2話




「おーい、これから委員決めるぞー」

 そういいながら、入ってきたのはわが学園の苦労人。リーバー先生だ。

「リナリー、先生……クマやばくない?」
「……兄さんのせいね、絶対」
「うわー、やるぅ。校長」


 リーバー先生のクマは後ろの方の席でもくっきり見えるほど出来ていて、若干やせこけている。えぐいほど、やつれてる姿に引いてしまった私はは、後ろの席のリナリーにこそっと話しかけた。
 リナリーは溜め息をつき、ぽつりと呟く。リナリーの兄であり、この学校の好調であるコムイさんに振り回され、ああなったということが彼女の言葉から伝わった。
 そんな気がしていたけれども、上司として如何なものだろうか、なんて考えがうかぶ。それでも、人を振り回す才能を評価せざるを得ない。褒めるべき才能だと思う。周りは嫌だけど。


「で、風紀委員だが……これは俺からの推薦だ。神田、神楽坂。やれ」
「「は?」」


 ヨレヨレになりながらも、ホームルームを続ける担任に感心していると委員が次々と決まっていく。残り少なくなってきたところでリーバー先生はとんでもない事を言ってきた。
 思わず、隣の席の奴と声がハモるという、いやなオプションつきで。


「せ、先生!反対!何で!?これと!?つか、私、委員やる気ないんですけど!!」
「てめぇ、また人をこれ扱いか!?」
「うっさい!てか、え!?委員やる気ない人にやらせる!?」
「そういうと思ったから、指名してんだろーが。これ、決定。んじゃ、これで終わりだな」


 私はがたっと席を立ち、神田を指差してやる気がないことをものすごく強調しながら、反対の声を上げた。神田さ私に、これ扱いされたのが気に入らないのか、私を睨んでくる。でも、それどころじゃない。
 やりたくもないことをやらされるかもしれない。そんな危機に私は更に声を上げて、先生に反対をし続けた。けれど、私の行動を読みあえて指名した事を言われる。
 ああ、もうダメだ。強制終了の合図。チャイムだ。あれが鳴ってしまった。
 それが鳴り終わるとリーバー先生はさっさと教室から出ていく。それはもう、私にとっては無慈悲に。


「うそん………三年間逃げる気満々だったのに。つか、神田が風紀委員って似合わなっ……」
「うるせぇ」
「ふふ、でも、神田は風紀委員で有名なのよ?」


 私は委員という縛られたものにショックから、ストンと席に座るしかない。でも、よくよく考えてみると神田と風紀委員が繋がらない。想像したら、なんだか笑えてきた。
 私の笑い声に、またジロリと睨んでくる。それでも、やっぱり笑いは止まらなくて。声を殺そうと努力しながら、笑った。
 そんなやり取りの中、後ろから可憐な声が聞こえてきたので、後ろを振り返る。


「へ?有名??」
「そうよ、って……知らなかったの?」
「うん、というか……神田の存在知ったの、昨日からだし?」
「「「……………」」」


 きょとん顔しながらリナリーに聞き返すと彼女はニコッと笑う。私が知らなかった事が意外だったのか、逆に聞き返されてしまった。でも、その通りだったので、私はすぐさまこくりと頷いて、首をかしげる。
 その答えたものがリナリーと神田。いや、クラス中をしーんとさせているものだったとは私は知らない。


「え……、知らないって神田を?」
「冗談きついさー。風紀委員の鬼を知らないってどんだけだよ」
「あ、ラビ」


 固まっていたリナリーは、はっとしながら恐る恐るもう一度聞いてきたので、私は頷こうとした。でも、どこから気の抜けた声が聞こえてきて。
 そちらに視線を向けると赤髪の片目には黒の眼帯をしている男がいた。その人はリナリーの知り合い、らしい。


「おう、リナリー。これ、今日の議題だってさ」
「あぁ、そうだったの。ありがとう」
「で、詩歌ちゃんはほ〜んとにユウを知らないさ?」
「……誰?つか、ユウって??」


 赤髪くんは書類をリナリーに渡しに来たようで、2人のやり取りをはじめたがすぐ終わった。ラビと呼ばれた人は顔を近づけて私の名前を呼び、確認をしてくる。けれど、私は目の前の赤髪の人を知らない。思わず、リナリーが名前を言っていたけど本人から名前を聞くことにした。
 でも、知らない名前がひとつあるからもう一個聞く。


「へ、俺を知らないの?てか、ユウの名前も知らないの?」
「知らない。君も有名なの?つか、誰、ユウって」
「……………てめぇら、さっきから俺のファーストネームを連呼してんじゃねぇ!!」
「え、ユウって神田のこと!?」


 赤髪くんは間抜けな顔して自分の顔を指差し、私が彼のことを知らないことに驚いていた。知ってたら聞かないんだけど、なんて思いながらきっぱりと答え、また聞き返す。謎の名前と共に。
 すると、隣から分かりやすいぐらいの殺気を感じた。そして、黒いオーラをかもし出して怒鳴りながら、竹刀を取り出し、赤髪くんに振りかざす。
 そこでやっと、先ほどから出ていた名前が神田のものだと気づいた。


「え!?俺!?」
「てめぇ以外誰がいんだよ、クソ兎」
「あ、確かにウサギっぽい」
「詩歌、感心してる場合じゃないわよ……。こら、神田!止めなさいってば」


 顔を真っ青にさせて神田の一振りを白刃取りしてる赤髪くんとそれでも力任せで押し続ける切れてる神田をよそに私はのん気にも手をポンとさせ、神田のあだ名のセンスに納得していた。
 そんな私に突っ込みを入れるしっかり者のリナリーは一つ溜め息をついて、神田の止めに入った。


「……チッ」
「おぉ……さすが、幼馴染」
「し、死ぬかと思ったさ……」
「え、っと、大丈夫?ウサギくん。ところで何で私の名前知ってるの?」


 リナリーの注意で嫌そうではあるけれど、竹刀をしまう神田にやっぱりリナリーの可愛らしい注意には誰にも敵わないんだと納得して、私は思わず拍手をした。だって、あまりにも鮮やかすぎて。
 死にかけてるウサギくんの安否を確認しながら、私はふと思った疑問を投げかけた。


「だ、大丈夫さ……て、本当に俺のこと知らないんだな。俺はラビ。記憶力がいいから全校生徒の名前把握してるさ。特に女子は!」
「全校生徒!?すごっ!!変態だね!」
「神楽坂って、そういうの本当に疎いのね……」
「それ……褒めてないさ」
「……………。」


 死にかけていたウサギくん。ラビくんはいつの間にか復活していて、自己紹介と私の名前を知っている理由を教えてくれる。彼の記憶力に驚いて思ったことを率直につい伝えてしまった。
 そんな私を親のような目でしみじみと見つめてきているリナリーと何だか悲しそうにしているラビくん、溜め息をつく神田がいたのはまた別の話。



ALICE+