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訊かれた本人は何も答えなかった。ユーリもただ苦笑いするだけで何も言わない。そうしている間にレイヴンを取り逃がしてしまったリタが疲れ切った様子で、遅れて宿から出て来たハルカとエステルが手を繋いだまま小走りで寄って来る。

「……逃がしたわ。いつか捕まえてやる」
「ほっとけ。あんなおっさん、まともに相手してたら疲れるだけだぞ」

そう言ってから胸元を覗き込み、優しい声色で「大丈夫か?」と問うユーリ。わかり辛いくらい小さな動きで首を横に振ったアイナが、ほんのちょっと彼から離れた。カロルの位置から彼女の目が真っ赤になっているのが見えて息を飲む。どうして、と問う前にアイナが呟くような音を紡ぎ始めた。

「ごめんなさい……少し、時間が欲しい」
「あぁ。ラピード、頼んだぞ」
「ワウ、ワン!」

まるで「任せておけ、相棒!」と言っているみたいな吠え方をしたラピードの頭を、くしゃりとユーリが撫でる。少しだけ長い尾を揺らした彼は踵を返し歩き出したアイナに寄り添い行ってしまった。そんなひとりと一匹を訳のわからないまま見送っているハルカ達に、ユーリはいつもと変わらない口調で声を出す。

「少しだけ、アイナをひとりにしてやってくれ。そしたら行くぞ」
「行くって、どこに行くの?」
「紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の後を追う。下町の魔核(コア)、返して貰わねぇと」
「足取り、掴めたんです?」
「北西の方に怪しいギルドの一団が向かったんだと。あのおっさんの話だが、やつらの可能性がない訳じゃないからな」

するとカロルが、首を捻りながら言った。

「北西っていうと……地震で滅んだ街くらいしかなかった気がするけどなぁ」
「そんな所に何しに行ったんでしょう?」
「さぁな。行けばわかるだろ。やつらなのか、そうじゃないかもな」

行先が決まったユーリ達は、アイナとラピードを待つ間に旅支度を整える事にした。

この世界には、ハルカには馴染みのない旅の必需品がある。グミやボトルといったアイテムで、口にすると体力を回復してくれたりする、まぁ言わば薬品だ。魔物と戦っている間、アイナとエステルの治癒術が追い付かない時に、よくラピードがくれるのでハルカもお世話になっている。倒した魔物が落としてくれたり、ラピードが戦闘中に相手からくすねたりしているが、結構使うので減るのも早い。結界の外へ出てから切らしてしまうのは、旅をする上で非常に心許ないのだ。

しかしながら、グミやボトルの類は買い揃えるのに一件店を訪れれば済む。武器なんかも新調する必要は今の所なさそうだし、他に時間を潰す方法はないらしい。ゆっくり買い物をして、ゆっくり街を散策してみるも、アイナとラピードが居ないためかユーリの口数は少なくて。そうは言うものの、ハルカ自身もあまり喋らなかった。

どこか気まずい空気の中、街をふらつくのも厭きてアイナとラピードを探す。途中でユーリが花束を買っていたが、存外簡単に見付かったひとりと一匹。アイナもラピードもこちらに背中を向けていて表情はわからなかった。

波の音が聞こえる。アイナは何も言わなかったが、ラピードは彼女を見上げて「クーン」と悲しそうに鳴いていた。なんとなく声をかけ辛い。そんな中、ユーリがアイナの隣に立った。ハルカ達が見慣れている、いつもの立ち位置だ。その場所でしゃがみ込んだ事で思わず視線が下がると、目の前に石が見えた。

「(……お墓?)」

この世界の文字が暗号か記号にしか見えないハルカには読めないが、おそらく間違いない。刻まれているのは誰かの名前だろう。

カサリ。ユーリが静かに買ったばかりの花束を供えた。そのまま彼は、物言わぬそれにゆっくり語りかける。

「よぉ、おっさん。久しぶりだな。病気で逝っちまうなんて、らしくないんじゃないか?」

どんな人物だったか見当も付かないままに、ぼんやりと「この墓の主は病気で亡くなったのか」なんて思う。そんなのも知らずにユーリは、どこか悲しげな音で続けた。

「アイナに苦労させてっけど仲良くやってるよ。今は下町の魔核探して旅してんだけど、オレもアイナも、ラピードも。どっかで元気にやってるあんたに、会いたかったんだけどな」
「……なんで」

声を震わせながら、アイナが小さく呟く。慰めるようにラピードが細い足に頬を摺り寄せ始めた。

「話したい事いっぱいあったし、あの時の事だって、私まだ何も伝えてないのに……」

瞬間、ガクリと膝が折れたアイナ。咄嗟に駆け寄ろうと足が前に出るけれど、それも一歩だけで思い留まった。この先が、ユーリとアイナとラピードだけの領域のような気がして踏み込めない。

彼女らしくない大きな声を上げて泣いているアイナを抱き寄せて優しく背を叩くユーリと、ふたりに寄り添い頬を擦るラピード。それらをただ眺めるしか出来ない自分に、ハルカ達は憤りを感じずにはいられなかった。



to be continued...

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ほたるび