08
「それは禁止だよ!とにかく見張りを連れ出せればいいんだよ」
「どうやってです?」
強行突破は禁止だと頑なに主張するカロルが頭を悩ませながら、しかし明確に言葉にした作戦は妥当とも王道とも、呆れるとも言えるものだった。
「色仕掛け、とか?」
そういう作戦ならばとユーリがハルカ達女性陣を順番にじっと見詰めて言う。
「エステルは色気ねぇから無理だし、ま、ジュディスが妥当だよな」
「そうね、私が妥当よね」
「何その自信……?」
カロルが呆れた様子で呟く隣でエステルは色気がないと断言された事に落ち込んでいる。ハルカもアイナも最初から候補ではなかったようだが、理由はどんなものなのだろうか。アイナの場合はなんとなくわかる気もしたハルカだが、自分が候補にならない理由がわからない。自慢ではないが出る所は結構出ている。
そんな複雑な気持ちになっているハルカを余所に、ジュディス目を細めてけれど、と切り出した。
「私に全然見向きもしない人に言われても説得力に欠けるわ。どう振り向かせるのか、お手本が見たいのだけど。ね、アイナ」
「え、私!?」
突然矛先が自分に向いてアイナが動揺の余りハルカの手を握る。ユーリは眉間を寄せて猛反対した。彼は自身の恋人に他の男を口説かせるなんて、最初からさせる気がないのだ。何せユーリはアイナに関して心が狭い。アイナもアイナで、そういうのが苦手だろう事は、十年離れていたハルカでも予想が出来た。何せ彼女は、いい意味で変わったようで変わっていない部分が多い。
仕方ないとハルカは腹を括り、手を上げた。
「じゃぁ、あたしがやるわ!」
色仕掛け作戦決行のために必要なのは、相応の衣装だ。いつも着ている服では色仕掛けなんてもっての外である。動き易さ重視で色気も素っ気もないとハルカは思っている。個人的には気に入っているが。
さて、だからと言って「色気のある衣装」と言われても困るのが現実だ。ハルカが考えるに、ただ肌を出せばそれでいい訳ではない。露出部分が多いだけで色気があると思われるなら世の中は色っぽい女性だらけになるのだ。特に蒸し暑い時などは。
そこで行商人にハルカが注文したのは、チャイナ服だった。ただのそれではなく、足元のスリットをギリギリまで深くし、胸元は谷間が見える仕様になっている物だ。それならば柔らかい尻尾とバジリスクの鱗、小型鳥の羽毛さえあれば作れるとの事だったので、アイナが確認すると丁度持ち合わせがあったのでそれを渡した。
行商人の仕事は早かった。ハルカが思い描く赤いチャイナ服が数分待っただけで目の前に差し出されたのだ。数時間は覚悟していたハルカだったが、この世界の職人は仕事が早いらしい。彼女が知らないだけで特殊な魔導器(ブラスティア)があるのかも知れないが。
着替えを終えてユーリ達にお披露目すると、アイナ達まで着替えていた。どうやら素材が余ったらしくついでに作って貰えたらしい。エステルのレオタードのような服も、ジュディスの更に露出が激しくなった服も、色気という意味ではなんとなく理解出来るのだが、アイナの丈の短い黒いエプロンドレスに白いニーハイソックスと頭の黒い猫耳は、どうなのだろう。色気とは正反対であるように思うのはハルカだけだろうか。
が、しかし。
「はぁ?可愛いが過ぎる。オレをどうしようってんだアイナさん」
「いや、普通にエステルとジュディの勢いに負けて……」
色気とは正反対でもユーリは落とせたらしい。ユーリはこういうのが好きなのか、と抱き着こうとしたのをアイナに避けられているのを見ながら思う。避けられるのは想定していたのか、軽やかに身を翻して再度チャレンジしている。今度は成功したユーリは腕の中に納まったアイナに可愛いと馬鹿のひとつ覚えみたいに言っていた。
そういえばフレンはどういう服装が好みなのだろうかと考えて、慌てて止める。どうせ「張りぼての恋人」だ。気にする必要はない。
「(……でも)」
気になるのは、どうしてだろう。
また考えそうになって、ハルカは慌てて思考を作戦の方へ向けた。
アイナ達が元の服に着替え直すと、いよいよ昇降機を見張る騎士に色仕掛け作戦を決行する時が来た。
自分は女優。そう何度も言い聞かせてカツン、とヒールを鳴らしスリットをから覗く足をさり気なく強調すると、ハルカは努めて艶っぽい色の声を出す。
「あの、そちらの騎士のお方」
自分が彼の視界に入ったのが兜で顔が見えなくても動作でわかる。身長の低いハルカは相手からしたら自然と上目遣いになるし、この衣装だと顔を見ようとすると、自然と開いた部分から谷間も見える。彼の仕草から酷く狼狽えているのも手に取るようだった。
「なんていやらし……い、いや、怪しいやつめ!」
「どうかつれない事を言わないでください。あたし、あなたの仕事ぶりに心底感心しまして、一度お話してみたいと常々思っていたんです。ですから、こうしてあなたの気を引こうと頑張ってみたのですが、いかがですか?」
「い、いかがですかと言われても……私には帝都に結婚を約束した女性が」
そんな、と呟き俯いて肩を震わせれば、実際は涙を流していなくても相手からは見えない。泣いているようには見えるだろうが。そしてハルカの狙い通り、余計に狼狽えてくれる。
「す、すみません、そんな泣かなくても……わかりました。お時間作りましょう、あなたのために」
「まぁ嬉しい!では、こちらへ」
結婚を約束した女性が居るのにいいのか、と思わなくもないが今はこれでいい。真面目に見張りを務めていた彼には悪いが、利用させて貰う。
ユーリ達が潜んでいる方へ誘導すると、突然騎士が呻き声を上げて膝を折った。倒れそうになったところをユーリに抱えられている。何が起きたのかわからず周囲を見渡せば、アイナがなんだかいつもより怖い笑顔で立っていた。
「おいアイナ……」
「だぁいじょうぶ、手加減はしたつもりだよ。鍛えてる騎士がこれくらいで気を失ってたらダメだとは思うけどね」
「ボク、あれは倒れて当然だと思う……」
「何か言った?カロル君」
「な、何も……見なかった事にしよ、うん。ボクは何も見なかった……」
ブツブツ言うカロルはなんだかちょっと怖くて、誰に何を聞いてもハルカに教えてはくれない。エステルも口を濁すし、ジュディスはキレイな笑顔で「面白かったわ」と言うだけだ。そんな事どうでもいいから着替えておいでと穏やかに言うアイナに従って、着替えようと宿屋に向かう。
ユーリとカロルが少し内股なのは気のせいだっただろうか。
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ほたるび