私は現代日本の女子高に通う高校一年生だった。
つまり、性別は女のはず……。
なんでこんな曖昧な言い方をするかと言えば、ちゃんと理由がある。
それは今この現状に疑問しかないからだ。
女として生まれて、女として生きていた……なのに、全く知らない土地にいた。
混乱しながらも、また一つ頭の容量がパンクする出来事に気が付く。
それは何かというと自分の身体に違和感しか感じないということだ。
たいしてあるわけでもないけども、普通に存在していたはずの山が消えて下半身にないはずのものがある。
筋肉も前よりも硬くなっている。
間違いなく、男の体になってしまっていた。
……いや、ふざけるなよ??
急に男になっただけなら、それだけに集中して混乱できるけれど、そうもいかないのが現実。
だって、知らない世界に来ているんだから当然だ。
今いる場所はツイステットワールドのナイトイレブンカレッジという場所らしい。男子校ということだけは聞かされた。
色々聞きたいことはあるけど、気力も体力も限界に近い。
もう疲れたから余計なことを言うのをやめて、大人しく用意されて古びた幽霊のいる寮を掃除をしていた時のこと。
時計の針が夜の7時を指すと体が重くなる感覚を覚えた。
「……はい?…………はい!? 女に戻ってるんですけど!?」
流石に疲れていても無視は出来ないと思って、私はグリムを置いて急いで学園長の元へと駆け出した。
◇◇◇
「学園長!夜は女になって昼は男なんですけど、どう暮らせと!?」
「何を言って……おや?本当に女の子みたいな身体付きですね」
バタバタと足音を立てて学園長室に向かう#name1#は扉をバンっと開ければ、機嫌悪そうに声を荒げる。
気力も体力限界に達していたのだろう。彼女の額には青筋が経っていた。
急に怒鳴られたことに驚いたのか。学園長…ディア・クロウリーは両手を上げてぱちぱちと瞬きをする。
しかし、昼間に会った時にはなかったはずの胸のふくらみがあからさまに見て取れることに不思議そうにした。
「教育委員会に訴えていいですか」
「君が言ってきたんじゃありませんか!それにしても……」
「?」
胸に視線を感じた#name1#は冷静さを取り戻したのか。胸を両手で隠し、蔑む目をクロウリーに向けて冷ややかな言葉を送る。
彼女の口から紡ぎ出されたそれにゾッとしたように慌てて取り繕うと彼は顎に手を添えて考え込みながら、言葉を口にしかけてやめた。
その言葉を待つにしても何が言いたいのか分からない。だからこそ、#name1#は小首をに捻った。
「本来の君の性別はどちらです?」
「女です……ていうか、あの異世界トリップして性別変わっちゃっただけならまだしも、昼夜で性別逆転するのは流石に頭が混乱しそう……ってか、してます」
クロウリーは彼女とは反対の方向にこてんと首をかしげれば、一秒の間もなく#name1#は即答する。
彼女は手のひらを上にし、わなわなとしながら、混乱した頭を整理するために言葉にしてはキッと鋭い目を向けた。
「ふむ…おそらく呪われてるんでしょうね」
「は?」
さすが、ナイトレイブンカレッジの学園長とでもいうべきか。状況が何となく読めてきたのだろう。
納得したようにぽつりと零せば、#name1#は強張った顔をして威圧的な声を発する。
「仕方ありませんねぇ…異世界に来てしまったこと含めてまとめて調べておいてあげます。私、優しいので」
「それ言う人に限って優しくないって知ってるんですよね」
しかし、クロウリーはその言葉に怯えることなく、ため息をつくと首を横に振りながら言葉を返した。それも余計な一言付きで。
若干安心したのか。肩の力を抜きつつも彼女は冷めきった目でじーっと見つめながら、思っていることをそのまま口に出す。
調べてくれると言う問題を一人で抱えずに済むという安堵感もあるだろう。だが、優しいと自分から言う人間で本当に優しい人なんて一握りだ。だからこその発言と言ってもいいかもしれない。
「調べるのやめちゃいましょうかねぇ…」
「教師と思えぬ台詞…!」
善意を卑下にされて嬉しい人間なんてどこにもいない。信頼されていないことを感じ取ったクロウリーはため息を吐き、前言撤回しようとした。
その姿に#name1#は強張った顔をしながら、大人げない彼にツッコミを入れる。
「まあ、それは置いといて…君が女の子だということをバレないように暮らしてくださいね」
「どうしてですか?」
どうやら、それは本心ではないようだ。
冗談とばかりに話題を変えては真剣な表情を浮べて、彼女にビシッと指を差して忠告をする。
別に隠すつもりがなかったのか。#name1#は面倒くさそうな顔をして眉間にシワを寄せながら、問いかけた。
「ここが男子校だからです。バレたらどんな目に合うか……ああ、考えただけで恐ろしい」
クロウリーは両手を腰に当て彼女の疑問に答えると何を想像したのか。ぶるぶると震えながら、自身の両腕を摩り出す。
(不安にさせる教師ってどうなんだよ…本当に)
ただでさえ、見知らぬ土地で右も左もわからない状態の人間に脅すようなことを言う彼に恐怖を感じたのだろう。
#name1#は顔を青ざめて心の中で文句を吐き出した。
「魔法士」を育成する由緒正しき学園での彼女の生活が始まる――