「寒い。」
急激に寒さが増してきたとある秋の日の出来事。朝練の為に早朝から、帝国学園のだだっ広いグラウンドの端にあるベンチで名前は膝を抱えて丸くなっていた。
練習に加わるべく動きやすさ重視でハーフパンツなのは今更構わない所ではあるのだが、選手達と揃いの深緑色の長袖ジャージだけでは暖を取るのに心許ない。袖を出来るだけ伸ばして、ファスナーを一番上まで上げて、首をなるたけジャージの襟の中に収めるよう引っ込める。自身を抱き込むように腕を組めば多少はマシな気がした。
そうこうしているうちに、ガヤガヤと騒がしくなってくる。選手たちが着替えてグラウンドにやってきたのだ。体勢を崩さず彼等を出迎えておはようと挨拶を交わしていくと、突然ばさりと大きな布が名前を襲い視界を奪った。そしてついでと言わんばかりに、大きな掌が布越しに軽く叩くように頭を撫でていった。
「寒そうだな、それ着てていいぞ。」
大きな布__もといジャージを捲り顔を出せば、少しイタズラっぽい表情で笑う源田と目があった。周りの辺見や佐久間達は呆れ顔で一足先にフィールドに足を進めているようだ。
「ありがたく受け取るけど、渡し方ってものがあると思う。」
「悪かったよ。」
名前はそう口を尖らせながらも寒さには抗えない。大人しくジャージを借りる事にし、腕を通す。
自分のものより、ひと回りもふた回りも大きなお揃いのジャージ。自身のジャージを着込んだ上から羽織っているというのに容易に着られてしまったどころか、今尚ダボッとしている。徐ろに両の腕を前に伸ばしてみれば、指先すら袖口から除く気配はない。リブの随分手前から重力に従って袖が垂れ下がった。
「大きい…」
思わずそう呟いて、面白いものを共有する感覚で源田を見上げると、彼は先程頭を撫でていたであろう大きな右手で、その精悍な顔を覆ってそっぽを向いている。心做しか耳も赤く染まっているように見える。
なるほど、言うなれば彼ジャージというシチュエーションである事に名前は寒さにかまけていたおかげで今になって気付いたが、源田に思わぬ刺さり方をしたのだろうかと思うとなんだかむずがゆい。
そして一度意識してしまうと、一気に色々な事も気になってしまうものだ。__借りたジャージから柔らかな柔軟剤の香りと共に源田の香りがする。この大きなジャージそのものは彼と自身の体格差を如実に表している。彼に包まれているような、そんな錯覚。カッと熱くなる頬に思わず両手を当てるも、垂れ下がる袖口が揺れて鼻先に近付けば、鼻腔をより彼の香りが満たす。
チラと源田を見上げてみれば、いつの間にかこちらを真っ直ぐ見据えていてスッと両腕が伸びてきて肩を掴む。
「それ、他の男にやるなよ」
低く、囁くような声が鼓膜を震わせ、普段見ることのないどこか熱の混じる視線が絡む。
心も身体も、寒さなんて吹き飛んでしまった。