「はぁ…はぁっ…はっ」
何かに追われているように二人の親子がただひたすら森の中を走る。母親は後ろを見ながら追いかけているだろうその“モノ”を警戒していた。
「お、かぁさま……も、はしれない……」
「立ち止まってはダメよ」
少女は母親に着いていくように走ることに限界を感じていた。その事を伝えると母親は幼い少女にそれでも走ろと言う。
まだ幼子である娘にひたすら走らせていることに罪悪感を感じているが、足は止められない。足を止めたら最後、それが分かっているからだ。
「逃がさないぞぉ……お前の血肉は我のものだ……」
遠くから地を這うのような声が聞こえてくる。
「あなたはここにいなさい」
「お母さま……?」
逃げ切れないと判断した母親は茂みの中に子供が隠れられるほどの小さな洞窟を見つけ、そこに子を入れる。少女は不思議に思い、自分の母を見上げた。
「……っ、お母さまはどこに行くの?」
「お母様はちょっと水を汲んでくるわ」
「だ、ダメ!!行っちゃダメ!!」
(お母さまが……お母さまが死んじゃう!)
少女は不安に刈られ自分の母に問いかけるが、母親は子を安心させるように微笑みながら問いに答える。しかし、その行為が逆に少女を不安にさせたのだろう。
少女は必死になって母親にしがみつき、止めようと試みた。きっと直感的に自分の母の死が近付いていると感じ取っていたからだろう。
「天、お聞き」
「おかあ、さま??」
「すぐ……戻るから大丈夫よ。しっかりなさい」
「お……かあ……さ…………」
凛とした声で母親は子に言い聞かせるが少女は今にも自分の側から居なくなる素振りを見せる母を見上げた。一瞬…少し悲しい顔をした母親は子に優しくしかし、強く言葉を紡ぐ。そして、彼女は子供に向けて手をかざし、暖かい光を放った。
少女はうとうとした顔で母親の悲しそうな微笑みを見てから眠りについた。
「……っ、ごめんなさい……あなたを守るにはこれしかないのよ……」
母親は眠りについた我が子を抱き締め涙を流した。
少女の頬に暖かい雫が落ちるが深い眠りについてる為、少女は気付く気配はない。
「あなたが大きくなるまでそばにいたかった……私達の家系は特殊すぎるから……狙われてしまう。特にあなたは……だから…………これをあなたに置いていきます」
彼女は少女を横たわらせ我が子の懐に手紙と懐刀を仕舞った。眠っている少女は母の言葉を聞くことすら叶わない。
「強く……強く生きなさい」
母親は眠っている子の頬に濡れた自身が流した涙を拭うと一言、最後の言葉を残してその場を去った。
◇◇◇
「ん…………おかあ、さま??っ!!お母さまは!?」
あれからしばしの時間が経ち、少女は目を覚ました。ぼやけて自分の母を呼ぶが返答はない。眠りにつく前のことを思い出した少女は目を見開き、母を呼んだ。
「っ!おかあさま!!」
先程まで邪悪な気配を醸し出していた空は青空で広がる。追いかけてきていた地を這う声も居なくなっており、それが逆に少女を不安にさせ、無意識に洞窟から飛び出していた。
「はぁはぁ……はぁっ、っ!」
走って周りを見渡すがあるのはただの木の群ればかりで川のある場所はない。
(やっぱり水をくむって言ってたのは……うそだったの!?)
混乱した頭で少女は考え、ひたすら走る。足がもつれて転びそうになっても少女は足を止めることなく走り続けた。
「っ!お……かあ、さ、ま……?」
走って走って少女の辿り着いた所で少女が見たものは自分の母親の酷いありさま――腸や肝、すべてを食い尽くされていた。
まだ幼い少女に見せていいものではなかった。
「い……や、いや!いやーーー!!うわぁー!!」
少女は目の前にあるものを否定したくて首を振り、喉が潰れる勢いで泣くがが現実は変わらない。
(お母さま……私をおいて行かないで……)
泣き疲れた少女は意識を離す直前までただ自分の母親のことを思っていたのだった。
壱話
『残酷な現実と別れ』