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ただ理由がわからない。それも少なくともハルカ達には、であってユーリには心当たりがあるらしくアイナをおぶったまま鼻で笑った。因みにだが、ラピードはキュモールが現れてからずっと、ユーリの隣で喉を震わせて牙を剥き続けている。
「うちのアイナは何度も断ってんだ。いい加減諦めろって」
「君には関係ないね。これは騎士団と彼女の問題だ」
「いや、関係あるだろ。オレはアイナの恋人だ」
「たかが恋人の分際で出しゃばるんじゃないよ、愚民が」
「出しゃばるだろ。結婚を真剣に考えてる恋人が抱える問題だからな」
そう言って、いっそ清々しいドヤ顔を決めてくれたユーリにキュモールも返す言葉を失う。流石のハルカも横槍を入れる気が失せてしまう表情だった。真正面で向けられたキュモールは、さぞ気を悪くしただろうと思うが、同情する気はない。
なんとも言えない微妙な空気が漂う中、エステルは前へ出てキュモールと対峙した。真摯に彼を見上げ、ほんの少し震えた声で問う。
「彼らを、どうするのですか?」
「決まってます。姫様誘拐の罪で八つ裂きです」
「待ってください。私は誘拐されたのではなくて……」
すると元々気が短いのか、キュモールは苛立たしげに声を荒げながらエステルの腕を掴んで自分の方へ引き寄せた。高貴な身分の者に対する態度とは思えない力加減であったそれに、彼女は思わず痛いと声に出す。カロルが心配そうにエステルの名を呼んだが、それを狂気に満ちたキュモールの声に掻き消される。
「そっちのハエはそこで死んじゃえ!」
主にユーリを指してキュモールが言うと、取り囲んでいた部下達が前へ出た。向けられたけ剣がハルカ達へとにじり寄ってくる。腕を掴まれたままこちらを見ているしか叶わないで居るエステルの目尻に涙が見えた。
どうするのが最善かとハルカが考え始めた瞬間、キュモールの背後から聞き覚えのある声が響いた。大音量でしわがれたその声は、こんな時だと頼もしく聞こえて力の入っていた肩が安堵に下がる。
「ユーリ・ローウェルとその一味を罪人として捕縛せよ!」
そのセリフと共に現れたルブランは、ハルルで守ってくれた時のようで。ハルカには、これが騎士の本来あるべき姿勢だと、キュモールに見せ付けているようにも思えた。
「貴様ら、シュヴァーン隊……待ちなよ、こいつは僕の見付けた獲物だ!むざむざ渡さんぞ!」
「獲物、ですか。任務を狩り気分でやられては困りますな。それに先程、死ねと聞こえたのですが」
「そうだよ、犯罪者に死の咎を与えて何が悪い?」
「犯罪者は捕まえて法の下で裁くべきでは?」
身勝手で騎士とは思えないキュモールの言い分に、とことん正論で返すルブラン。キュモールはついに返す言葉を失ったらしく、そんな小物お前らにくれてやると情けない言葉を吐き捨てて去っていった。掴んでいたエステルの腕も、きちんと解放してくれている。部下達も上司を追うように撤収していった。
これで少なくとも殺される心配はなくなった。けれどルブラン達の目的はあくまでエステルの保護と彼女を誘拐したと思われる一味の逮捕である。やむを得なかったとはいえ、ハルルの時のように逃れる事は不可能だった。
海に落ちたり、悪党に目の前で罪を逃れられたり、巨大な魔物と戦わなければいけなかったり、散々な一日だが仕方がない。こちらには指名手配されているのが、ふたりも居るのだから。
「あー、今日って厄日だなぁ」
指名手配犯と共に行動していたために一緒に連行されながら、ハルカはひとり小さく零して木々の隙間から空を見上げた。
to be continued...
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ほたるび