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 時刻はお昼時。学生は皆、昼食を取るために食堂へと来ていた。
 #name1#とグリム、エース、デュースもそれの該当者だ。
 開いている席を見つければ、エースの右隣にはデュース。エースの目の前に#name1#、彼女の右隣にグリムといった具合で 各々、食べたい物を手にして座る。

「ここ空いてござりんす?」
「#name3#先輩じゃん」
「はい、空いてます」
「こんにちは、#name3#先輩」

 エースの左隣にトレーを置く姿が見えれば、その人物は低くも高くもない中性的な声音で問いかけた。
 その声にそちらを向ければ薄桃色の長髪を靡かせ、マジカルペンと共に胸ポケットに扇子を仕舞っている姿がある。
 エースは驚いたように名前を呼べば、ニコッと笑みを向けた。
 彼の発言からして先輩らしい。
 デュースは驚いた顔をしつつも、こくりと返事をすると#name1#も彼の存在に気がつき、軽く会釈をした。

「お前は本当に風みたいな奴なんだゾ」
「ははっ、よく言われるでありんす」

 唐突に現れて知らない間にそばに居る。
 そんな彼に呆れたように眉根を寄せ、グリムは小言を口にした。
 #name3#はそれに声を上げて笑えば、楽しげに目を細める。

「そういえばさ、学園長もまた変なことを考えつくよなー」
「ああ、あれか…」

 相当お腹が空いていたのだろう。
 グリムは食べ物に集中し、食い散らしているとエースが思い出したように言葉を紡いだ。
 彼が何を言いたいかを理解したデュースは眉間にシワを寄せてこめかみに手を添える。

「あれって?」
「何なんだゾ?」
「女装だよ。じょ・そ・う」

 2人の会話にイマイチ理解ができていないようだ。
 人の話を聞かずに食べていそうなグリムはピタリと手を止め、#name1#と同じ方向に首を傾げるとエースは半目にして答える。
 それも何故か2回も。強調して。

「「女装?」」

 ナイトレイブンカレッジ。ここは男子校だ。
 だとしても、女装をする必要がどこにもない。
 唐突かつ、意味のわからないことに一人と一匹ふたりは怪訝そうな顔をしてオウム返しをする。

「そ、各寮から女装した人を1人出すんだって」
「何でも学園長の思いつきらしい」

 エースは、はぁ〜…と深いため息をつきつつもスパゲッティをフォークで刺し、くるくると回すとその続きの言葉をデュースが補足した。

(ぶっ飛んだ学園なのは知ってるけど、女装する意味は?え、需要はどこにあるの?)

 それに疑問しかわかないのだろう。彼女はサンドイッチを咀嚼し、ゴクリと飲み込むと心の中でツッコミを入れるが、言葉にする気はないらしい。

「へぇ…」
「そうでありんしたか。随分また…初の試みでありんすなぁ」

 #name1#は他人事のように感心したように零しているとパエリアをスプーンで掬い、フーフーと息をかけて冷ましている#name3#は初耳なのか、少し驚いたような反応を見せた。
 彼女はこの異世界の常識は知らない。それにオンボロ寮にはそんな連絡来ていないのだから、知らなくて当然だ。
 しかし、#name3#はどうだろう。
 彼は二年生。この学園に通い始めて2年という月日が経っている。それに加えて、上級生なのだから知っていてもおかしくはないはずだ。

「俺はともかくアルヴィン先輩は何で知らないんですか?」
「聞いておりんせんから」

 #name1#もまたその疑問に気がついたらしい。
 眉間のシワを深く刻み、不思議そうに問いかければ、#name3#から返ってきた言葉は曖昧に聞こえるものだった。
 その情報を知らなかったとも取れるし、聞く気がなくて聞いていなかったともとれる。

(意味合いはどっちだ??……ん?)

 ますます深まる謎に顎に手を添えて考え込む彼女だったが、視線を感じてそちらに目を向けた。
 その方向とは同級生のエーデュースコンビだ。
 考えるだけ無駄だ。
 まるで、そう訴えかけているような素振りを#name1#に向ける。

「……それで、ハーツラビュル寮は誰が女装するの?」
「そりゃもちろん……」
「リドルでありんしょう」

 彼らの意図を組んだ彼もまた素直に納得できたのだろう。
 諦めて話題を元に戻すことにした彼女はエースに質問すれば、彼は眉を下げて両手を広げ、答えを口にしようとしたが、それを言う前に#name3#が答えを横取りした。

「リドル先輩……似合いそうだなぁ」
「似合いそうなんだゾ!」
「いや、どー考えてもあんたでしょ」
「というより、アルヴィン先輩に決まってたな」

 彼の答えに#name1#とグリムはリドルが女装している姿を空想してみる。
 華奢な体をしているからスカートを穿いている所を想像しても違和感はまるでない。だからこそ、納得していたが、エースがそれをばっさり切り捨てた。
 デュースもまたうんうんと頷きながら、本当の答えを口にする。

「ふむ、そんな話は一切聞いてござりんせんが…」
「それ、絶対右から左に聞き流してるって」

 予想外な展開なのか、#name3#は困ったような顔をして考え込んだ。
 決まったことなのに本人が知らない。
 そんな話はもしかしたら、他の寮ならありえるかもしれないが、彼の寮はハーツラビュル寮。
 寮長はリドル・ローズハートだ。彼が伝え忘れるなんてことは天地がひっくり返ってもありえない。
 エースは聞き覚えのないフリをしている彼ち呆れたようにボソッと小言を零した。

「その話をしてた時、アルヴィン先輩いましたよ」
「……うわぁ、タチわる」

 女装する人間を決める時のことを思い出したようデュースは目をぱちぱちと瞬きすれば、さらりと重要なことを言う。
 つまり、エースの言う通り。結果、聞き流していただけなのだ。
 あのリドルの話を聞き流すなんて命知らずな行動をする先輩に#name1#は頬を引き攣らせる。

「して、何を着んしょうか」
「うわぁ、ノリ気じゃん」
「やるからには本気で挑むものでありんしょう」

 #name3#は仕方ないとばかりに首を横に振れば、顎に人差し指を添えて考え込んだ。
 切り替えの速さと言い、やる気があるように見えたらしい。エースが驚いた顔をしているとアルヴィンは楽しいオモチャを見つけたかのようにニヤリと口角を上げ、ウインクをした。

「なんか、凄いね」
「訳が分かんないんだゾ」

 本気で楽しむ奴は強い。
 それは彼のことを指しているように感じたのかもしれない。
 #name1#は惚けた顔をして賞賛すれば、グリムはどうでも良さげに言葉を吐いたのだった。



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