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「よかった、フレン。無事だったんですね?怪我とかしてませんか?」
「してませんから、その、エステリーゼ様……」
「あ、ご、ごめんなさい。私、嬉しくて、つい……」

慌てて離れたエステル自身が顔を真っ赤にして俯いた。少しの間考えた後、フレンは彼女の手を取って強引に引き始める。動揺を隠せない様子のエステルを尻目に振り返ったフレンは、ハルカだけに視線を向けて、またキレイに笑った。

「後でゆっくり話をしよう、ハルカ。ふたりきりで」
「へ!?あ、は、はい」

ピシっと背筋を伸ばして、そんな曖昧な返事を返す。するとアイナが、去っていくフレンを睨みながら魔術を唱えようとしていた。それをユーリとラピードに止められている。彼女とフレンとの間に何があったのか知らないが、今まで聞いていた話だとふたりは互いを兄妹のように思っていたのではないだろうか。少なくてもハルカには、そんな印象を与えていた。

しかし、先程までの様子はどうだろう。フレンがアイナに説教されている姿は、まるで兄が妹の機嫌を損ねて怒られているようにも見えなくはなかったが、後半は違う気がした。なんだか、こう、牙を剥いて威嚇しているような、そんな感じだった。

意味がわからなくて首を捻り続けるハルカを、ユーリは苦笑いする。それから、アイナがこうなっている理由を語り出した。

「アイナはさ、お前の話すんのが好きでよく話してたんだよ」
「アイナがあたしの話を?お兄さんでなくて?」
「そ。兄貴の話も出てたけどな、どちらかと言えばハルカの話の方が、耳にタコが出来るくらい聞かされた。だからオレもフレンも、下町の連中もお前の事はよく知ってる。あいつ十年前の写真も持ってっから」

何度も見せられた、と肩を竦めたユーリは楽しそうにも見える。それを視界に捉えながら、ハルカはラピードに宥められているアイナに目を向けた。

「そっか、だから下町で自己紹介した時に吃驚されたんだね。本物のハルカだーみたいな」
「写真と全然変わってねぇから余計な」
「うるさいな。アイナだって全然変わってないんだからいいじゃん。でもさ、それがどうして、アイナがあぁなる理由になるかさっぱりわかんないんだけど」
「あー、結論から言うとな。フレンのやつお前の話聞いてるうちに惚れちまったんだと」
「……は?会った事ないのに、か」
「会った事ないのに、だ。で、今やオレ達みたいになってる」
「ほう、ライバルか」
「そう、ライバルだ」

ハルカは素直に嬉しいと思った。彼女もずっと、自分の事を忘れないでいてくれたんだと感じられて。自分の知らない所で、知らないうちに、知らない人に好意を持たれていた事実は結構恥ずかしいけれど。
フレンの姿が見えなくなったせいか、それともラピードの努力のお陰か。定かではないけれど落ち着きを取り戻したアイナが困ったみたいに笑んで言った。

「エステルもフレンも、お互いに立て込んだ話があるみたいだから長くなりそうだね。先に街を見て回らない?」
「……そうだなぁ。長くなりそうだし、そうすっか」
「よーし、そうと決まれば適当に見て回ろーか!」
「……付いて来んのか、お嬢さん」
「あらあら、何か不都合でも?お兄さん」
「デートしたいんですけど、お嬢さん」
「させる訳ないでしょ、お兄さん。あたしだって暇になるんだから、十年ぶりに再会した親友と一緒に街を見て回ったってバチ当たらないでしょ?恋人っておまけ付きだけど」
「……オレはおまけかよ」
「おまけだよ」

ニヤリと嫌味ったらしく笑って見せると、ユーリは「酷ぇ」と声を漏らして肩を落とす。まぁいいじゃない、とアイナが言ってしまうとユーリは仕方ないかと諦めた。そんな相棒を見上げてラピードが退屈そうに、大きな欠伸をする。

その頭をアイナが優しく撫で終えてから、特に宛てもなく街を歩き回っていると大きな屋敷に入って行こうとする少女の姿が視界に映った。キレイな金色を三つ編みのおさげ髪に錨の絵が入った海賊帽子と大きめのピーコートが可愛らしい。が、なぜか串に刺さったおでんをくわえているその少女は、堂々と門に近寄って行き門番に止められた。
あう、と声を零して地べたに座り込むその少女を、門番は冷ややかに見下ろしている。

「何入ろうとしてんだ、このガキが」
「まぁまぁ、これでも食って落ち着け」
「いらねぇよ。ガキが来る所じゃねぇんだ、ここは」

少女に差し出されたおでんを拒絶した門番は、彼女の首根っこを掴んで放り投げた。不本意に飛んでしまった小さな体を、ユーリは地面に落下する前に自らの腕に抱き留める。その隣で少女が無事であった事に安堵の息を零したアイナは、そっと地に下ろされた少女の怪我を確認してまた同じため息を吐いた。ハルカも同様にほっと息を漏らす。

「子どもひとりに随分乱暴的な扱いだな」
「なんだ、お前は。そのガキの父親か何かか?」
「オレがこんな大きな子どもの親に見えるってか?嘘だろ」
「養子縁組した子って可能性は捨てきれないよねぇ」

ユーリが、そうと呟いたハルカを横目で睨む。余計な事を言うなと目に込めてそうするも、彼女はどこ吹く風みたいで効果はまるでない。
そんな大人達のやり取りを無視している少女は、意気込んで再び屋敷に向かう。走って突破しようと思ったのだろうが、もうひとりの門番が剣を抜いたため急停止した。加速の勢いが上手く死なずに尻餅をついた少女を気遣うようにアイナが膝を折る。ラピードも少女を心配しているみたいに鼻を少し寄せていった。

「大丈夫?怪我はない?」
「うむ、案ずる事はない。大丈夫じゃ」

よかった、と穏やかに笑んだアイナが、そのままの体制で剣を抜いた門番を睨み上げる。いつもより低い声で、這うように彼女は言う。

「丸腰の子ども相手に武器向けるなんて、非常識にも程があるじゃないですか」
「ガキに、これが大人のルールだって事を教えてやるだけだよ」

ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて言ってのけたその門番に、頭にきたのだろう。静かに立ち上がったアイナが小声で詠唱を始めようとしているのがハルカにもわかった。それに気付きもしない彼は剣を振り上げる。そこでやっと、ずっとキレイなお座りをして静かにしていたラピードが立ち上がって戦闘態勢を取った。

「やめとけって……」

ユーリが止めたのは剣を振り上げた門番か、魔術を詠唱しようとしているアイナか、それとも戦闘態勢を取ったラピードか、はたまた全員か。定かではないけれど、なんだか面倒臭そうな口調だったので、全員なのかもしれないとハルカは思う。ここで騒動を起こすのは、仮にも指名手配されているユーリとアイナにとっては余計に厄介な事になりそうだ。

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ほたるび