庭に隣接している渡り廊下をバタバタと足音を立てて走る幼い少女がいた。
彼女はワクワクした様子でピタッと足を止め、襖をバンと音を立てて開ける。
その部屋に入れば、畳の上に布団を引き、その上で寝息を立て眠っている男の子がいた。
「リク〜!起きて!」
「……」
「ほーら!リクってばー!」
眠っている少年の隣に少女は座ると小さな手で彼の肩をゆさゆさと揺さぶりながら声をかける。
少年は眉根を寄せたまま、寝狩りを返すだけで起きる気配はなかった。
女の子はムッとした顔をして先程より強く揺さぶり、大きな声で呼びかけ続ける。
「……あれ?」
「あ、起きた!おはよー!」
彼は眉をぴくぴくとさせると思い瞼をゆるりと開けた。
ぼやける視界の中に映るのは小さな少女。
そのことに不思議に思いながら、かすれた声で声を発した。
彼女は嬉しそうに満面の笑みを見せるとガバッと抱き付く。
「……、――……なんでここにいるの?」
見覚えがあるようなないような不思議な幼い少女に抱き付かれたことに戸惑いながらも、リクオは抱き締め返しながら、内になる疑問を投げかけた。
「え?なんでって寝ぼけてるの?」
「え?」
「私、あの時からここにずっといるじゃない」
その疑問は彼女からすると不思議なことらしい。
抱きしめる腕をゆるめるとコテンと首を傾げ、何度も瞬きをした。
幼い少女にまさか指摘されるとは思ってなかったのだろう。
キョトンとした顔をすれば、彼女は照れくさそうに笑みを浮かべる。
「……でも、……――は……」
「ほら、早く!今日は宴会だよ!リクオの誕生日なんだから!!」
「……」
しかし、少女がここにいることはリクオにとっては不思議なことに変わりないようだ。
いるはずがない。
そう言わんばかりに反論をしようとするが、それは彼女によって遮られ、彼よりも小さい手に捕まれ、引っ張られる。
そう、目を覚ませば自分が生まれたことを祝う日。
それは分かっている。
けれど、幼い少女がいる理由は未だに分からない。
リクオは困惑した顔をしているが、自分の心が何故か喜んでいることだけは分かっていた。
「ほら、早く早く!!」
「うん!」
屈託のない笑みを向ける彼女に自然と口角を上げると元気に返事をして立ち上がる。
「リク!誕生日おめでとう!!」
「ありが……!?」
そのまま手を引いて部屋から飛び出し、バタバタと歩く少女は顔だけ彼の方へ向け、祝うとリクオもまたお礼を言おうとした。
しかし、最後まで言い終えるはない。
なぜならば、手を引いていたはずの幼い少女は突然姿を消してしまったからだ。
「……………」
傍にいてくれるだけで胸があたたかくなる感覚が確かにあったのに目の前から居なくなった瞬間、胸が苦しく、痛んでいる。
それに加えて息が出来ないのだろう。
リクオは胸元をぎゅっと掴み、耐えるようにしているが、目頭が熱くなっていた。
呼吸の仕方を忘れてしまったのか。
縮こまるように丸く成ればどんどん苦しさが増す。
苦しく、辛い。
その感覚から逃れようとした瞬間、彼はガバッと意識を浮上させた。
「………夢……?」
ハアハアと肩で息を吸って呼吸を整えれば、今自分が体験していた物の正体に気が付く。
そう、全ては夢の世界の話だったのだ。
「………あの子は誰なんだろう?」
懐かしさのある顔も名前もうる覚えの幼い少女。
その存在は今のリクオには大きな存在にも思えたのだろう。
茫然とただ一点を見つめながら、問いかけるがそれは空気に溶けた。
「何で僕は……泣いてるんだろう…」
そして、頬を伝う何かが張った痕。
それをそっとなぞり、疑問を口にするがその答えを知ることはなかった。
(記憶にない女の子に会いたいなんて……不思議だ)
未だに瞳に溜まっている涙を服の裾でゴシゴシを拭きながら、心の中で零す。
夢で会った女の子が学校のクラスメイト。
それも自分の席の隣に座っている子だということを彼はまだ知る由もなかった。