澄み渡る青い空。
それを見上げると優しい風が靡いた。
蝶屋敷の縁側に座って、それを感じている俺は平和だと思う。
もう少ししたら、完治したと見なされて、任務が入ると思うと憂鬱だけど。
俺の名前は我妻善逸。
自分で言うのもなんだけど、弱い。超絶弱い。
なんで、毎回毎回運よく生きてるのか分からない。今回もボロボロに怪我をして蝶屋敷で世話になってる。
泣いて叫んで、炭治郎にしがみつくと“善逸は強いぞ”なんて言ってくる。
慰めはよせやい。
俺は弱いんだから、守れよ。
何の根拠を持って言ってくるのか分からないけど、自信満々にそう言う炭治郎が憎く思える。
曇りない目で言ってくるから、殺意さえ芽生える、本当に。
「善逸さあああああん!!」
ドタドタドタドタと凄まじい足音と俺の名前を呼ぶ……叫ぶ声が聞こえてくる。
いや、そんなに叫ばなくても聞こえるっつーの。
俺、耳いいのよ?
俺の名前を叫んで近づいてくる女の子の声に心の中でツッコミを入れつつ、いつもと違う音に違和感を覚えた。
この前まで恋の音をさせていたのに……近付いているのは痛いほど傷付いている音、だ。
「まーた、騙されたわけ?」
「うわああああああん!!どうして……どうして!?どうして!!こんなに男運がないんでしょうかああああ!!?」
俺は呆れた目を向けて、俺の元に来た彼女に問いかける。わかりきっている答えは悲痛な叫びと共にこの子の口から紡がれた。
俺の問い掛けに対しての答えはないが、肯定と同意義だ。
男絡みで泣いているのは間違いない。
俺がこの台詞を聞いたのは何度目だろう。
両手じゃ足りないのだけは確かだ。
「はいはい……で、今度は何があったの?」
「二股かけられてたあああ……どうして……?なんで!?ねぇ!!なんでぇ!?」
服をぎゅっと掴んで離さないこの子の頭を撫でながら、慰める。
聞きたくもないけど、ひどく傷付いた音をしてる彼女がほっとけないから、つい聞いてしまうんだ。
俺は昔から耳が良かった。
呼吸音、心音、血の巡る音……それを注意深く聴くと相手が何を考えているかもわかった。
どんなに騙されても、信じたいと思う人をいつも信じた。信じたいから。信じていたいから。
だから、……だからさ、分かる。
分かるよ。同じだったから。
でも、……でもさ?
俺が言うことじゃないけどさ?
「知るわっきゃねえええええええだろおおおおおお!?」
「!?」
俺の中でブチって音が聞こえた。
女の子にこんなことを言いたくないけど、我慢の限界なんだよ。彼女の問い掛けに対しての答えをブチ切れて答えてた。
まあ、驚き過ぎて泣いてた涙が止まってた。泣き止んだのは良かったけど。
……もう少し方法を考えろよ。
女の子に対してなんて言い方だよ。
そんなことを頭の片隅にいる冷静な俺が言っていた。
「俺、止めたよ!?止めたよね!?毎度毎度毎度毎度!!でも、聞かなかったよね!?」
俺の中の怒りの噴火は止まらなくて、叫び返す。
冷静な俺なんか知ったこっちゃない。
目の前にいる子は恋多き女の子。
だから、恋の音をさせるところをよく見かけた。
でも、恋する相手は……最悪。
いや、最悪も最悪よ。
人を騙して、悦に浸ってるような人間ばっかり。
え、なんで?そんな男選ぶの?
絶対、アオイちゃんとかが蔑む目で見るような男よ?
そう思う男ばかりなんだよ、本当に。
俺は傷付くのが、わかってるから止めてた。そりゃ全力で。
でも、でもね?この子!!
ほんっっっっとうに人の話を聞かないんだよ!!
いい加減、好きになる男に気を付けるとかさあ!!
好きになる男に警戒心持とう!?
そこ!!猪突猛進しなくていいから!!!
恋して、結ばれて、騙されて。
この三本立てを間近でずっっっっっっと見せられてんのよ!!
そんな姿を何度、見送ってきたと思ってんの!?
俺は炭治郎みたいに優しくないんだよ!?
「ううぅ……だってぇ……」
「嫌な男だってわかってても、好きな子の背中を見送らなきゃいけない俺の気持ちが分かる!?傷付いて、泣いて帰ってくる姿を見る辛さがわかるぅ!?俺の方がかわいそうすぎじゃん!?」
「………へ?」
眉根を寄せて言い訳を始めるけど、俺の言い分が正論な分、彼女は言葉を濁す。
そんな可愛い顔してもダメだからね!
俺はもう我慢ならない!!
そう思って、感情のまま言葉を紡いでた。
ぎゃあぎゃあと言いながら、隠しておくつもりだった恋慕までさらけ出してた。
さらりと流れるように伝え、後半は俺が自分を慰めるような逆ギレの言葉だったから、一瞬何を言ってるのか分からなかったんだと思う。
正直、俺も分からなかった。
彼女はキョトンとした顔を浮べて、素っ頓狂な声を上げる。
その反応を見て、俺は気付いた。とんでもないことを滑らしてしまったことを。
あっ、やばい。
そう思っても、でてしまった言葉は取り消せない。
「っ、〜〜〜〜〜〜〜〜ああああああああああああああああ!!言っちゃった!!言っちゃったよね!?聞いちゃったよね!?もうっ!!覚悟しといてね!?」
「………………は、はい………」
事の重大さに気付いた俺は徐々に体温が上がることに気が付いた。
きっと顔が赤い。耳が熱いし、頬も熱い。
熱を出したみたいにあつい。
もっとちゃんと伝えたかったのにことも無く、あっさりばらしてしまった恋慕にパニックになってる俺の口は勝手に動く。
俺は覚悟を決めて宣戦布告の言葉を叫んだ。
心臓の音がうるさい。
バクバク。バクバク……
でも、俺と同じくらい彼女の心臓の音もうるさかった。
彼女の表情を見れば、ぽかんとしていて顔色は真っ赤。
彼女は俺の勢いに押されたかのようにこくりと頷いて返事を返した。
何、この反応……え、期待してもいい??いいの??
俺たちはそれ以上言葉を交わすことが出来なくて、ただ黙っていた。
それこそ、炭治郎と伊之助が来るまでじっとお互いの顔を見つめ合っていた。