感じてしまった。

「(アイナとエステルは、人に知られちゃいけないような秘密みたいなのを持ってて、それが共通してる……とか?)」

考えて、すぐ否定する。きっと考え過ぎだとハルカは苦笑いしたら、エステルが肩を落とすのが視界の端に映った。無意識に逸れていた視線を彼女に戻すと、カロルは地面に座ったままで。

「ダメですね、治癒術では治りません。自然に回復するのを待つしかなさそうです」

治らないのなら治るまで待つしかないし、とばっちりみたいで可哀想だが、カロルには頑張れとしいか言えない。下町のために先を急いでいるユーリが息を零した。
そらから少しばかり時間が過ぎて、カロルは立ち上がった。やっとか、という雰囲気になったがハルカが予想していたよりも花粉の効き目は短いらしく、後遺症もなく元気になったカロルがリタを睨んで頬を膨らませる。

「カロル、無理してない?大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
「なら行こうか。でも無理しちゃダメだからね、カロル」

アイナに優しく頭を撫でられ、機嫌が直ったらしいカロルは元気よく駆け出した。目的地の方向を知っている彼が先行してくれる。様子を見る限り、もう体調の心配ないらしい。だが、また先程のようになっては時間の無駄なので、そこら中に咲いているビリバリハには近付かないよう配慮しなければいけなかった。

草木の間を縫って先を目指す。上り坂が現れカロルが案内するまま上りきって少し歩くと、開けた場所に出た。そこを通過しようとすると、ラピードが耳をピクリと反応させて上を見上げる。逸早く彼の様子に気付いたアイナがその視線を辿って空を仰ぎ、おもむろに鞄から花色のリボンを取り出して髪を高く結い上げた。

「アイナ?どうしたの?」

カロルが見上げて問う。彼女は答えず、カロルを背に庇うように立って剣を構えた。疑問に思って首を捻った次の瞬間、辺りに獣の咆哮が響く。ビクリと身を震わせて目の前のアイナにしがみ付いたカロルは、彼女の視線を辿って上を見た。

そこには高い崖があり、巨大な魔物がユーリ達を見下ろして唸っている。狼のような姿をしたその魔物は、己よりもかなり小さな体の、同じ狼のような姿をした魔物を数匹従えていた。
カロルには見覚えのある魔物だった。目に焼き付いて離れないあの猛々しい姿に、カロルは声を上げる。

「うわぁぁぁっ!あ、あれ、ハルルの街を襲った魔物だよ!!」
「へぇ、こいつがね。生き残りって訳か」
「ほっといたら、またハルルの街を荒らしに行くわね、たぶん」
「でも、今なら結界があります」
「それでもきっと、外にこんなのが居たら安心して眠れないね」

ハルカがそう言うと緊張した様子で頷くエステル。隣に居たハルカには、彼女が息を飲み込んだのが気配でわかった。エステルの気持ちは、ハルカにもわかる。なんだか戦わなければ先に進めないみたいだし、それに崖の上を見上げていて結構距離があるのに、それでもかなり大きな魔物と対峙しなければいけないのは経験がないので怖い。

ヒラリと、花色と白のグラデーションが目に入った。アイナがつい先刻、髪を束ねたリボンの色だと気付くのに少し時間がかかってしまう。その間に彼女は自身以外全員に背を向けたままユーリを呼んだ。

「小さい方お願い」
「時間は?」
「多くて一分」
「了解」

ユーリとの短い言葉での会話を終えたとほぼ同時に、アイナの左手が複数の火球弾を放つ。ハルカにもすっかり見慣れた魔術「ファイアボール」だ。それが見事顔に命中した一番大きな魔物は再び咆哮し、崖を飛び下りてドスンと着地する。後を追うように周りに居た魔物達も飛んだ。

まるで行動の一部始終から着地点まで予測していたかのように、アイナは真っ直ぐ魔物達へ向かっていく。それを目の当たりにしたハルカ達は一様に慌て、武器を構えた。

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ほたるび