「…月の事件に超生物…三年前のあの組織壊滅……それらの真相はそういうことかい」
烏間の口から紡がれた言葉。
それは武装探偵社の者からすると俄に信じ難い真実。しかし、それは嘘偽りのない事実。
烏間を始め、彼女達の表情を見ればそれは一目瞭然だった。
烏間の言葉を聞き終えた後、開口一番に口を開いたのは与謝野。
彼女はふぅと深い息を吐きながら、腕を組んだ。
ちらっと刹那に視線を向けては納得するように言葉を零す。
「そのデータを奪い返し、組織も壊滅させたんだが…何処から情報が漏れたのか厳重に保管していたデータがまた盗まれた」
「調査した所、中には異能力者がいることが分かって烏間さんに相談していたら赤羽君に会ったんだ」
「で、刹那が武装探偵社で働いてるってことを俺が教えた。ちなみに俺はその暗殺教室の生徒で刹那の幼なじみ兼同級生」
烏間は目を閉じ、更に続けて過去の出来事を端的に説明した。
そこまで来れば分かったのだろう。
秘密裏に動いている内容だから詳細は伏せられていたことを。
それでも、武装探偵社の社員達は納得していないのだろう。
何故なら眉間に皺を寄せてる者もいれば、首を傾げている者もいるからだ。
降谷は烏間の言葉に続くように詳細を話す。
そこで、彼らがが協力関係にあったことは明白。
防衛省と公安警察がここにいることは。
財務省であるカルマがどうやって関わったのかという所も恐らく、刹那以外の者にとって疑問だったのだろう。
依頼を受ける際に貰ったのだろう名刺を太宰はポケットから出す。
彼の役職名に視線を向けていた。だが、彼が関わった流れが偶然だということが降谷の口から語られる。
カルマはヘラッとした表情を浮かべて、何故この武装探偵社に辿り着いたかの経緯を簡潔に述べた。そして、刹那との関係性も。
ここに辿り着いた経緯に刹那は頭を抱える。
それは教えなきゃ良かったと思っていたことを彼女の態度が物語っていた。
彼らの端的な説明に矛盾はない。
武装探偵社の社員は各々に納得する姿を見せた。
「………確か内務省異能特務課がありますよね?」
「…折り合いが悪くてな。君がいると聞いて安心して任せることにしたんだ」
「……これは防衛省と公安警察の共同捜査ってこと?」
彼女はふと、疑問を持ったのだろう。
眉をぴくりと動かし、降谷へ問いかけた。
そう、あるはずなのだ。
異能力者に特化した部署が。
彼女はすかさず、問いかけるが降谷は眉根を寄せて、困った表情を浮かべた。
それは烏間も同様。
カルマに至っては明後日の方向を向く始末だ。
刹那はじっと降谷を見つめ、言わせようと威圧的な視線を向ける。彼は何処か言いづらそうにしては白状した。
公安警察と異能特務課が仲が悪いのか。防衛省か。財務省か。はたまた全てとなのか。
それは不確かだが、何処かと仲が悪いのは三人の表情から見て取れた。
刹那ははぁ…と今日何度目となるか分からない深いため息を吐く。そして、結論を導き出して問いかけた。
「そういうことになる」
「……だって、国木田君」
彼女の言葉に烏間が首を縦に降り、肯定するすると彼女は半目になりつつも、納得しているのだろう。
それ以上問いかけることは無かった。そして、彼女の隣にいる国木田へちらっと視線を向けて、呼び掛ける。
「いや、頭が追いつけん」
「刹那さんが……元暗殺者?」
「人は見かけによらないもんだねぇ」
この数分で語られた真実に正直付いていけてないのだろう。
彼は頭を抱え、動揺をしていた。それは国木田以外も同様のらしい。
敦はよろめいて一歩引き下がた。
与謝野は腕を組み、一見動揺してないかのように見える。しかし、瞳は見開かれており、揺れていた。
明らかに動揺していることが伺われる。唯一表情も態度も変えなかったのは太宰。
彼は刹那の後ろ姿をただじっと見つめていた。
「変な目で見ない……話をさっさと戻す」
「こほんっ…データを奪取しました」
「すまない」
国木田、与謝野、敦、太宰からの視線を感じていたのか。
突き刺さる視線にぴしゃりと言葉を掛けて、無理やり話を引き戻そうと刹那は試みる。
彼女の言うことは最もだったのだろう。
国木田は咳払い一つすると取り戻したデータが入っているだろうUSBを懐から出した。
テーブルにコツッという音を立てながら置くと烏間は瞼を閉じ、一言謝罪を零すとUSBをテーブルから取り、懐へ締まった。
「アジトにあったパソコン本体に形跡あるものは全て消去済み……あのデータが他に流れてなければこれで終わるはずです」
「流石だな」
「仕事ですから」
刹那は腕を組みながら、データについて補足をする。
その言葉に処理が早い彼女に降谷はその当時を思い出したのか。眉を下げて微笑みながら、賞賛した。
彼女は当たり前のように言葉を返す。
その表情に照れも謙遜もない。事務作業のごとくだ。
「では…こちらが報酬だ」
「なっ!?」
相変わらずの彼女に依頼主である三人はふぅと息を吐く。そして、烏間は懐から小切手を取り出した。
それを受け取る国木田はそこに書かれた額面に息を飲んで驚きの余り、眼鏡が曇る。
それは体温が上昇した証拠と言えるだろう。
彼の反応に違和感を覚えたらしい。
武装探偵社の社員達は彼の持つ小切手を覗き込んだ。
「え、零の桁が違う…」
「随分太っ腹じゃないか」
書かれた金額に敦は頬を引き攣らせれる。無理もない。
18歳の少年が拝むことの無い額なのだ。
与謝野も覗き込んだまま、目をぱちぱちとさせて報酬としての対価に驚きを隠せていない。
「国家機密を共有した…その旨忘れないでもらいたい」
「……セキュリティ強化した方がいいですよ…依頼の件、社長に報告してきます」
烏間はこくりと頷き、言葉を返した。
それは口止め料も、上乗せされているということを安易に語っている。
その言葉に武装探偵社の社員達は納得したように反応を見せた。
やっと話が纏まった。
刹那はそう思ったのか、烏間に忠告を述べると踵を返す。
コツコツとヒールの音を響かせて向かう先は社長室。
「刹那さん」
「…何ですか?」
そんな彼女の後ろ姿を見て呼び止める声。それは降谷零。彼の声だ。
彼女はピタリと足を動かすのを止め、振り返った。そして、首を傾げて問いかける。
「また僕の協力者にならないか?」
「……私に依頼があるならどうぞ武装探偵社を御利用下さい。知り合い割引料として10%位は安くしてあげますよ」
彼は笑みを浮かべて問いかける。それは突然の申し込みだった。
彼女は瞳を閉じ、その言葉に対しての答えを返さない。
いや、遠回しではあるが答えていた。
それは身も心も武装探偵社に置く者だと主張しているようだ。
彼女は不敵に微笑んではさっともう一度踵を返し、社長室へと入っていった。つまり、降谷は誘いに断られたのだ。
「アンタも相変わらず、諦め悪いよね。手放した癖に」
「はは、確かにな」
そのやり取りを見ていたカルマは呆れたようにため息をつく。
それは何処か不貞腐れているようにも見えるが、彼の言葉の端々は刺々しさが垣間見えた。
彼の言葉に降谷は眉を下げて頷く。
認めざる終えないのだろう。
ずっと縛り付けていた公安協力者の立場をやっと離れた彼女。
元はと言えば、彼女が降谷に能力を見初められなければ良かった話だか、それは今は置いておこう。
「す、すみません。聞いても…いいですか?」
「何だ?」
敦は戸惑いの表情を浮かべ、降谷に声を掛ける。
彼の放つ威圧感に萎縮しているのか。体を縮こまらせていた。
それが見て取れたのだろう。クスッと笑い、降谷は首を傾げた。
「刹那さんって……本当に公安の協力者だったんですか?」
「昔だがな」
笑みを浮かべられたことにより、肩の力が抜けたのだろう。
何処かほっとした表情を浮かべて、敦は問い掛ける。
その言葉に降谷は瞼を閉じて肯定した。
「パソコンが出来るのってそういうことだったんですね」
「元々刹那はハッキングのプロだからね」
敦は彼女が壊れたパソコンを配線を弄り、普及させていた姿が脳裏に浮かべる。
あんな芸当が出来ていた彼女が公安の協力者だった。
そのことで納得が言ったのだろう。
カルマは出されていたお茶をゴクッと飲み、喉を湿す。そして、彼女の知られていない情報を提供した。
それはさり気ないものだ。
「「……え」」
「まあ、詳しくは本人に聞いてみたら?」
彼の言葉に武装探偵社の社員達は固まる。
それは江戸川乱歩に次ぐ頭脳を持つ太宰もまた然り。
カルマは彼らの鳩に豆鉄砲を食らわせたような表情にふっと笑みを零した。
持っていたコップをテーブルにコトっと音を立て起きながら、置く。
きっと彼女が自分自身の話をしていない事が分かったのだろう。
昔から彼女はそういう人物なのだ。
彼女が語らない部分をカルマが語る訳にいかない。
そう思ったのだろう。
あとは自分で聞けとばかりの口振りだ。
「…今回は依頼遂行に本当に感謝する」
「失礼します」
「じゃーねー」
さてととばかりに烏間が立ち上がると降谷やカルマも立ち上がる。
烏間は斜め四十五度。
丁寧なお辞儀をしながらお礼を口にした。
さすが礼儀がなっている男。堅物と呼ばれる男だ。
彼は頭を上げると事務所の出口へと歩き始める。
その姿に苦笑しては降谷も武装探偵社の社員たちに一言告げ、彼の後を追った。
カルマはそんな二人の姿にはぁとため息をつく。
彼からするとどちらも堅いのだろう。
いや、降谷は烏間ほどではないだろうが。
カルマは手をヒラヒラと振りながら、出口へと歩き出す。
もう彼の前にはいない烏間、降谷の後を追った。
彼は最後に事務所と廊下を繋ぐ扉をバタンと閉めて、出て行ったのだった。
「…なんか、また刹那さんの謎が増えました?」
「彼女は太宰並に謎が多くないか?」
固まってただただ彼らの背を見送ることしか出来なかった武装探偵社の社員達。
敦は眉根を寄せて、困った表情を浮かべる。それは無理もない。
今まで抱いてきた謎が解けたと思えば、また新たな謎が出てきたのだ。
その思いは国木田も同様のようだ。
ズレ下がった眼鏡をくいっと上げてはコクリと頷く。
太宰治は武装探偵社一の謎の男。
太宰治と競うほど謎な女。
そのレッテルを張れるからだ。
「それはお似合いってことかい?」
「……ある意味そうかもしれないねぇ」
太宰は国木田、敦から視線を向けられると冗談交じりに明るい声音で問いかける。
いや、冗談ではなく本気かもしれない。
彼の言葉は誰にも測ることは出来ない。
その問いかけに与謝野は人差し指を顎に当て、考える素振りを見せた。そして、彼の問いかけを眉下げて微笑みながら肯定する。
まあ、彼女の意図している意味は謎の男と女。という意味でなのだが。
「国木田君、これ…社長から……」
「ってことで、刹那さん!私と一緒に心中してくれ……」
ガチャっとドアノブが回る音がすると社長室から刹那が出てくる。
報告は終わったようだが、新たな書類が彼女の手で持たれていた。
国木田に何かを言おうとしていたが、それは最後まで言い終わることは無い。
何故なら、太宰が大きな声で刹那の名前を呼ぶからだ。
彼は大きな一歩を踏み出し、バレリーナのようにクルクルと彼女の前で回る。そして、全力で抱き締めようとするように両手を広げ、心中のお誘いをした。しかし、彼もまた全てを言い終えることは無い。
レッグホルスターに締まっていた超生物対応銃から麻酔銃にいつの間にか変えていたのだろう。
彼女は彼が言い終える前に麻酔銃の引き金を引いた。銃口からは細い針が発射される。
「ふざけたことをほざくと眠らせるわよ、太宰くん」
「うっわ〜お…」
((刹那/刹那さんって…ウチで一番怖いんじゃ……))
どうやら、狙いはわざと外したらしい。
彼の頬にかすることなく頬スレスレで針が通り過ぎた。
彼女は悪気もなくにっこりと微笑みながら、彼へ忠告する。
綺麗な笑み。
それが余計に恐怖を与えるのか。流石の太宰も顔を青くさせる。
国木田、敦、与謝野はそんな二人のやり取りをじっと見守っていた。そして、彼らは心同じくして思ったことはただ一つ。
刹那を敵に回すのは得策じゃないということだった。
50000hit企画ということで、
皆様からリクエストを募集させて頂きました。
今回頂いたのは、
『元殺し屋と探偵たち』の夢主が
文豪ストレイドッグスの世界にいたら
ということでした。
つまり、
暗殺教室 × 名探偵コナン × 文豪ストレイドッグス
という複合クロスオーバーです。
初めての複合クロスオーバーで、
どうまとめようかと悩んだりもしましたが、
自分としてはとても、面白く書くことが出来たと思います。
リクエストありがとうございます。
伝わる文で書いているか。
と言われるとかなり不安ですが…伝わっていると嬉しいと思います。
楽しんで頂けたでしょうか?
もし、楽しんで頂けたならこれ以上ない幸せです。
最後までお読み下さり、ありがとうございました!
管理人 星月蓮(2019.07.12)