「…………」
ああ、私はなんてことを言ってしまったのだろう。
恋愛相談して傷付けてる。
どうしようって悩んでた。
そう悩んでたのに!
なんで、お見舞いに来てくれた善逸さんに足してあんなひどいことを言っちゃったのおおおおおお!!
私はバカなの!?バカですよね!!
はいぃぃ!!
私はベッドの上で掛け布団を頭からかぶり、饅頭のようになって丸まって自分を責めていた。
「……なんで、私ってこーなんだろう…」
「何が?」
「何がって……なんでいるの!?善逸さん!?」
罪悪感を感じてた人に対して暴言吐くとか何事なんだろう。
泣きそうだよ。
そう思いながら、呟いた言葉だった。
でも、その一言を拾う声が聞こえる。
それはもう聞き慣れた声。
私は当たり前のように聞こえてくる問い掛けに答えようとした。
でも、誰もいなかったはずの病室でその声に目を見開いて驚くと掛け布団の中から飛び出して、起き上がった。
思った通り、悩んでいる原因の人。
善逸さんが椅子に座っていた。
思わず、声を荒げて聞き返す。
「そんな叫ばなくても聞こえるっつーの……だから、お見舞い」
「断りましたよね!?」
彼は眉を下げて柔らかく微笑みながら、私の問い掛けに答えた。
なんて、冷静な受け答えなんでしょうか。
あれ、いつもと何処か違う。
そんなことを思いながら、彼の答えにあらがう様に言葉を返した。
酷い言い方だったけど断ったのは事実だから。
「だって、アオイちゃんが別に問題ないからどうぞって」
「…………」
さも、アオイさんが許可したからいい。
そう言いたげな彼。
いやね、病状知ってるのはアオイさんだし、彼女が許可したなら、本当にいいんだろう。
でも、でもね?
アオイさんは私が悩んでること知ってるよね!?
アオイさあああああああああんんん!!
私は心の中で今日一番、気持ちを込めて彼女の名前を叫んだ。
「……やっぱり、ダメか」
「え……?」
私が頭を抱えて自問自答してると善逸さんはどこか悲しそうな色をした瞳をして、ぽつりと言葉を零す。
聞き取れてしまったんだけれど、それがどういう意味を成すのか分からない。
だから、思わず、聞き返してしまった。
「え、あ。……ううん。何でもない。体調はどうなの?走ったりしてたけど」
「あ、えっと……大丈夫です。骨がくっついたら完治、です」
善逸さんはハッと我に返るとフルフルと頭を振り、優しい笑顔を向けてくれる。
そして、まるで話を逸らすように私の体調を聞いてきた。
少しの違和感を感じながらも私はこくりと頷き、現状の体調を伝える。
「えっ!?骨が折れてるのに走ったの!?大丈夫なの!?悪化してない!?」
「だ、大丈夫です……」
善逸さんは今にも泣きそうな顔をして私の身体を心配するように叫んだ。
本当に自分の身のことの様に痛い痛いと自身の両腕を摩りながら言っている姿。
どこまであたたかくて優しい人なんだろう。
そう思いながら、彼を安心してもらえるように言葉を返した。
良かった…と胸を下ろし、安堵した表情を浮べる善逸さんに私はツキンと胸の痛みを感じる。
「さきほどはごめんなさい」
「え、ど、どうして謝るの?」
この痛みは彼を全力で拒絶したからかもしれない。
そう思ったからなのか、自然と口から謝罪の言葉が零れ落ちていた。
まさか私が謝ると思っていなかったらしい。
彼はキョトンとした表情を浮べ、首を傾げる。
「…せっかくお見舞いに来てくれたのに顔を見たくないって…言っちゃったし……」
私は眉を下げ、小さい声でぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
どんなに小さい声だって彼の耳には届くと知ってるからかもしれない。
ああ、ここまできて甘えてる私。
なんて、弱いのだろう。
「え、あ、あ……大丈夫だよ!たまたま言っちゃっただけ、でしょ……?」
「……」
私が謝った理由を理解すると彼は極めて明るい声で大丈夫と言葉を掛けてくれる。
優しい笑顔で。
でも、自信はないんだと思う。
だんだん弱々しい声で私に確認するように問いかけて来た。
私はただ首を縦に振るしか出来ない。
「……俺こそ、ごめんね。盗み聞きするつもりは本当になかったんだ」
「はい……」
彼は眉を下げ、寂しそうに笑みを浮かべて私に謝る。
きっと彼が言う通りなんだと思う。
だって、耳が良い彼だ。
きっと屋敷の玄関口にいたとしても、きっとこの話は届く。
でも、それは聞こうとしてじゃない。
わざとじゃない。それが分かってた。
でも、あの時はテンパってしまってああいうしか出来なくて。
ああ、傷付けてしまった。
そう思いながら、返事をする。
「……俺の気持ちは迷惑、かな」
「え……?」
彼は困ったように眉根を寄せ、ぽつりと言葉を零した。
突然のその言葉に私は意味が分からなくて、戸惑うしかなかった。
「そ、そうだよね!こんな弱くて泣き虫で頼りない奴から思われても迷惑…」
「ち、違います!!」
彼は焦りながら、言葉を紡ぐけれど私の顔を一切見ようとしなくて。
どんどん紡ぐ言葉が早くなっていって。
彼が勘違いしてることが悲しくなって私は大きな声で彼の紡ぐ言葉を遮った。
「………」
「本当に…本当に嬉しかったんです!……でも、善逸さんの気持ちに気が付かないまま、相談してたなんて……私はなんて嫌なやつなんだろうって……自分が嫌になっちゃって…」
「俺はそんなこと思ったことないよ?」
善逸さんは私が彼の言葉を遮ったことに驚いたかのように目を見開いて、黙り込む。
私は自分のことを否定的に話す善逸さんが悲しかった。
きっと私が心苦しいと思っていることを音で分かってる。
でも、どうしてそう思ってるのかなんて伝わってないと思ったから、拙い言葉だけれど必死に伝えた。
自分で言葉にしてみて改めて思う。
ああ、私はなんて嫌な奴なんだろう。
私が落ち込んだのが分かったのかもしれない。
彼は柔らかい笑みを浮かべて、私に言葉を掛けてくれる。
こんな時でも私に気を掛けるんですね。
あなたの優しさに泣きそうです。
「……」
「この間は思わず、言っちゃったけど…君が幸せに笑ってる姿が見れれば、そんなの我慢できる。でも、泣いてる君を見てたら…我慢できなくなった」
涙をぐっと堪えながら、善逸さんを見つめていると彼は笑みを浮かべたまま目を閉じて、私の手をぎゅっと握った。
その手はごつごつとしていて、たくさん刀を振って、豆だらけの手。努力された手はとても暖かくて、目頭が再び熱くなる。
「どうして、善逸さんはそんなに優しいんですかぁ……」
「はあ!?優しい!?俺は優しくないよ!?優しいって言うのは炭治郎みたいな…」
「優しいです!!」
泣かない。泣かない。
そう思いながらも、涙声で彼に文句を言う様に言葉を零した。
しかし、簡単に認めてくれない彼は声を荒げて否定する。
本当にどこまで自分を否定して、拒絶するんだろう。
こんなに優しい人を私は知らないのに。
私は善逸さんが紡ぐ声よりも多きの声を出して、彼の言葉を否定した。
「………」
「だって、ずっと私のバカみたいなれない話を聞いて自分の気持ちを私に隠してたんでしょう?……私だったら、出来ないし、苦しいし、辛いです……っ、……」
善逸さんは私の声に驚いて目を見開いて、黙り込む。
今がチャンスだ。
きっとここで言わないとちゃんと伝わらないし、認めてくれない。
この人にたくさん私は救われてきた。
でも、その分。
善逸さんは自分の気持ちに蓋をし続けて来たのか。
何度も何度もそれを考えて来たけれど、それを彼に伝えようと思たら、もう涙がポロポロと流れ落ちるしかなくて。
ああ、なんて情けない姿なんだろう。
そう思いながら、伝わるようにと思いを込めて言葉を紡いだ。
「バカだなぁ…そんな泣くことないじゃん」
「だって、だって………っ……」
「君ってさ、本当に純粋だよね」
どんなに止めようと思っても止まらない涙。
それを見た彼は私の涙を優しく拭ってくれる。
私はもう認めてくれない彼に駄々をこねるしか出来てなかった。
彼はふっと笑みを零し、私の話をし始める。
「っ、……ふっ……」
「君からは夏空の風鈴みたいな優しい音が聞こえてさ。最初は珍しいなって思ってたんだ」
「………」
私は涙が止まらなくて、息が苦しくて、呼吸を整えようと必死になった。
そんな私を見て穏やかな顔をしながら、善逸さんは私から聞こえてくる音の話をしてくれた。
「俺と同じでたくさんだまされてきて、傷付いてきたんだって知った。でも、諦めずにまた人を信じるじゃん?そんなキミの姿に惹かれたんだ」
「……善逸さんも、同じだったんですか?」
スンと鼻を啜り、彼の顔をじっと見つめながら、彼の言葉に耳を傾ける。
突然の話に私の涙は止まり、首を傾げて問い掛ける。
「俺も孤児だったし、奉公してたし…女の子に騙されてきたし」
「……耳がいい善逸さんの方が辛かったと思います」
彼はこくりと頷いて、少しだけ語ってくれた。
初めて聞いた彼の生い立ち。
同じような境遇。
それに目を見開かずにはいられなかった。
でも、境遇が似ていても、耳が良い分。
彼の方がきっと苦労したはず。
私はどうして優しい人がこんなに辛い目に合わなければいけないのかと眉根を寄せた。
「ううん、分かってて騙されてた。俺は騙されてるって分かってて、それでも信じたい人を信じたんだ。だから、後悔はないよ」
「………」
分かっていて騙された。
その言葉をさらっと言えてしまうこの人はどれだけ強いんだろう。
いつもだったら、死んじゃうとか嫌だと言って、泣いて叫んで怒るのに。
自分の気持ちに正直なのに。
でも、信じたい人を信じたって、それもまた自分の気持ちに正直なのかもしれない。
それがたとえ、騙されてると分かっていても。
でもでも、それはなかなかできることじゃない。
やっぱり強くて優しい人だって改めて思った。
「でも、君は騙されてることを知ることは出来ないでしょ。それでも全力で相手に愛情を伝える姿に凄いと思ったんだ」
「そんな……」
彼は続けて、話を私へと向ける。
私は善逸さんみたいに耳は良くないし、炭治郎さんみたいに鼻が良いわけじゃない。
知ることが出来ない。
だったら、最初から信じてた方がいい。
そう思ってた。
それでいつも最初からすべてを信じすぎだとため息を付かれることはある。
惚れっぽいってバカにされたことはあるけど、そういう風に褒められたことなんて、ない。
「…俺、めっちゃ尽くすよ。君の笑顔をずっと隣で見ていたいし、笑顔にできる存在で、いたい」
「善逸さん……」
善逸さんはずっと握ってくれていた手に少し力を籠めると私の目を見て、真剣に思いを伝えてくれる。
ああ、なんて凄い人に好かれたのだろう。
私は幸せ者かもしれない。
そう思いながら、私は彼の名前を呼んだ。
「な、何……?」
「……私、きっと嫉妬深いですよ」
ごくりと固唾を飲む音が聞こえる。
きっと彼も緊張してるんだ。
そりゃそうだよね。
好いた人に告白するのは手も震えるし、緊張もする。
私は善逸さんに好かれてるということを改めて思うと心があたたかくなった。
きっと私はこんな私を想ってくれる人に二度と出会うことはないって分かる。
私は悪戯笑顔を浮かべて、言葉を紡いだ。
「それは俺もそ………え?」
「こんな私ですが、よろしくお願いします」
彼は眉根を寄せて、私が紡いだ言葉に同意しようとしたけれど、その言葉は途中で途切れる。
私が告白を受け入れると思ってなかったのかもしれない。
首を傾げて、固まってる。
私は久し振りに心から笑えた気がする。
ふふっと笑みを浮かべて、握ってくれていた手を今度は私が彼の手を握り返してぺこりと頭を下げた。
数秒後、善逸さんは滝のような涙を流して、わんわんと言いながら、私を抱き締めてくれた。
こんな近くに私を大切にしてくれた人がいたことに感謝しながら、私も彼の背に手を回した。
ありがとう。これからよろしくね。
善逸さん。