思わず、へっぴりごし





 思わず、告白してしまってからひと月が経った。
 それまで顔を合わせることがないでいると彼女が怪我をしたという話を耳にした。
 俺は彼女が心配で蝶屋敷に訪れたんだ。

「……だって、いつも私の恋愛相談乗ってくれてた人が、好いてくれてたなんて誰が思います?」
「まあ……それはそうですけど、わかりやすいじゃないですか」

 あの子がいる病室に向かおうとしたら、当人の声が縁側からするじゃない?

 なんで??

 そう思って、そちらへ向かうとまさか、まさかさぁ…俺の話をしてると思わないじゃない!?

 やっぱり、俺が好きだって気付いてなかったんだよね!?
 うん!知ってた!!

 てか、アオイちゃんが気付いてたことの方が俺は驚きだよぉ!!
 
 そんなことを思いながら、壁に隠れて聞き耳を立ててた。
 いや、聞き耳を立てなくても聞こえるんだけどさ。

「私、惚れっぽくて好きになるけれど、好きになられた事、ないんです。一度も」
「…………」

 彼女の声は至って真剣だ。
 嘘の音もしない。
 あんなに可愛いのに、ないってどういうことだよ。

 あれ、待って。
 そうなると俺が初めての人じゃん!?
 あ、やだ!!
 それは嬉しすぎるよぉ!!

 彼女の言葉をぐるぐる考えるとそれは結果的に俺にとって吉報でしかなくてただ一人で舞い上がってた。
 それはもう自分でも頬が緩んでいるのが分かる程だ。

「アオイさん?」
「いいえ……でも、今まであなたが好いた方より大分ましだと思いますよ」

 いやいや、アオイちゃん。
 大分ましって何よ。絶対ましでしょうよ。
 比べるまでもなくさ。薦めるならガツンと薦めてよ。

 俺、悲しくなるじゃん?

 二人の会話を聞き続け、俺は心の中で突っ込めるとこは限りなく突っ込んだ。

「あの人の気持ちに気付かないまま、今まで知らずにそうだんして甘えて…傷付けてたんですよね……」
「……それは善逸さんが決めることであなたが決めることじゃないと思いますよ」
「どういうことです?」

 あの子から聞こえてくるのは罪悪感。
 痛い。苦しい音。

 なんで、そんなに悲しい音をさせるの?

 そんな音をさせるために俺は告白したわけじゃない。
 俺を傷付けたって悲しまなくていいんだよ。
 俺は君の笑顔が見たくてやってたんだから。

 ……いや、あの、思わず告白しちゃっただけなんだけどね?

 本当は好きな子が笑顔で、幸せにしていればいいんだ。
 でも、あんなに傷付けられてるなら、俺が幸せにしたいって思ったんだけど、

 ……そっかぁ…
 やっぱり俺が好きな子を幸せにするなんて、無理だったんだなぁ。

 心の中で、ずっと彼女達の言葉に逐一、心の中で返事をし続けた。

「善逸!こんな所でどうしたんだ?」
「ぴぎゃっ!?」

 宣戦布告をしたばっかだけど、彼女を苦しめるくらいなら諦めた方がいいかなぁ。
 壁に頭を寄せ、はぁと身体の力を抜くように息を吐いていると奴は廊下から現れた。

 めちゃくちゃ泣きたくなるような優しい音を持った長男。
 炭治郎がさわやかな笑顔を俺に向けて、問い掛けてくる。

 おまっ……おまえぇぇ!!
 脅かすなよなぁ!?
 てか、声がでかいんだよ!
 バレるじゃんよ!バレるじゃんよおおお!?

 案の定、お絵がここにいることがバレるとなんとも形容しがたい顔でこちらを見てくる彼女。微動だにしない程、動かない。
 でも、すんごい音が彼女から聞こえる。

 あー……これ、何て言われるんだろ……

「盗み聞きですか!?耳いいのになんでそんなこそ泥みたいな事するんです!?」
「違っ!俺はただ、怪我したっていうから見舞いに行こうとしたら、たまたまここで俺の話をしてて……」

 徐々に肩を震わせ、彼女は叫び出す。

 ああ、そうだよね。
 君らしくていいと思うよ。

 そんな感想が頭を過った。
 それでも、ワザとじゃない。
 俺の話をしてたから、出ていけなくなったんだよ。

「善逸さんの顔見たくないんで、面会謝絶です!!ご心配ありがとうございましたあああああああああああああ!!」
「うぇっ!?ちょ、ちょっと!!」
「え!あっ、待ってください!!怪我が悪化したら、どうするんですか!!」

 言い訳って言われてもいい。
 事実だし。

 確かに結果として盗み聞きになったのは悪いと思うしさぁ。

 最後まで聞いてくれても良くない!?
 ってか!!俺の顔見たくないって何!?
 今見てるけど!!ダメなの!?

 そう突っ込もうにも、言う暇なく彼女は去って行った。

 え、怪我してたんじゃないの?
 物凄い速さで去って行ったよ。
 そんなに俺、嫌われてたの??

 思わず、茫然とその姿を見送るしか出来なかった。

 いや、ショックだったのもあって。

「……善逸、すまない」
「ほんっっっとうだよ。とうんでもねぇ炭治郎だよ。お前は。どいうしてくれんだよ」

 流石の俺も落ち込むよ。本当に。
 伸ばした手は何も掴むことなく、終わったやったよ。

 炭治郎は申し訳なさそうな声で謝ってくる。

 お前はいつもいつもいつも、タイミングが悪いんだよなぁ。
 うん、お前はそういう奴だよ。分かってる。

 でもさ、でもさ?
 こういう時ぐらい読んでくれたっていいよな。
 空気を。

 その思いがそのまま、口から出てた。
 俺の顔は凄いことになってると思う。自覚がある。

「………ま、まあ…落ち着けば話し合える…と思うぞ」
「っ、はああああああああああああああああああああ……」

 炭治郎はおろおろしては俺を元気づけようとしてくれてる。
 でも、その根性論ぽい励ましは今の俺にはどん底に落とすだけなんだよ。
 俺はただただ、深い深い溜息が零れるだけだった。

 でも、まだ正式に振られたわけじゃない。
 だから、ちゃんと振られるまでは宣戦布告した通り、思いを伝えて行こう。そう思った。

 …ちょっと、怖気づきそうだけど。



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