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しかしカロルは、彼らが五大ギルドのひとつ紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)だと、その時確信を持てたそうだ。みんなで彼らを蹴散らして船室の入口へ辿り着くと右目に傷痕の残る隻眼の大男が立っており、ラゴウに「バルボス」と呼ばれていた。
剣を交えたものの、バルボスとやらは金の分は働いたからと積んであった小舟に乗って逃げたらしい。が、往生際の悪いラゴウによって次に呼び出されたのはザギであった。城にあるフレンの部屋で襲撃し、ハルルでユーリを追って来た、あの赤眼の男だ。呼び出した本人はバルボスと同じ小舟に乗って逃げてしまったとか。
ラゴウが何か余計な事をして行ったのだろう。船があちらこちらで爆発を起こし、その上ザギはユーリばかり執着的に狙っていたらしい。勝利したのはユーリであったが、ザギはユーリを酷く気に入った様子でひとつの爆発と共に、笑いながら海へ飛び込んだという。
沈み行く船の中、成す術なく自分達も海へ飛び込もうとした瞬間、バルボスが立ち塞がっていた扉の向こうから人の声がした。すぐにユーリがそこへ向かうが、もう船も長くないとカロル達は先に飛び込んだのだからユーリの遅い登場には肝を冷やしたのだと言う。
なるほど、なるほど。そう声を零しながら腕を組んだハルカは、ひとつ息を吐いてから「まぁ」と声を落とした。
「なんにせよみんなが無事でよかったね」
「そうだね。それに魔核(コア)泥棒の件は紅の絆傭兵団を追えばいいみたいだし、標的がやっと具体的に定まってよかった」
「だな」
「ねぇ、それはそうとさ。ボクさっきから気になってたんだけど、ハルカもアイナもその服どうしたの?」
「あぁ……あたしこれには触れて欲しくなかったよ、カロル君」
「ま、そんな格好してたらね……趣味を疑うわ」
「言わないでよリタ〜……あたしもアイナも恥ずかしいんだよぅ」
「で、でも、ふたり共とても可愛いですよ?ね、ユーリ」
「アイナはな」
「ですね〜って、おいイケメンロン毛コラ。わかりきってたコメントだが流石に頭にくるぞ」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべているユーリと、ラピードのように唸り出しそうなハルカの視線の間で、ラピードがひとつ大きな欠伸をする。ハルカの方が可愛いよ、なんてアイナに言われている彼女に目を細めたカロルは頬を膨らませた。
「ねぇねぇ、それで結局その服どうしたの?」
「これは、フレンがずぶ濡れだからって一緒に行くの渋ってた時に、ティグルさんとケラスさんがポリー君と一緒に来てね。返し尽せないけどお礼にって、くれたの。ティグルさんがユーリにも、ありがとうって伝えてくれって」
ユーリとカロルが揃って「へぇ」と言う。ユーリは少し興味がなさそうな感じに聞こえたが、対照的にカロルは納得した声色であった。
話がひと段落した所で、ハルカはフレンの居る部屋に移動する事を提案する。ここに来る前、彼に落ち着いたら隣の部屋へ来るように頼まれていたのだ。そこへ移動しようと席を立ち部屋を出る中、ユーリだけを呼び止めたアイナはどこか愁いを帯びた表情で、どうしてもユーリとふたりだけで話したい事があるのだと告げる。
ハルカには、すぐわかった。嗚呼、先程あの黒い鱗を自分とフレンに見られてしまったと報告するのだろうと。アイナが鱗の事は亡くなった父ナイレンと、ユーリしか知らないと言っていた。それが彼らだけの秘密であったのは、わかりきった事だ。
「わかった。じゃぁ、あたし達でフレンの用事、聞いておくから。後でね」
「うん、ありがとう。じゃぁ後で」
ハルカは考えあぐねているエステル達の背を無理矢理押して、アイナの苦笑いに見送られながら部屋を出た。足元でひとつラピードが「ワウ、ワフ」と声を上げる。彼が何を言いたいのか、ユーリもアイナも居ないから全然わからない。
けれどハルカには、それが自分に対してではなく、このタイミングで「ユーリとふたりきりで話がしたい」と言い出したアイナのフォローを、エステル達に喋っているように見えた。ラピードがハルカ達と部屋を出たのも、おそらくアイナへの気遣いなのだろう。頭がよく空気が読める彼ならば、そんな風に考えていてもおかしくない気がした。
隣の扉を三度ノックする。フレンの声が聞こえ、ノブを回した。先程よりも広い室内にはフレンと船から脱出する際にユーリが助けた少年、そしてラゴウが居た。その姿を視界に捉えた途端にリタが怒りを露わにする。
しかしラゴウは、まるでたった今、自分達と初めて会ったかのように首を傾げてどこかで会ったかと言うのだ。予想外の反応にハルカは盛大に鼻で笑った。
「このタイミングで記憶喪失とは都合のいい脳をお持ちのようですね。それとも、あなたの脳は容量が小さすぎて覚えられないのでしょうか」
不愉快そうに眉を寄せるラゴウだったが、それも一瞬の事。彼はすぐ表情を戻した。
「はて?記憶喪失も何も、あなた方と会うのはこれが初めてですよ?」
「何言ってんだよ!」
カロルがダン!と右足で床を叩きながらラゴウを指す。いくら悪人でも人を指すのはよろしくないと、エステルが両手でそれを包み込んで下し、静かに首を振った。それを横目にラゴウに向き直ったフレンが口を開く。
「執政官、あなたの罪は明白です。彼らがその一部始終を見ているのですから」
「何度も申し上げた通り、名前を騙った何者かが私を陥れようとしたのです。いやはや、迷惑な話ですよ」
「嘘言うな!魔物の餌にされた人達を、あたしはこの目で見たのよ!」
「さぁ、フレン殿。貴公はこのならず者達と評議会の私。どちらを信じるのです?」
フレンは何も言葉にはせず、悔しそうに唇を噛んで俯いた。ならず者よりも権力者の声が優先される。世の中とは、そういう理不尽なものだ。
「決まりましたな。では、失礼しますよ」
勝ち誇った微笑を浮かべたラゴウがさっさと部屋を出て行く。扉が閉まった途端に、リタのやり場を失った怒りの矛先が、少しばかりユーリの助けた少年に向かった。
「なんなのよ、あいつは!で、こいつは何者よ!?」
まぁまぁ、とハルカに宥められて落ち着きを取り戻していくリタ。彼女の質問に答えようとしたフレンの音を遮るように、いつもより凛としたエステルの声が響いた。
「この方は次期皇帝候補のヨーデル殿下です」
「へ?またまたエステルは……って、あれ?」
「あくまで候補のひとりですよ」
「本当なんだ。先代皇帝の甥御にあたられる、ヨーデル殿下だ」
「ほ、ほんとに!?」
目を丸くして驚くカロルに、ヨーデルはやんわり肯定する。ハルカは、ユーリが居たら何か皮肉めいた言い方で、そんな人がなぜ執政官に捕まっていたのだと言いそうだと思った。それにエステルがここまで来たのにも何か関係しているような気がする。
次期皇帝候補。エステルの言っていた、その言葉が嫌に引っかかっていた。候補、という事は他にも同じ立場の人間がいるのかも知れない。けれどこの世界の政治の事情なんてハルカは欠片も知らない。それでも、この世界の政治によって成された法律がラゴウのような非道な悪人を許しているのだと思うと腹立たしかった。
突然乱暴に扉が開かれて思考が中断される。原因は酷く怒ったユーリだった。
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ほたるび