09
昇降機を見張る騎士を退かす色仕掛け作戦は成功した。第一段階は順調だが、問題はこの後だ。わざわざ見張りを置く場所にこのまま堂々と入る訳にはいかない。即刻見付かって、捕まるか争いになるだろう。
その辺りはどうするのだろうと考えながら着替えを終えて戻ったハルカの目の前には、騎士団の制服を剥がれたらしい気の毒な男と、それに身を包むユーリだった。
「に、似合わない……!」
「言うと思った」
伸ばしたままの髪をアイナの手でひとつに結わえられながら、ユーリが顔をしかめる。彼の髪でポニーテールを作り終えたアイナは満足そうに全体を確認して、ご機嫌に頷いた。
「似合ってる。格好いいよ、ユーリ」
「そう言ってくれんのはアイナだけだよ……ま、このこの方が何かと誤魔化し効くからいっか」
苦く笑いながら自分に言い聞かせるように呟くユーリ。丁度そこへ別の騎士がやって来て、騎士団の制服に身を包んだユーリに怒鳴った。
「おい!何こんな所で油売ってるんだ!」
「お、どうした?」
「詰め所が大変な事になってるんだぞ!」
「なんだ、大変な事って」
「捕まえてた魔導士が暴れてんだ。ほら、早く来い!」
それだけ言って走り去った騎士の後をユーリが追う。あんなに似合わなかったのに制服を着ているだけで騎士に間違われるのかと感心したが、アイナもゆったり歩いてユーリが向かった先へ向かうので、ハルカ達もそうする事にした。
以前も立ち寄ったこの街の騎士団本部の中に入ると、倒れている騎士達の他に、ユーリと彼に腕を掴まれているリタが立っていた。どうやら騎士の制服を着ているユーリを本物の騎士と勘違いしたらしい。ひとまず騎士団本部を出たユーリ達は、人通りの少ない場所を選んで混乱するリタにこちらの事情を話した。
「それで、リタはどうしてこんな所に?」
首を傾げて尋ねるエステルに、リタは腕を組んだまま言う。
「ここの魔導器(ブラスティア)が気になったから、調査の前に見ておこうと思って寄ったの。そしたら夜中こっそりと労働者キャンプに魔導器が運び込まれてたのよ。その時点でもう怪しいでしょ?」
「それでまさか、こそこそ調べ回ってて捕まったって訳か」
「違うわ、忍び込んだのよ」
「……で、捕まったんだ」
どこか呆れた様子のカロルにリタは「だって」と拗ねて見せた。
「怪しい使い方されようとしてる魔導器ほっとけなかったから。そしたら、街の人が騎士に脅されて無理矢理働かされててさ」
「なら、ティグルさんもそこで働かされてる可能性が高いね」
「こんなの絶対に許せません」
アイナに続けてエステルが眉間を寄せて手をぐ、と握り込む。確かに騎士であるとか、ないとかそういう問題ではない。道徳的にあり得ないとハルカも思う。
「それで、おまえが見た魔導器ってのは?」
「兵装魔導器(ホブローブラスティア)だった。かき集めて戦う準備してるみたいよ」
耳慣れない言葉に首を捻るハルカに、アイナがこっそりと教えてくれた。兵器に用いる物という認識で合っているらしい。
ダングレストを攻めるつもりなのかと不安になっているカロルの隣で、友好協定が結ばれるというのにそんな事をする理由がわからずエステルが戸惑っている。するとアイナが呆れた様子で頬に手を当てて零した。
「まぁ、キュモールの事だからねぇ」
「だな。きっとギルドとの約束なんて、屁とも思ってないぜ」
「ユーリとアイナの知ってる人なの?」
「カロルも前に一度、会ってるだろ。カルボクラムで」
「あぁ、あのちょっと気持ち悪い喋り方する人だね」
「ここで話し込むのもいいけれど、何か忘れてないかしら?」
「そうだ!ティグルさんたちを助け出さなきゃ」
「それから強制労働をやめさせて、集めてる魔導器を捨てさせて……ええと」
「魔導器は捨てちゃだめ。ちゃんと回収して管理しないと」
リタに注意されたエステルが、だったら回収のためにアスピオの魔導士に連絡をしないといけないと言い出して、これは大事になってきたなとハルカは他人事のように思う。だが凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)をまとめるカロルの意向は「慎重に」だ。とりあえずは、ひとつずつ対処していくしかない。
当初の予定通り下へ向かおうと見張りを退かせた昇降機の方へ向かうと、キュモールと変わった髪型の男が話し込んでいた。気付かれてはいけないと物陰に隠れるユーリ達を余所に、ふたりは会話を続けている。
「おぉ、マイロード。コゴール砂漠にゴーしなくて本当にダイジョウブですか?」
「ふん、アレクセイの命令なんて耳を貸す必要はないね。僕はこの金と武器を使って、すべてを手に入れるのだから」
「その時が来たら、ミーが率いる海凶(リヴァイアサン)の爪の仕事、誉めて欲しいですよ」
「あぁ。わかっているよ、イエガー」
イエガーと呼ばれた男は大袈裟な身振り手振りを加えながら独特な話し方を続ける。
「ミーが売ったウェポン使って、ユニオンにアタックね!」
「ふん、ユニオンなんて僕の眼中にはないな」
「ドンを侮ってはノンノン、彼はワンダホーなナイスガイ。それをリメンバーですヨ〜」
「おや、ドンを尊敬しているような口ぶりだね」
「尊敬はしていマース。バット、海凶の爪の仕事は別デスヨ」
「ふふっ……僕はそんな君のそういう所が好きさ。でも心配ない、僕は騎士団長になる男だよ?ユニオン監視しろってアレクセイも馬鹿だよね、その癖、友好協定だって?」
「イエー!オフコース!」
「僕ならユニオンなんてさっさと潰しちゃうよ。君達から買った武器で!」
物騒な話を続けたまま、ふたりは昇降機を使って下りていく。
「僕がユニオンなんかに、躓くはずがないんだ!」
「フフフ、イエースイエース……」
ふたりが居なくなったタイミングを見計らってユーリ達は隠れるのを止める。イエガーという男がこちらを見て目を細めていたようにハルカには見えたが、気のせいだったのだろうか。
「あのトロロヘアー、こっちを見て笑ったわよ。あたし達を馬鹿にして……!」
リタが眉間を寄せてそんな事を言うのでハルカはつい笑った。あの独特で言い表し難い髪型をトロロヘアーと称するとは、センスがいいというか、唐突な面白い表現に我慢が出来なかったのだ。
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ほたるび