鳴り響く後半戦開始のホイッスルと共に、帝国の司令塔鬼道有人のニヒルな笑みを浮かべた口から静かに発せられたのはデスゾーン開始の合図。必殺技を解禁し、前半戦より更に苛烈に雷門中を追い込んでいく。
帝国キーパーの源田なんかは雷門中に攻め込まれる気配もないため少々暇そうだ。
名前は自身に課せられたマネージャーという役割を果たす為だけに、その光景を淡々と眺めながら手元のスコアブックに書き込んでいく。

倒れる雷門中の選手たちを尻目に、愉しげにも見える余裕の表情で円堂を追い込んでいく光景が続いた最中、不意に蒼い影がその間に割って入る。

「こんなの…サッカーじゃないっ!!」

円堂を庇ってボールを受けたのは陸上部からの助っ人らしい、風丸一郎太だった。風丸本人の身体こそゴールに叩きつけられたが、円堂と得点は守られた。

思わず目を見開く。そうだ、こんなのはサッカーではない。シュートの詳細をスコアブックに書き込む事も忘れて、身を挺して円堂とゴールを守った風丸と円堂が会話する様子を眩しく思い、目を細めながら眺める。
風丸の行動に胸を打たれたのは名前だけでなく、守られた側の円堂もだった。

「絶対、このゴールは守ってみせる‼︎」
「フッ、一度として守られていないが…。」
「百烈ショット」

ボロボロの身体を奮い立たせて吠える彼を鬼道と寺門が一蹴する。
円堂は両手でボールを受け止めようとするもパワー負けしてしまい、無慈悲にも彼自身と共にゴールネットは計19回揺れた。
一瞬持ちこたえたかのように思われた円堂の様子に驚きつつも、先程までと変わらなかった惨状に再び名前は目を伏せる。


雷門イレブンからのキックオフ。しかし、今フィールドで立ち上がれる者はただ1人を除いて誰もいない。
その光景を受けて、雷門中の10番を背負った眼鏡の少年がとうとう泣きながらフィールドを去り、そのユニフォームが奇しくも‘彼’の前に落ちる。
もし、彼がフィールドに戻って来なかったら__、そう考えて豪炎寺の方を見ることが出来ないでいた名前は、雷門中のGKである円堂守が痛めつけられている方すら見られず、スコアブックに視線を落とすようにして顔を俯かせていた。

「無様だな。」
「無理だ。」
「お前等には、俺達から一点を取ることすらなぁ。」
「「ふっふっふっはっはっはっはっ」」

鬼道達帝国イレブンは、倒れている円堂を嘲笑する。

「まだだ‼︎まだ…終わってねぇ…まだ、終わってねぇぞ!!」
「「『⁉︎』」」

円堂守は何度でも立ち上がった。それに驚いたのはフィールドにいた彼らだけではなく、その光景を見守っていた名前やギャラリー、そして豪炎寺もだった。

「まだやるって言うのか‼︎」

しぶとさへの煩わしさか、或いは未知の底力への畏怖か。苛立ちを抑えきれない様子の寺門が、ボールで円堂をいたぶった後で20回目の得点を決める。遂に円堂は立ち上がることすら出来なくなってしまった。
縋るような思いで、無意識的に豪炎寺の方を見遣る名前。迷うような瞳をした幼馴染の姿がそこにはあった。そんな豪炎寺の姿を見ているとあの喧嘩した日を思い起こしてしまいそうで、思わず帝国イレブンの方に目線を動かし、そちらへ意識を集中させる。


__瞬間の静寂の後、ざわめき。
思わずざわめいた野次馬達の視線の先を辿れば、そこには先程脱ぎ捨てられたエースナンバーを背負った豪炎寺が静かにフィールドに近付いてくる所だった。一瞬だが、確かに絡まった視線。先程目があった時には迷い、揺らいでいるように見えたその鋭い瞳は決意を湛え、静かにメラメラと燃え盛る炎のように熱いものに変わっていた。

「あっ…」

思わず小さな声が唇から漏れ出て、慌てて口元を抑える。あの瞳だ。絶対に点を取ってみせる、と言わんばかりの鋭い眼光。誰も彼もがその姿に焦がされ、憧れを抱かせるような存在感を放つ佇まい。
名前のよく知るサッカー少年であり、エースストライカーの豪炎寺修也がようやくフィールドに帰ってきたのだ。

鬼道が豪炎寺の参加を承認した事で試合は再開する。帝国イレブンは、これで豪炎寺修也が今回の狙いであることを認識し、再びデスゾーンの体制に入る。
だが豪炎寺は円堂のフォローには入らない。驚愕する鬼道をはじめとする帝国イレブンだったが、この場でただ一人、名前だけは豪炎寺ならばそうするだろうと読んでいた。彼女の知る豪炎寺修也という男は誰よりも仲間を信頼し、そしてその信頼に応えてくれる者に対して何より誠実だった。彼は何度でも立ち上がり続ける円堂守という男を信じ、その信頼に応えてくれた暁__即ちゴールを守り抜き、ボールさえ回してくれるのであれば確実に点を取り、勝利を捧げると行動で示してみせた。

「頑張れ…」

つい名前の口を衝いて出た、敵チームを応援する言葉。ベンチ周りに誰もいなくてよかった等と気を回す暇はない。

「あいつ、俺を信じて走ってるんだ。俺が止めるって!これを止めた俺から、必ずパスが来ると信じて‼︎」

円堂も豪炎寺の行動の意図を汲み取り、自身を鼓舞する。掲げた右手にまばゆい金色のオーラを纏い、帝国学園が現段階で誇る最高峰の必殺技であるデスゾーンを見事止めてみせた。

「行け!豪炎寺!!」

円堂から豪炎寺へとパスが通る。一度豪炎寺にボールが渡ると、そのボールは彼の足元から一度たりとも離れずに驚愕する帝国イレブンの間を縫っていく。
きっと昨年のFF決勝で見ることができたかもしれないマッチアップの光景。
瞬く間に帝国の誇る守護神との一騎打ち。豪炎寺は高く舞い上がり、炎を纏い回転したのち、鋭くゴールを見据える。

「ファイアトルネード!!」

燃え盛るボールはキングオブゴールキーパーと中学サッカー界で言わしめる実力を持つ源田の反応を許さず、そのままゴールネットを揺らした。

__鳴り響くホイッスルと轟く歓声。雷門中が絶望的ともいえる状況から1点を返した瞬間だった。

やはり、やはり豪炎寺修也のサッカーは終わっていない…!名前は帝国のベンチで1人歓喜に震えていた。
もう見る事は叶わないかもしれないと思っていた光景を約1年越しに目の当たりにして、思わず涙腺と頬が緩む。帝国の試合放棄宣言がなされてから雷門イレブンが喜びを分かち合っている間も、エースナンバーの10番を背負ったその背中がフィールドを離れていくまで夢中になって目で追っていた。