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屋敷の中を慎重に、地下から階段を上がって宛てもなく、あるかも知れない魔導器(ブラスティア)を探して進んで行く。

先刻ユーリ達が助けたポリーという男の子は、両親が税金を払えないという理由であの魔物と白骨だらけの地下に連れて来られたらしい。ポリーは、話だけではなく髪や瞳の色、その目鼻立ちからもティグルとケラスの子どもと考えて間違いないようだ。

ポリーは最初泣きじゃくっていたらしいが、今ではそんな様子もなく静かに付いて来ている。何も喋らないが俯く訳でもなく、しっかりとした足取りだった。が、案の定怖いとか不安だとかいう気持ちは、ユーリの上着の裾をぎゅっと握っている手に表れている。ユーリに励まされてポリーは泣き止んだのだ、とエステルから聞いてハルカもリタ意外だと心底感じた。

けれどハルカは、カロルに向けられるユーリの目がいつも優しさを孕んでいるのを思い出して納得した。口が悪かったり子どもをからかって楽しんだりしているが、根はとても優しい人だ。誰に対しても態度を変えない。それに、勘や本能の方が思考よりも強い子どもや動物から好かれるのは人がいい証拠だと思う。

「(アイナがユーリをあんなに好きになるの、なんかわかるなぁ)」

人は、親に似た人に惹かれるものであると聞いた事があるが、事実ハルカのよく知る方のアイナの父親は、どこかユーリに似た性格だった。困っている人を放っておけない所とか、間違っていると思ったらそれが誰であろうと突っかかっていく所とか、とても愛情深い人である所とか、そういうのを表立って見せるのを嫌がる所だとか。

しかしアイナを探す上で、彼は早々に諦めた人のひとりだった。最初は恨んだりもしたが、それがアイナの帰って来る場所を、ずっと、そのまま維持するためだと知って恥ずかしくなった。生きていく上で金というのは必要不可欠な物で、それを得る仕事もまた必要な事だ。もし仮にアイナが見付かるまで仕事そっちのけで捜索し続けたとして、収入がなくなれば貯金を崩して生活する事になり、貯金から生活費も税金も全部払って……それではすぐ破産してしまっただろう。それではアイナが見付かった時、彼女が慣れ親しんだ家には帰れない。それに気付いた瞬間、ハルカは強く心に決めたのだ。アイナは自分が必ず見付けて、家族の待ち続けるあの家へ一緒に帰ると。

けれど、その決意は鈍ってしまった。

幸せそうに寄り添っているユーリとアイナ、その傍らに佇み尾を振るラピード。そんな彼らを見ていると、壊してはいけないと強く感じる。アイナを待つ家族を思うと苦しいが、それでもアイナの生きる世界はこの世界で、ユーリ・ローウェルという男の隣だと。それが当然なのだと。

「(元の世界に帰る時は、あたしひとりで帰らないとなぁ)」

そんな風に考えていると、不意に上から声がした。肩を跳ねらせて素早く天井に目をやると、見覚えのある少女が布団に巻かれた状態で、吊り下げられている。

「いーい眺めなのじゃ……」

気の抜けるような声にハルカも脱力し、そしてハタと気付く。嗚呼、今は目の前の事に集中しようと決めたのに、また考え込んでしまったと。アイナの十年間をフレンから聞いてから、ハルカは無意識に、今考えてもしょうがない方の思考を動かしてしまう。そんな自分に自己嫌悪しているハルカの隣で、カロルは覚えのない少女に首を傾げた。

「誰……?」
「そこで何してんだ?」
「見ての通り、高見の見物なのじゃ」
「ふーん、オレはてっきり捕まってるのかと思ったよ」
「あの……捕まってるんだと思うんですけど」

そんな事ないぞ、とハルカには見覚えのある少女が言ってもぞもぞと動き始める。が、抜け出せる気配も見せないままだった。けれど彼女は気にする事もなく、キレイな金色を三つ編みにしたおさげ髪を揺らしながらユーリとアイナを視界に捉えて目を丸める。

「お前達、知ってるのじゃ。えーと、名前は……ジャックとヒルダ」
「誰なんです?」
「オレはユーリで、こっちはアイナだ。お前、名前は?」
「パティなのじゃ」
「パティか。さっき、屋敷の前で会ったよな」
「おお、そうなのじゃ。うちの手の温もりを忘れられなくて、追いかけて来たんじゃな」

パティ、と名乗った少女は嬉しそうに笑う。しかしユーリは面倒そうに息を吐いて、それでもこちらを向いている縄の結び目に手を付け、解いてあげていた。
地に足を着いたパティに、カロルは改めて尋ねる。

「ね、こんな所で何してたの?」
「お宝を探してたのじゃ」
「宝?こんな所に?」
「あの道楽腹黒ジジィの事だし、そういうの貯めてても不思議じゃないけど」
「意外とないかもよ?趣味が異常だし」

リタが呟いた内容にハルカそう返すと、彼女は肩を落としながら「言えてる」と苦笑いを零す。それを余所にカロルの質問は続いており、何をしている人なのかと問われたパティは冒険家だと答えた。
カロルの質問がひと段落しただろう頃合いを見計らっていたのだろうか。とにかく、とアイナがパティに目線を合わせる。

「こんな所をひとりで居るのは危ないよ。私達と一緒に行こう?」
「うちはまだ、宝も何も見付けていないのじゃ」
「人の事言えた義理じゃねぇがお前、やってる事冒険家っていうより泥棒だぞ」

するとパティは首を左右に振り、堂々と胸を張った。

「冒険家というのは、常に探求心を持ち、未知に分け入る精神を持つ者の事なのじゃ。だから泥棒に見えても、これは泥棒ではないのじゃ」
「ふーん……なんでもいいけど。まだ宝探しするってんなら、止めないけどな」

突き放すようなユーリの台詞の後、アイナが「どうしたい?」とパティに問う。しばらく考え込んで俯いた彼女は、名案でも閃いたように勢いよく顔を上げた。

「たぶん、このお屋敷にはもうお宝はないのじゃ」

そっか、と笑ってパティの頭を撫でたアイナがユーリを見上げると、彼は頷いてから全員を見回して言う。

「それじゃ行くか」

改めて気を引き締め、更に探索を続ける。どの部屋に何があって、どこに目的の魔導器があるのか見当もついていないので、ひとつひとつ、部屋を見つけたらとりあえず扉を開けてみているのだが……広い屋敷だ。廊下を歩くだけでも傭兵がうろついているのに、ひとつ扉を開ける度にも傭兵が居て、なんだかとても果てしない作業に思える。

「(とは言っても、遭遇する前にラピードが気配わかっちゃうし、それに気付いたユーリとアイナがふたりで声出される前に気絶させちゃうから、あたし達なんにもしなくていいんだけど)」

そんな風に考えながら、もう何人目かわからない床に崩れ落ちた傭兵を眺めた。なんと言うか、素晴らしいチームプレイだった。と、そこでふと思い出す。こんなに傭兵で溢れている屋敷内を、パティはひとりで歩き回っていたのだと。冒険家だと言っていた彼女が、なぜこんな場所を冒険していたのだろう。気になったハルカは、パティに尋ねてみる事にした。

「ねぇ、パティ?あんな危ないおっさん達がいっぱいなのに、どうしてこんな場所ひとりでウロウロしてたの?」
「危険を冒してでも、手に入れる価値のあるお宝なのじゃ」

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ほたるび