01
ジュディスは、バルボスが「大楼閣ガスファロスト」と呼んでいた楼閣の前で去った。共に旅をしている相棒の所に戻ったらしい。それに、ユーリとは互いの行動に干渉はなし、という条件の元で協力関係にあったらしく、随分あっさりとした別れだった。
ダングレストには、フレンに言われた通り寄り道せず戻った。ガスファロストからダングレストまでは存外近く、そう手間に感じる距離ではない。よくこんな近くで長い間コソコソと計画を立てられたものだと、ハルカは改めて感心する。なぜバレなかったのか不思議に思うくらいだ。
ユーリ達がダングレストに到着すると丁度、騎士団も戻った所だったらしい。大勢の騎士がラゴウを取り囲み、拘束している。しかしラゴウは未だに騎士団の陰謀だのと叫び、抗っているようだ。その往生際の悪さにリタが呆れ返っている。
先に戻っているはずのフレンの姿が今居る位置からではよく見えず、ユーリ達はラゴウを拘束している騎士団に近付いた。
「騎士団を信じてはいけません!彼らはあなた達を安心させた上でこの街を潰そうとしているのです!」
演説のように繰り返し訴えるラゴウの前に、金色の髪を持った騎士が立ちはだかって凛と言う。
「我らは騎士団の名の下に、そのような不実な事をしないと誓います」
「あなたは……フレン・シーフォ!」
「帝国とユニオンの間に友好協定が結ばれる事になりました」
「な!そんな馬鹿な……」
「今ドン・ホワイトホースとヨーデル様の間で、話し合いがもたれています。正式な調印も時間の問題でしょう」
「どうして……アレクセイめは今、別事で身動きが取れぬはず」
「確かに。騎士団長はこちらの方に顔を出された後、すぐに帝都に戻られました」
「では、誰の指示で……」
絶句するラゴウがフレンを見ると、彼は爽やかな笑みを浮かべている。それが答えだった。ラゴウは酷く悔しそうに顔を歪めた。
「まさかこんな若造に我が計画を潰されるとは……!」
以前は地位を言い訳に逃げられてしまったが、今度はもう、そう上手くいかないらしい。ラゴウは捕まった。これで本当に一件落着だと安心出来て、エステルはほっと胸を撫で下ろした。
「これでカプワ・ノールの人々も圧政から解放されますね」
「次はまともな執政官が来りゃいいんだがな」
「いい人が選ばれるように、お城に戻ったら掛け合ってみます」
「お城にって……エステル、帝都に帰っちゃうの?」
カロルの問いに、エステルは少し言葉を詰まらせたが、それでもしっかりと言葉にする。
「……はい。ラゴウが捕まって、もうお城の中も安全でしょうから」
けれどその顔は歪んでいて、本心では帰りたくないと思っているのだと、痛い程に伝わった。それをユーリに茶化されて、彼女は否定しながら俯く。
「ま、好きにすりゃいいさ。自分で決めたんだろ」
「帰ります。これ以上フレンや他の方々を心配させないように……」
この旅を始めた時からわかっていた事だった。エステルは早く城に戻らなければいけない立場の人間だと。それでも、ここまで旅路を共にしてきて、何も感じない訳がない。
「寂しくなるね、ラピード」
アイナが呟く。ラピードが俯いたのと同時に、ハルカもそっと瞳を伏せた。
色々あって心も体も疲れていたため、各々宿屋で休んでいた時だった。ベッドに寝転がるユーリに慌てた様子でカロルが駆け寄り、彼の身体を揺さぶりながら声をかける。
「大変だよ!ユーリ!ラゴウが、ラゴウが!」
「ゆっくり寝かせろって……ラゴウがどうしたって?」
面倒臭そうにしながらも、きちんと起き上がってカロルに向かい合うユーリに、ついハルカとアイナもそちらに目が向いた。
「評議会の立場を利用して罪を軽くしたんだって!少し地位が低くなるだけで済まされるみたい!酷い事してたのに!」
「面白くねぇ冗談だな」
「冗談じゃなくて、ほんとなんだよ!」
「これが今の帝国のルールか。ったく、ほんとに面白くねぇ」
「どうしよう、ユーリ」
「さて……な」
「ちゃんとした罰も受けないなんて、こんなの絶対おかしいよ。そうだ!エステルに言えば、なんとかして貰えるかも知れない!」
「おい、あんまお姫様に迷惑かけんじゃねぇぞ」
ユーリの声が聞こえていないのか、カロルはそのまま慌ただしく宿屋から飛び出して行ってしまった。
酷く苛立ったユーリのため息と舌打ちが部屋に響く。
「ったく。なにやってんだよ、フレン」
「ユーリ、駐屯地のテントに居るかも知れない……行ってみようよ」
「あたしも行きたい。納得出来ないもん、こんなの!」
それぞれ憤りを胸に抱いたまま、三人で騎士団の駐屯地へ向かった。ラピードは目を閉じたまま動かなかったので、そのままにしておいた。彼も疲れているのだろう。
駐屯地に着くとユーリがあるテントに勝手に入ろうとした。止める間もなく、中から声がする。
「ノックぐらいしたらどうだい?」
「来るの、わかってたろ」
そう言葉を交わしてから、ユーリがわざとらしくテントを叩くと、案の定フレンが出て来た。その身にまとっているのは今までとは違う、真新しい鎧だ。ハルカは始めて見る物だった。ユーリとアイナは彼の鎧を見て何か気付いたらしい。
「本日付けで隊長に就任した」
「フレン隊の誕生か。また差つけられたな」
そうは言うもののユーリは自分の事のように嬉しそうだ。しかし、今はそれを祝っているところではないのではないかとハルカは思う。このタイミングの昇進は、まるで「口封じ」だ。昇進させてやるからこれ以上の手出し、口出しはするなという意図を疑ってしまう。
「そう思うなら、騎士団に戻ってくればいい。ユーリなら……」
「オレの話はいいんだよ。隊長就任、おめでとさん」
「ありがとう」
けど、とフレンは続ける。
「僕を祝うために来たわけじゃないだろう?」
「あぁ」
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ほたるび