07
ヘリオードに到着したのは、日が傾き始めてからだ。魔物との遭遇率が高く、手間を取ってしまったのが原因だった。そのせいで疲労が体を襲っている。しかし街が以前とは違って見えてハルカは気になった。ユーリ達も同じだったらしく、以前よりずっと閑散としていて人が少なくなっているように感じる。全体の雰囲気が、なんだか寂しい。
カロルがダングレストで耳にした話だと、建設の仕事が余りにもきつくて逃げ出す人が増えているらしい。彼も嘘か真実かは知らないらしいが、そう言われると納得出来る街並みになっていた。建設中の建物は街中に多く存在している。まだまだ発展中なのだ。
魔導器(ブラスティア)の様子を見るだけのつもりだったのだが、アイナとエステルは放ってはおけないらしく、ユーリ達はまず宿屋に行って作戦会議を行う事にした。変に張り切ったカロルが先陣を切って歩き出す。ギルドを作れた事が余程嬉しいのだろう。彼は朝からずっとあの調子だった。
当たり前のようにユーリとアイナが同室で一泊した翌朝、宿屋のロビーに集合して各々考えを出し合う。最初に口を開いたのはエステルだ。
「とりあえず街の様子を見て回りましょう」
「暴走した魔導器も見に行かなきゃね」
「そうだね。場合によっては人に話を聞いてみてもいいかも知れない」
カロルとアイナがそう同意すると、ユーリ達は一旦宿屋を出て街を見て歩いた。やはり以前よりも人が少なくて建設中の建物がある割には静かだ。新興都市にしては寂れすぎている。結界魔導器(シルトブラスティア)も暴走などなかったかのようにおとなしい。周囲の異常も収まっており、そちらは杞憂だったらしい。
ふと声をかけられて振り返ると、カプワ・ノールで助けたポリーと母親のケラスが居た。父親であるティグルの姿がどこにもない事に引っかかったハルカだったが、ポリーはそんな事気にも留めず笑顔で駆け寄ってくる。
「あの時のお姉ちゃん!」
「お元気でしたか?」
エステルが身を屈めて言うと、ポリーは元気に頷く。初対面のジュディスのために簡単に事情を説明したカロルに、ケラスは改めて頭を下げ感謝を言葉にしてくれた。そして何気なく父親が一緒ではないのかとエステルがポリーに尋ねると、ケラスは俯いて小さく答える。
「それが、ティグルの……夫の行方は三日前からわからなくて」
「あの噂、ほんとっぽいよ」
声を潜めてカロルがユーリに言うと、彼は静かに頷いてケラスと向き合った。
「心当たりはないのか?」
「はい……居なくなる前の晩も、貴族になるため頑張ろうと」
「ちょっと待ってください。貴族になるためって、どういう事ですか?」
何かがおかしいと感じたハルカが思わず話を遮ると、ケラスは街が完成すれば貴族として住む事が出来るのだという。それはおかしい、とエステルが声を上げた。
「貴族の位は帝国に対する功績を挙げ、皇帝陛下の信認を得る事の出来た者に与えられるものである、です」
「で、ですが、キュモール様は約束してくださいました!貴族として迎えると!」
「キュモール……騎士団に所属しているキュモールですか?」
アイナも難しい顔で尋ねると、ケラスは迷いなく頷きヘリオードの執政官だと言った。するとユーリも首を捻って難しい顔をして、カロルも彼を見上げながら言う。
「けどさ、今皇帝の椅子は空っぽなんだし、やっぱり、おかしいよ」
「そんな……じゃあ、私達の努力はいったい?それにティグルは」
「お父さん、帰ってこないの?」
雰囲気で察したのかポリーが悲しげに呟く。するとエステルはユーリを見上げ、小さく名前を呼んだ。わかっていると頷いた彼が言う。
「ギルドで引き受けられないかってんだろ」
「報酬は私が後で一緒に払いますから」
ユーリが確認を取るように視線を送ると、カロルはほんのひと間だけ考えた後で承諾する。ためらうケラスだったがジュディスも乗り気だ。
「次の仕事は人探しね」
「キモールだっけ?あいつアイナにも嫌な態度だったよね。今度会ったら蹴りたいと思ってたから丁度いいわ」
ハルカの発言に対してユーリがキモールではなくキュモールだと訂正してから、腰に手をやって少し口角を上げる。
「ま、あいつが馬鹿やってんなら、一発殴って止めねぇとな」
「そうだね。騎士の本分がわからないような人には、お仕置きしないと」
アイナも殴る方向で乗り気だ。紅の傭兵団(ブラッドアライアンス)との決戦を思い出してしまうと、彼女の言う「お仕置き」がどの程度なのか考えるのが怖い気もするが。
「こ、行動は慎重にね。騎士団に睨まれたら、ボクらみたいな小さなギルド、簡単に潰されちゃうよ」
カロルの注意に一応は了解と言っているユーリだが、本当にわかっているのかカロルが疑うような目を向けている。その辺は日頃の行いだろう。
「あたし達が、きっとお父さんを見付けるから、それまで待っててね、ポリー君」
「そういう事なので、お引き受けします。任せてください」
身を屈めてポリーと目線を合わせながら言うハルカに、アイナが続ける。ケラスは頭を下げながら、こちらが恐縮してしまうくらい何度も感謝の言葉を口にした。
仕事としてきっちり決まったところで、まず怪しい場所を探してみる。ジュディスが怪しいと言い出したのは、結界魔導器(ブラスティア)の正面にある、昇降機だ。立ち入り禁止で部外者が入れず、見張りまで居るとなると怪しさしか感じない。
「なんとか入れないでしょうか……」
「し、慎重に、を忘れないでよ」
カロルの注意を無視したユーリはひとり昇降機を見張る騎士に歩み寄り、堂々と声をかける。
「ちょっとこの先に行きたいんだけど」
「ダメだ、ダメだ。この先にある労働者キャンプは危険だからな」
だったら危険なのは労働者も同じではないのか、と言いたくなったハルカが必死に言葉を飲み込む。つい眉を寄せたのは許して欲しい。
そのまま戻ったユーリにカロルは心底安堵したのか、息を吐き出して緊張を解す。
「よかった……ユーリの事だから、強行突破しちゃうかと思った」
「そうだよね。でも慎重に、がギルドの首領(ボス)の命令でしょ?ユーリだって一応それくらい出来るよ。たぶん」
「おいアイナ、たぶんってなんだ」
「なんだろうねぇ」
はぐらかすアイナに少しばかり拗ねたユーリだったが、話はあの場所をどう通るかに戻る。エステルは頭を悩ませているが、ジュディスは違うらしい。
「やはり強行突破が単純で効果が高いと思うけれど」
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