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リタやカロルとも一旦別れたユーリ達は、宿屋の近くでフレンとヨーデルを見付けた。ユーリはさも友人に会ったかのように、次期皇帝候補であるヨーデルにも気軽に声をかけている。

「なんだ、ご両人やっぱ居たのかよ」
「ユーリ、殿下に対して少し口の利き方が失礼だ。せっかくご厚意でアイナと、主に君の罪を全部白紙にしてくださったのに」

礼を失してはいけないと頭を下げるアイナと一緒に、親友とその恋人の罪を白紙にして貰ったから自分もとハルカも倣う。ならば妹と親友の礼をとフレンも続けば、ヨーデルはかえって恐縮してしまった。

「いいんですよ、フレン。私とエステリーゼで勝手にやった事ですから。それより、エステリーゼの事は、もう聞いているみたいですね」
「はい。帝都に戻る旨ご承諾いただいた、と聞きました」

ハルカがそう告げると、フレンは眉間に少しの皺を寄せて呟く。

「ユーリ達と一緒に居る方がエステリーゼ様のためになると思ったんだが……」
「皇族が無闇に出歩くものではありませんからね」
「それ、あんたが言っても説得力ねぇよ」
「はは、面目ない。けど、特に今は皇族の問題を表沙汰にする時期ではありません」
「その問題ってのは、あんたと姫様、どっちが次期皇帝かって事だよな?」
「えぇ。今は意見がふたつに分かれ、騎士団と評議会でもめています」
「殿下!」

咎めるようにフレンが声を荒げた事にも驚きはしたが、ハルカにはそれ以上にエステルも次期皇帝候補である事と、ユーリがそれを勘付いていた事の方が衝撃だった。が、アイナもその事を察していたようで、特に顔色を変えてはいない。

ヨーデルは苦い笑みを浮かべながら、ここまでわかっていて今更隠せるものでもないとフレンを諭した上で、真摯な声色で続ける。

「騎士団は私を次の皇帝に、と推してくれています。エステリーゼは、評議会の後ろ盾を受けています」
「ほんとのほんとに、エステルってお姫様なんだ……」

ハルカの口から思わずそう声が零れる。世間知らずな所が目立つし本から得た知識ばかりで経験から得た知識はないようだし、結界の外どころか城から出た事すらないのはわかっていた。けれどお姫様ではあっても、まさか次期皇帝候補だなんて考えてもみなかった。

「えぇ。遠縁ではありますが、エステリーゼは間違いなく皇族です」
「そりゃ騎士団も大変だな。競争相手とはいえ、お姫様の身辺警護に手を抜く訳にもいかねぇし」
「ユーリ、アイナ、ハルカ。これは、その」
「オレの知り合いに、こんな情報欲しがる変人いねぇよ。んじゃ、オレ達このまま宿屋で休んでくっから」

立ち去りながらひらひらと手を振るユーリの背を横目で送ってから、ハルカはフレンを見上げ笑って言う。

「あんな言い方だけど大丈夫だよ。人に情報ぺらぺら喋るようなやつじゃないって事は、あたしよりもフレンの方がよっぽど知ってるでしょ?どんな立場でもエステルはあたしらにとって友達だし、それでなくたって個人情報撒き散らしたりしないよ。ね、アイナ」

いつもならすぐにある反応がなくて、ハルカはアイナに視線を移す。未だにユーリの背を見詰める瞳に違和感があったが、それも一瞬の事で、彼女は普段通りの微笑を浮かべて肯定してくれた。けれど視線はすぐにユーリに向けられて、ハルカの目もついそれを追う。

宿屋に入ろうとした所を丁度アデコールとボッコスに引き止められたらしい彼は、何か言葉を交わした後で共に街の外へ向かって歩き出した。ユーリは別に普段と変わらないように見えたが、わざわざ一緒に街から出るなんて、決闘でもするのだろうか。

「ねぇアイナ。あれどうしたんだと思う?まさか決闘とかじゃないよね……アイナ?」
「……あぁ、うん。たぶん勝負を挑まれたんだろうね。彼らは、一度騎士団の門を叩いたユーリがあぁいう生活をしてた事が、許せなかったみたいだから」
「それは、なんとなくわかるけど……アイナ、大丈夫?」
「え、どうして?」
「いや、なんか……いつもと違うなって」
「心配かけてごめんね。カルボクラムで色々あったし、疲れちゃって。悪いけど先に宿屋に行って休んでるね」

こちらの返事を待たずに行ってしまったアイナの背を見送りながら、ハルカは呟くような声でフレンを呼んだ。彼も眉間に少し皺を寄せ、心配そうに彼女を見ている。疲れたのが原因ではないのだろうという事に、フレンも気付いたらしい。

「カルボクラムで何があったにしろ、疲れたのが原因ではなさそうだね」
「うん……なんかこう、思い詰めた感じがする。誰かに何か言われたのかな?だったら、あたしもユーリも気付いたはずだけど」
「変に頑固なアイナの事だ。そう簡単に話してはくれないだろうから、いつもより注意してやってくれないか?」
「もちろん。アイナは、あたしの大切な親友だもん」

心配を残した顔でフレンが礼を言った。珍しくユーリにもアイナにも付いて行かなかったラピードが、ハルカの足元で不安げに鳴く。ラピードにも彼女の嘘と異変に気付いたのだろう。ハルカはただそんなラピードの頭を、そっと撫でる以外に出来る事が思い浮かばなかった。

フレンやヨーデルと他愛ない話をした後で宿屋に入ると、丁度ユーリ達も受付の前に集まっている。アイナは一緒じゃないのかと問われたが、先に休んでいると伝えると、どうせエステルに会うのなら全員揃った方がいいからと、ユーリ達も疲労の溜まった身体を早く休める事にした。部屋に入ると、アイナが四つある中の入口に一番遠いベッドで横になっている。

声をかけたり揺すったりしてはみたが起きる気配はなく、仕方がないと彼女を眠らせたまま夕食を済ませた。戻ってからもう一度声をかけたが、まだ起きる気配がない。せめて夕食は食べた方がいいと考えたものの、余程疲れていたのだろうとそのままにした。

ベッドが四つしかないためどうしようかとハルカ達は悩んでいたが、ユーリだけは何も言わずアイナの隣に潜り込む。止める間もなく、ごく自然な動きに口を挟む間もなかった。彼はそのままアイナを大切そうに抱き込んで目を閉じてしまう。ふたりは恋人同士だから何もおかしくはないのだけれど、なんとなく気まずいまま隣のベッドをハルカが、向かい側にあるベッドをリタとカロルが使う事にした。

思い返せばノール港に着いてからここまで、まともに休んでいない。実はトリム港で、手配書のせいで子ども達にバレてしまったり宿屋の主人に通報されたりと、休むもうと思っても出来なかったのが大きい。溜まりに溜まった疲労は風呂でゆっくり温まり、ベッドに身体を委ねてしまえば一気に溢れ出た。目蓋が重くて眠気に逆らえず、深い眠りに入っていく。

音が聞こえた気がしたのは、いつ頃だっただろうか。ぼんやりする頭で扉の閉まる音だとわかるには酷く時間を必要とした。暗い室内で目を凝らして見回せば、隣のベッドにふたつあるはずの人影がひとつしかない事に気付く。ハルカは直感的にアイナが部屋を出たのだと考え、彼女の様子がおかしかったのが不安になって後を追う事にした。極力音を出さないよう、慎重にベッドから抜け出す。

「ハルカ、いいよ」

低く、囁くような声が眠っているはずのユーリから聞こえて、ハルカは咄嗟に動きを止めた。振り返るといつの間にか彼も起き上がっており、声を潜めたまま続ける。

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ほたるび