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ヘリオードを出るとすぐ囲まれる森林を抜けた先に、想像していたよりも大きな街があった。ハルカが今まで訪れたどの街よりも賑やかで、行き交う人々が生き生きとしている。ここが帝都に次ぐ第二の都市でギルドの統治する街ダングレストだ。カロルの故郷でもある。

「ここがダングレスト、ボクの故郷だよ」
「賑やかなとこみたいだな。もっとジメジメした、悪党の巣窟だと思ってたよ」
「あたしも」
「ユーリもハルカも、それってギルドに対する偏見だよね」
「そうだけどさ、だって紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の印象強い上に、その印象が最悪だからねぇ」

自分まで悪党なのかと思ったらしいカロルがあからさまに安堵したのを見て、ハルカはつい彼の頭を撫でた。子ども扱いをあまり好まないカロルだが、髪型を崩さないよう気を付けてみれば受け入れてくれる。

が、問題はバルボスだ。この街に来た最大の目的はそれであるのだが、どこから手を付ければいいのかわからない。ここまで来て選択を間違える訳にはいかないのだ。頭を悩ませ始めたユーリとアイナに、カロルはふたり見上げたまま提案する。

「ユニオンに顔を出すのが早くて確実だと思うよ」
「ユニオンとはギルドを束ねる集合組織で五大ギルドによって運営されている、ですよね?」
「うん。それと、この街の自治もユニオンが取り仕切ってるんだ」
「でも、いいわけ?バルボスの紅の絆傭兵団って、五大ギルドのひとつでしょ?」
「って事はバルボスに手ぇ出したら、ユニオンも敵に回るな」
「え、そうかな?ギルドと帝国って仲悪いのに一緒に悪巧みしてるんだよ?ギルドやユニオンにだってルールくらいあるでしょ。バルボスのやってる事ってそれに反してる可能性だってあるじゃん」

そう意見するけれど、ハルカはむしろユニオンが敵に回るよりもその方が、高い可能性を持っていると考えている。アイナも同じ考えらしく、頷いて静かに言う。人が集まって生きるのにルールがまったくないのでは成り立たない、無法に見えても人が居る限り最低限のルールは必ず存在するものだ、と。

しかしカロルは首を振る。

「どっちにしても、ドンに聞いてみないとなんとも言えないよ」
「そのドンってのがユニオンの親玉なんだな?」
「うん、五大ギルドの元首『天を射る矢(アルトスク)』を束ねるドン・ホワイトホースだよ」
「んじゃ、まずそのドンに会うか。カロル、案内頼む」
「ちょっと、そんなに簡単に会うって……ボクはあんまり」
「大丈夫だよ。私、天を射る矢にはちょっと縁があるの。会えた後は私がなんとかするからお願い」

目線を合わせていつもの笑顔を向けるアイナに、カロルは観念してユニオンの本部が街の北側にあると告げた。そのまま先頭に立って案内をするカロルはやけに落ち着きがなく、初めて来た街みたいに辺りを見回しながら歩いている。不安の色が浮かぶ瞳が「何か」を探すように彷徨っていると、突然筋肉質な男がふたり、カロルに声をかけてきた。

「そこに居るのはカロルじゃねぇか」
「どの面下げてこの街に戻って来たんだ?」
「な、なんだよ、いきなり」
「おや、ナンの姿が見えないな?ついに見放されちゃったか!」

カロルが違うと声を大にしても、男達は彼を嘲笑い続ける。こういう連中が居るのが痛い程わかっているから、カロルは故郷であるダングレストに来たがらなかったのだろうとユーリ達は一様に察した。子どもが相手でなくともこんな事をするなんて、と憤りを通り越して呆れてしまう。

ひと通りカロルを笑い者にしたらしい男達は、ニヤニヤ笑いながらユーリ達にまで口を開いた。

「あんたらが、こいつ拾った新しいギルドの人?相手は選んだ方がいいぜ」
「自慢出来るのは、所属したギルド数だけだし。あ、それ自慢にならねぇか」

カロルはぐっと下唇を噛み締めて俯く。ユーリはその頭に手を置いてから、男達には答えずカロルに声をかけた。

「カロルの友達か?相手は選んだ方がいいぜ」
「ギルドも友達もちゃんと選ばなかったから、こういう悪い見本で市場やってるようなのに引っかかっちゃうんだよ」
「そうですよ、カロル。こんな品位の欠片もないような人と付き合ったらダメです」
「エステル、言うわね。でも同感だわ」

ハルカの追撃にエステルが加わり、リタも少し同調する。さもこれまでカロルが関わった人やギルドの方が悪かったような言い方に腹を立てた男達が、ユーリ達に罵声を浴びせ始めた。腰を少し引くして今にも殴りかかってきそうだ。

瞬間、街中に鐘の音が鳴り響き、地鳴りが聞こえてくる。途端に男達は顔色を変えて街の入口の方へ走り出した。鐘の音はまだ続いており、地鳴りと共に振動も大きくなっている。警鐘だ、魔物が襲ってきたとカロルが呟いた。ダングレストにも結界魔導器(シルトブラスティア)があるのだ、魔物が来た所で街の中には入る訳がない。

傍で誰かが動いた。アイナだ。見覚えのある花色と白のグラデーションが美しいリボンが、彼女の髪と共にヒラリと舞う。普段は髪を結わずそのままにしている彼女がそうする時は、最初から本気で戦おうという時だとハルカ達はユーリから聞いた。彼女は襲ってきた魔物達と戦う気だ。けれどカロルはそんな彼女の憂いを晴らすように、明るい声色で言う。

「アイナ、心配いらないよ。最近やけに多いけど、ここの結界は丈夫で破られた事もないしね。外の魔物だってギルドが撃退……」

喋りながら空を見上げると、結界が数回瞬いて消えた。まさかそんな、大きな地鳴りと振動がする程の魔物が、街のすぐ傍まで来ているのに丈夫なはずの結界が消えてしまうなんて。そう驚き、動揺し始めた頃にはもうアイナの姿はユーリ達の傍にはなかった。街の入口の方から雷鳴が轟き、間もなく剣戟が聞こえてくる。

アイナが戦っていると、ユーリ達はすぐにわかった。

「アイナ、どうしてひとりで行ってしまったんでしょう……」
「その話は後でもいいだろ。行くぞ!」

すぐに後を追ったのだが、すでに大量の魔物が入り込んでおり街は酷い混乱状態にある。逃げ惑う人を庇い助けながら孤軍奮闘するアイナの姿はすぐに見付かった。迷わず参戦したユーリ達だが、街へ入り込む魔物の量が余りにも多く、流石に対応しきれない。それに魔物達の様子も普段のそれと違っている。それはハルカにもすぐわかった。

「(魔物はいつも、もっと頭を使って攻撃してくるのに、動きが単調な上に乱暴だ)」

お陰で先の行動が読み易くて、思った通りに銃弾が当たってくれる。それでも数は一向に減る気配がなくて、倒しても倒しても魔物は次々と目の前に現れた。ハルカだけでなく、仲間達や同じように戦っているギルドの構成員達は、自分の事で精一杯の状態だった。そのフォローを、アイナがしてくれている。治癒術だけではなく剣や魔術を、時には拳法を駆使して。それでも追い付かないくらい、辺りの人々は皆魔物に襲われている。

このままでは先にこちらの体力が尽きてしまうと考えた瞬間だった。魔物を次々と蹴散らし進む老人が現れる。

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ほたるび