時は来て、春。またこの季節が来た。
ここ、聖灰色学園にも慣れ、高校二年生を迎える事になりました。
「さてっと、私のクラスは――」
校門前のクラス発表の掲示板を見て、新しいクラスへと入る少女。
「席はここか〜……」
「あっ、詩歌!同じクラスなのね!」
「リナリー!よかったぁ〜知ってる人いたぁ!!」
自分の席を探して座ろうとした瞬間、透き通る可憐な声が届いた。振り返ると黒髪のツインテールをした可愛らしい私の親友。嬉しさのあまり抱きついた。
「も、もう……詩歌ったら」
「えへへ、だって……」
「退け」
いきなり抱きついた私に苦笑するリナリーに私は可愛い笑みを見せる。そんなほのぼのとしたやり取りから突如低い冷たい声が聞こえてきた。
「はぁ……退け」
「……は?」
「神田、そんな言い方ないじゃない」
振り向いた先にはポニーテールした長身の男の姿。その男は溜め息をつきながらもう一度、はっきり聞こえるように言ってきた。
それにただ固まっていると隣からはあきれたような声でリナリーが神田と言う男に注意する。知り合いみたいだ。
「邪魔だ」
「もう……神田ったら」
(性格わるっ)
神田は言い方を変えてはいるが、結局は同じようなことを言ってる。パチパチと瞬きをしている間に私の隣の席に座っていた。
そんな彼にリナリーは手を頭に当てて溜め息をつく。彼女がそんな態度になるのも仕方ないと思う。だって、低い声でしかも、言い方が悪い。
私はそんな相手を睨んで心の中で本音を吐き出した。
「……?」
クラスの視線がこっちの方に刺さる。主に、女子の。よく見れば頬を赤めている子までいる。彼女達の視線の先を見れば、想像した通り、神田と呼ばれていた男に向いていた。
「え、リナリー。これってモテる人?つか、モテてる感じの人?」
「そうねぇ……神田はモテるわよ?」
「へぇ……これがねぇ。」
(まぁ……顔は整ってるけどねぇ)
こんな無愛想な男がモテてる。そんなことはあるのかなんて思ってしまう。初対面に対してあんな態度をとるような男が、だ。
まさかと思いつつも隣にいる男を指差し、リナリーに恐る恐る聞いてみる。彼女は右手を頬に当てながら私の求めた問いに答えてくれた。
けど、想像してた通りのそれにショックを受ける。だって、こんなに態度悪い人がモテるなんて思ってもみないもん。やっぱり意外な感覚は抜けなくて、神田という男をまじまじ見てしまった。
よく見れば、……ううん、よく見なくても顔は生誕。いわゆる、顔はイケメンだけど……中身がなぁ、なんて思ってしまうのはさっきの事があるからかもしれない。
「とりあえず、隣の席だから。よろしく」
「…………」
「おーい、えっと、神田だっけ?」
「……」
(おい、無視かい)
隣の席なんだから、と思い私は神田とリナリーに呼ばれていた男に向って話しかけた。けれど、反応がない。
無視されたことにまたムカッとしたけれど、諦めることにした。こういうのは突っかかっても体力の無駄遣いって知ってる。だから、私は机にうつぶせて眠りの体制に入ろうとした。
「てめぇ、さっきからこれ呼ばわりすんじゃねぇ」
「……は?」
先ほどの単語単語でしか話していなかった彼から話しかけられるとは思ってなくて。話しかけられた、と理解するのに時間がかかった。
でも、驚いて声のする方に顔を向けてみれば、めちゃくちゃ機嫌が悪そうにこっちを睨んでる神田が。
思わず、変な声を出してしまった。多分、この状況下で声が出ない人いないと思う。……嘘。怖すぎて声出ないかも、普通。
「今度、やりやがったら切る」
「……まさかの時間差ですか」
(話……かみ合ってないわよ、二人とも)
そのまま睨み続けながら神私に物騒な言葉を投げかけてくるけれど、そんなのどうでもいい。会話の返答が遅れてきたという事実にきょとんとしてしまった。
私たちの後ろにいるリナリーが溜め息をつきながら何かを思っているとも知らずに。
私のお隣さんがリナリーの幼馴染だという事を知ったのはまた別の話。