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【注意】

早乙女学園卒業後の話です。
本編はどうなるか分かりませんが、
この番外編では声を取り戻し、カルテットナイトの作曲家になっております。

それでも大丈夫な方は先へお進みください。
苦手だと思った方は推奨いたしません。

それでは物語へとお進みください。




「ねえねえ、明莉ちゃーん」
「どうしたんですか、寿さん」
「ノンノーン!いつもれーちゃんって呼んでって言ってるじゃなーい!」


 シャイニング事務所にある一室に4人の男性と女性が集まっていた。男性側の顔を見ればひと目で誰だか分かるだろう。
 なんせ、QUARTET★NIGHTというグループのアイドルたちなのだから。
 その1人である寿嶺二は何かを期待するように明莉に声をかけると彼女は淡々とした態度で返事をする。
 それは気持ちのいいぐらい冷静だ。
 だが、彼はその対応を受け入れられないらしい。
 人差し指を横に振って文句をいえば、拗ねたように唇を尖らせた。
 アイドルと言ってもいい歳をした男にもかかわらず、だ。


「いや、先輩にそんなこと言える訳ないじゃないですか」
「そんなこと言ってぇ……アイアイには”藍くん”って呼んでるの知ってるんだからねん」


 明莉は肩の力を抜き、息を吐き出すと呆れたような目を向けるが、嶺二は諦める気はないらしい。
 わざとらしく怒った素振りを見せた。


「年下ですし……藍くんも納得してますしね?」
「全く…一番年上の癖になんでそこにこだわってるの?」


 なかなかに引き下がらない先輩に困ったように言葉を返すと面倒臭くなったのか。美風藍に話を振ると彼は目を細め、下らなさそうに問いかけた。


「だって、壁感じるじゃなーい?」
「寿さん、みなさんの時間あまりないので話を進めたいので雑談するなら無視します」
「ねぇ、明莉ちゃん本当に僕には厳しいよね!?」


 まだ納得しないQUARTET★NIGHTの長男は頬を膨らまして不服そうに首を傾げるが、明莉はもう相手にする気がないらしい。
 深いため息をもう一度着くと手に持っている書類を机にトントンと整えながら、淡白な返答をする。
 清々しいほどに先輩に対しての態度とは思えない冷たさに寿は顔を青ざめて声を荒らげた。


「いいと思う」
「ああ、嶺二なんていねぇな」
「ああ、いないな」


 しかし、彼を擁護する人間はこの場に誰一人としていない。
 残りの三人は彼女の意見に賛同するばかりだ。


「なんで三人とも乗っちゃうのさあ〜〜んもうっ!」
「……で、話なんですけど、今回新曲のテーマを…」
「ちょっとちょっとー!!本当に無視しないでよーん!!」

 会議室に自分以外味方がいない。
 この状況は日常茶飯事であることではあるが、文句を言いたくなる気持ちは変わらないのだろう。駄々をこねるようにブンブン腕を上下に振る嶺二だったが、明莉は本当に彼の言葉を華麗にスル―すると本題に入ろうと書類に目を向ける。
 有言実行をする彼女に慌てたようにガタッと席を立ち上がりながらツッコミをした。
 
「レイジ、うるさいよ」
「ぐすん…れーちゃん泣いちゃう」
「勝手に泣いとけ」

 そんな彼を冷水をかけるように言う藍に嶺二は嘘哭きを始め、首を垂れる。
 しかし、そんなのはもうみんな嘘泣きだということを分かっているようだ。
 蘭丸は”けっ”と吐き捨てる。

「あの、みなさん寿さん大好きなのは分かりましたが、話を進めていいですか?」
「「別に好きじゃない」」
「そんなに全力で否定しなくてもよくなあい!?」

 全く持って本題に入れないことに不機嫌になりつつある明莉はにこっと笑いながら、首を傾げるが、返ってくるのは即答の否定だ。
 この数分でずたずたにされる心に嘆きながら、嶺二は声を荒げる。

「「!?」」

 だがしかし、事務所の先輩であり、ベテランアイドルだろうが関係ない彼女は我慢の緒が切れたようだ。
 書類を机に叩きつけるようにバンッと叩くとその音に四人はビクッと肩を揺らし、そちらに目を向ける。

「……今回の新曲のテーマなんですけど、何かやりたい曲ってありますか?」

 明莉は質問を投げかけた。
 とても黒い笑顔を向けながら。

「「………」」

 先輩だろうが男だろうが、なんだろうが関係ない。さっさと話を進めて終わらせろ。
 そう言わんばかりの圧に四人は固唾を飲み込み、黙った。

「ありますか?」
「あ、ああ……ええっと……」
「いつも大人の魅力を出すような曲が多いからたまにはイメージ変えてみるのはどうかな」

 彼女はもう一度、聞く。
 それに嶺二は、目を泳がせて言葉を詰まらせているとその隣にいる藍が顎に手を添えて考えながら、答えた。

「ああ?例えばどんなのだよ」
「例えばST☆RISHっぽい曲をボク達が歌ったり……かな」
「それなんか面白そうだね!」

 今までの自分たちと違うイメージの曲調。
 それは頭の片隅にすらなかったらしい。蘭丸は眉間に皺を寄せて聞き返せば、藍は視線だけ天井に向け、考えを巡らせながら紡いだ。
 なかなか斬新な案ではあるが、興味深さもあるのだろう。嶺二はウキウキしながら、その案に賛同する。

「だが、QUARTET★NIGHTのイメージを壊すことにならないか?」
「ああ。ファンがどう思うか分かんねーぞ」

 いままで話に耳を傾けていたカミュは腕を組みながら、理論的に問題を指摘した。
 確かに同じ路線でやってきたからこその問題はある。普段仲が良くない蘭丸も彼の意見には同意のようだ。

「それじゃあさ、ST☆RISHも巻き込んじゃえばいーんじゃない?」
「それが一番良さそうだね」

 意見が二つに割れる中、嶺二は何か良い案が浮かんだらしい。パチンっと指を鳴らして人差し指を上にさしながら、更なる提案をした。
 ST☆RISH。
 彼らの後輩になるアイドルグループのことだ。
 確かに藍の言っていた案を自然に通すなら、それが無難で尚且つ話題性があり、面白みもある。
 藍もまたその意見に同意を示した。

「じゃあ、また話は持ち帰りか」
「と言いたいところですが、その提案を実は実はST☆RISHから受けてまして」
「えっ、そーなの!?」

 反対意見はないのか、蘭丸は面倒くさそうに背もたれに寄りかかると気だるそうに言うとカミュは深いため息を着く。
 せっかく貴重な時間を儲けてるのに生産性がなかったことに嫌気が差したのかもしれない。
 そんな彼らに吉報を言い渡すのは明莉だ。
 思ってもみなかったことを彼女から聞かされるとは思わなかったのだろう。嶺二を筆頭に四人が驚いた顔をして視線を向ける。

「テーマが決まらなかったら話そうと思ってました」
「そう言うことはよぉ……」
「早く言ってよね。それこそ時間のロスだから」

 イタズラが成功したかのように肩を竦めて眉を下げて言う明莉に蘭丸はガシガシと乱暴に頭をきながら、何かを言おうとしたが、それは藍に遮られて言えずに終わる。
 まあ、言いたいことは同じだったのだろう。蘭丸は息を吐き出して黙った。

「だって、最初から提案したら皆さんが反対しそうだったし、そうだったとしたらめんどくさいなーって思いまして」

 怒られてる自覚があるのか、ないのか。本気で怒ってるわけではいことを知ってるからなのか。
 それは分からないが、相変わらずの態度で笑って言葉を返す。

「全くだ」
「お褒め頂きありがとうございます」

 カミュは呆れたように頷けば、明莉はにこにこと笑いながらお礼を言う。
 嫌味を言われているということを分かっての言葉なのだろう。

「褒めてねぇ」
「褒めてない」

 しかし、その掴めない彼女の態度に蘭丸とカミュは眉を釣りあげてツッコミを入れた。いや、ほぼ文句に等しいかもしれない。

「じゃあ、今回のテーマはイメージ交換って事でいいのかな」
「そうだね!いやぁ…それはそれで楽しみだね!ねっ、明莉ちゃん!」

 二人のツッコミは、明莉の耳には届いているのだろう。
 知ってます。
 そう言わんばかりの無言の笑顔アピールをすると藍が話をまとめる。
 それに乗っかる嶺二はわくわくしながら、彼女に声をかけた。

「因みにこの話を社長にしてオッケー貰った場合、今回限り作曲家が変わります」

 言い忘れていたことを思い出したらしい。
 手帳に書かれている文字を目で追いながら、さらりと爆弾発言をした。

「「えっ!?」」
「「はっ!?」」

 それは四人にとって予想外の言葉だったようだ。
 目をこれでもかというほど大きく見開き、大きな声を上げる。

「良かったですね!可愛い可愛い春歌とお仕事できますよ」
「ハルカがQUARTET★NIGHTの作曲するの?」
「あれ、伝たわりませんでした?」

 パンッと両手を叩き、それはそれは清々しい笑顔を見せて四人のアイドルのテンションを上げようとするが、彼らはまだ動揺している。
 表情はあまり変わらないが、どことなく含みのある問いを藍がすると明莉はキョトンとした顔をして首を傾げた。

「じゃあ、お前は……」
「私はST☆RISHを担当することになりますね」

 QUARTET★NIGHTの作曲をするのが、もう一人の後輩である七海春歌だということを知ると今、彼らを担当している彼女はどうなるのか。
 それを疑問に思った蘭丸はじっと明莉を見て言いかける。彼が何を言わんとしているのか、分かったのだろう。
 彼女はさらりとその時の自分のあり方を答えた。

「今回限りなのか?」
「限りじゃない方が良いですか?」

 カミュは意外そうな顔をして問いかけると明莉はまた反対側に首をこてんと傾げる。

「そうは言ってないだろ」
「そうなんです?」

 蘭丸は何故、そう捉えるのか理解できないらしい。ムッとした顔をして棄却すると未だに分かってないような反応を返すのが彼女だ。

「そうだよ!確かに後輩ちゃんと仕事するのも楽しいけど明莉ちゃんと仕事するの楽しんだから!」
「ありがとうございます?」

 納得してない彼女に嶺二は首を縦に降り、力説するとそこまで言われると思わなかったらしい。
 明莉戸惑ったようにお礼を言った。

「なんで疑問系なの」
「いや、どう反応したらいいか分かんなくって……話が通った時はあまり春歌を困らせないようにしてくださいね」
「ったく、お前は良い度胸してんな」

 だがしかし、彼女の語尾に疑問符が付いてることが気になったらしい。藍は眉根を寄せて聞くと明莉は強ばった顔をして頬をかいた。
 あまり人に自分の存在を肯定され、求められることに慣れていないようだ。わざと話を変えるように注意をすれば、蘭丸は鼻で笑いながら、小言をこぼす。

「もしかして明莉も楽しみなの?」
「そうですね……ST☆RISHの曲は一回書いてみたいと思ってたので」
「へぇ、そうだったんだ」

 じーっと観察するように見ていた藍は素朴な疑問をすると彼女はこくりと頷きた。
 返ってきた言葉は意外だったのか、否か。
 ST☆RISHは明莉の同期にも当たるから意外でもないのかもしれない。それでも、曲を書きたいという感情を出す当たり、嶺二は珍しく感じたようだ。

「それに同期だからギリギリの無茶ぶりしてもいいかなーって」
「「…………」」

 爽やかな笑顔でとんでもないことを言う明莉にその場の空気の気温は下がる。
 四人は揃いも揃って口を閉ざした。

「いやぁ、本当に楽しみですね!」

 この場でテンションが上がっているのは彼女一人。
 その事に明莉自身気がついてるのかいないのか。いや、気がついていないかもしれない。

「ああ……」
「うん……」

 確かにQUARTET★NIGHTとST☆RISHの曲を交換するというイベント性のある企画に楽しみさはあるけれど、無理でも無茶でもない。頑張れば歌える斬新で魅力的な曲を書く彼女から出た言葉に頬を引き攣るしかないようだ。
 各々、曖昧な返事を返す。

(俺達は……)
(明莉の)
(同期じゃなくてよかった)
(って心から思ったよん)

 だが、四人の心の中は明莉と同期ではない事に安堵すると共に彼女の同期である後輩に同情していたのだった。



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