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やけに足取りの軽い彼を先頭に街の出入り口まで戻ると、まるでここに来る事を知っていたかのようにフレン達が待ち構えていた。フレンはユーリと向き合い、どこか困っている風に言う。

「相変わらず、じっとしてるのは苦手みたいだな」
「人をガキみたいに言うな」
「ユーリ、無茶はもう……」
「オレは生まれてこの方、無茶なんてした事ないぜ。今も魔核(コア)泥棒追ってるだけだ」
「ユーリ……」
「お前こそ、無茶は程々にな」

そう残してユーリは、ひとり去っていく。その背中を見送りながら少しだけ肩を落としたフレンとアイナと目が合った。彼は整った顔をほんの少し歪め、なぜだか「ごめん」と言う。それからハルカに碧眼を向けた。

「ハルカ、一緒に来てくれるかな。ふたりきりで話したい事があるんだ」
「へ?あ、あたし?」

怖いくらい真摯な瞳に、断ってはいけいない気がして怖ず怖ずと頷く。去ったはずのユーリがズカズカ戻って来て、フレンを鋭く睨んだ。

「……おいフレン、まさかお前」
「ユーリ、ハルカは全てを知るべきだ」
「それがどういう事か、わかって言ってんのか?」
「あぁ。だがユーリ、知って貰わなければ生じてしまうものがある。それが生まれてしまってからでは遅いんだ」
「だからってお前……!」

冷静さを欠いたユーリがフレンの胸倉を掴み上げる。嫌悪に顔を歪めたソディアが剣の柄を握って抜刀しようとしたのを、フレンが静かに制した。

「わかってくれ、ユーリ。これは絶対に必要な事だ。君だって本当はそうしなければいけないと、わかっているんだろ?」

言葉を返せなくなったユーリが乱暴にフレンを解放する。思いっきり舌を打ってからアイナの手を掴んだユーリは、彼女を引っ張ってまた去ってしまった。ラピードが尾を揺らしてその後に続く。
彼らの背中を見送りながら、ウィチルに魔導器(ブラスティア)研究所の強制調査権限が使えないか確認を取るよう言った。指示を出されたウィチルが頷いて走り出したのを確認して、フレンはやっとため息を零す。

「まったく、帝都を出て少しは変わったかと思えば……これでは無茶の規模が膨れ上がっただけだ」

戸惑った色を孕んだエステルの声がフレンを呼ぶ。するとフレンは困ったように眉をハの字にして続けた。

「ユーリは守るべきもののためなら、とても真っ直ぐなんですよ。そのために自分が傷付く事を厭わない。それが羨ましくもあり、そのための無茶が不安でもあるんですがね」

返す言葉を選んでいると、カロルがエステルの服を引っ張りながら見上げて言う。

「ね、エステル、もう行こう。ユーリに置いて行かれるよ」
「えぇ。私達も、これで」
「あ、エステリーゼ様」
「はい」
「……その、どうですか?外を、自由に歩くというのは」
「全部を良かったと言うのは、難しい事ですけど……私にもなすべき事があるのだとわかり、それが嬉しくて、楽しいです」
「そうですか」

それは良かったとフレンが笑む。その隣で、ハルカは自分に向かって「また後でね」と手を振ってユーリ達の後を追うエステル達に、見えなくなるまで手を振り続けた。
ソディアに引き続き調査するよう命令したフレンと並んで歩く。行き先を決めているフレンと一緒に歩いていて着いたのは、先程の宿屋だった。同じ部屋に入って、先刻エステルが座っていた場所に腰を下ろす。どこから話そうかと零したフレンを、ハルカは真摯に見詰め上げた。

「アイナがこっちの世界に来てからの十年間に、何があったか……でしょ?」
「……どうしてそれを」
「どうしてもこうしても……わかるよ、そのくらい。ユーリがあんなに取り乱すのは、いい意味でも悪い意味でもアイナだけだと思うし。それに、この前さ……アイナがとんでもねぇもん抱えてて、それをユーリも一緒に背負って一緒に生きるって決めたんだって、聞いたから」

目を伏せる事もなく、彼女はフレンから目を離さない。フレンも彼女から目を離さなかった。真摯な瞳を真摯に見詰め返す。その奥に見えたのは、強い意志だった。

「ユーリはアイナを、そのとんでもねぇものごと愛してるんだって……ライバルみたいにユーリと接してると、よくわかる。病弱で体力のないアイナが、あんなに強くならなきゃいけなかったのもきっと、そのとんでもねぇもののせい。そうでしょ?」
「……なかなか、君は鋭い人だね」
「そうでもないよ。親友の事だから、敏感になって考えるだけだし」

フレンが苦笑いして、目蓋を落とす。ひとつ深呼吸をした彼は、またハルカを真っ直ぐに見詰めた。

「これから話す事を知れば、君自身の命も危ぶまれる可能性がある。ハルカ、君にはその覚悟があるかい?」
「もちろん」
「……、わかった。全部話そう」

そして愛しくも悲しい物語が、フレンの唇から紡がれ始めた。



一方その頃ユーリ達は、リブガロを求めて街から少し南の方向にある森を捜索していた。そう奥深くない森だと思われるのだが、見付かる気配のないまま水音が耳に入ってくる。一度休憩するのに川があるなら丁度いいとそちらへ向かうと、あったのは美しい湖だった。腰を落ち着けて体力を回復させていく。湖に触れるとひんやりして気持ちが良かった。

靴を脱いで足を浸していたカロルが突然「あ!」と大きな声を出す。その小さな指が示す方向に神々しい獣の姿があった。向こう岸で長い尾がその歩調で揺れて、黄金色の毛が美しく舞う。形は馬に近いように思えるその獣は、眉間の辺りに少し長い角があった。

「あれがリブガロだよ!」

早速捕まえようとするカロルの首根っこをユーリが掴む。ぐえ、と情けない声を出したカロルがユーリを見上げて頬を膨らませた。

「なんで止めるのさ、ユーリ」
「いいから、ここに居ろって」

そう言うユーリの視線はアイナに向けられている。エステルのもリタのも、だ。カロルも彼女を見てみた。アイナは腰に佩く細身の剣を外していた。それをラピードが口で受け取っている。全くの丸腰になってしまった彼女は、なんのためらいもなくリブガロの方へ歩みを進めていた。

危ない、と思った。相手は魔物だ。武器を身に着けずに魔物に近付くなんて「殺してください」と言っているのと同じじゃないかとカロルは思った。助けなくちゃと思うのにユーリは放してくれない。エステルとリタは、アイナに告げられていたのだろう。心配そうに彼女の背を見送っている。

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ほたるび