あたしは幼い頃から人の目には視えないモノが視える。
呪いという人から生まれる類のものだ。
ごく普通の一般家庭に生まれたのに何故か視えた。
最初は視えるのが当たり前だと思っていたけれど、普通じゃないと思い知らされたのは三歳のとき。
両親の化け物を見るような顔が印象深くて、怖くて今でも忘れられないトラウマだ。
あたしは普通じゃないとその時、思い知らされた。
極力関わらないようにする両親にあたしも自分から距離を置くようになっていった。
そんな力があるから友達だって出来なかった……けど、幼馴染のカルマだけは何故か傍にいた。
あたしのせいで巻き込んで視えるようになっても、いてくれた。
それはあたしにとって救いだった。
椚ヶ丘中学に上がった時、転勤するから一人暮らしをするようにと言われることになる。
お互い気を遣わなくていいからひとつ返事で了承し、そこからあたしの一人暮らしが始まった。
変なものは視えるし、学校の授業はハードできついし、家事も1人で全部こなさなきゃいけない。
色んなストレスから私はコツコツ貯めていたお金でハーモニカを買った。
息を吐くように吹けば、鳴る楽器。
その音があたしには心地よくて唯一の癒し。
吹いている時間が大好きだった。
でも、現実を見れば家事に勉強に呪い。
だんだん授業についていけなくなったあたしは3年生になる頃、3年E組へと決まった。
エンドのE組。落ちこぼれの溜まり場。
そんなクラスに進級したあたしたちは自分に自信などなかった。
そんなものを持たせてくれる教師もいなければ、勉強のストレスを発散するかのように見下す同級生しなかったから。
蔑まれることに慣れていたあたしたちを変えてくれたのは殺せんせーだった。
あたしたちのために月を爆破した犯人だといい、自分を暗殺しろと言う。
最初は何を言ってるのだろうか、この黄色いタコは。
クラスメイトみんなが思ったことだと思う。
でも、殺せんせーは自分の命をかけて色んなことをあたしたちに教えてくれた。
ずっと人と違う自分をコンプレックスに感じていたあたしを殺せんせーは見抜いてた。それに呪いという類が視えることをすぐにバレた。
あたしとカルマの他に視れる人に出会ったのは初めてだったから本当に驚いた。
それと同時に感じたのは恐怖。
自身の親に話しても気味悪がられることしかなかったから震えが止まらないくらい怖かった。
カルマはあたしが巻き込んで視えるようになったから、言わば、被害者だ。
そばにいて安心する存在ではあるけれど、罪悪感がずっと消えることはなかった。
せんせーはそれも見抜いてたのかもしれない。
視えはしても対処する力なんてないからただ逃げることしか出来ない無力な自分を嫌っていたことにに。人に嫌われることを怖がっていることに。
でも、殺せんせーはそれも個性だから怯えなくていいと言ってぷにゅっとした触手で頭を撫でてくれた。
よく頑張りましたね、と。
ずっと抱えてきて辛かったでしょう、と。
そんな大人に初めて出会ったあたしは涙が枯れるまで泣いた。
ずっとその言葉を待っていたのかもしれない。
ひどく安心した記憶が今でもある。
進路を考える時期になって殺せんせーから呪術師を育てる高校があるという話を聞き、私のこの力を何とかする方法があるなら知りたいと思ってた。
呪術師になれる自信なんてない。
ただ視えるだけの人間だと思っていたから。
――…ヌルフフッ、大音師さんは良き呪術師になりますよ。それに恐らくあなたにはその才能がある。
その言葉に背中を押され、呪術師になることを決めた。
そして、この春。
東京都立呪術高等専門学校に入学した。