3話




「そういえば、詩歌って部活に入ってないわよね?」
「え、うん。何で??」


 そう、今は授業が全て終わって放課後。
いきなり、後ろの席のリナリーから聞かれた言葉。それに即答して、聞いてきた理由を求めた。

 
「実はね……私、軽音でしょ?私のバンドのギターがやめちゃって困ってるの。だから……」
「やらないよ。頑張って探してね!」


 私が求めた答えはすぐに返ってくる。だけど、その続きは聞きたくなかったから、リナリーの言葉を遮って断った。
 出来るだけ笑顔で応援の言葉をかけて。


「えー、最後まで聞いてよ。ちょっと、詩歌?」
「だって、最後まで聞いたら断れないもん。リナリー相手にさぁ〜」
 

 少し膨れっ面したリナリーが私の顔を覗きこんで聞き返したけど、私はただ苦笑して申し訳なさそうに言い訳をすることしか出来なかった。


「帰宅部って、詩歌ぐらいよ?」
「え!?嘘!!え、これも部活は入ってんの!?」
「……てめぇ、いいかげんにしろよ」


 リナリーは困った顔をしながら頬に手を当てて首を傾げる。でも、私にとって衝撃的な言葉に驚いて神田を指差して声を上げるとまだ隣の席にいた神田は眉をぴくぴくさせた。

 
「詩歌……神田は剣道部のエースよ……」
「へぇ、強いんだ〜」
「チッ」


 リナリーは本当に何も知らない私に対して頭が痛いのか頭を抱えて力なく言葉を紡ぐと私は感心したように神田を見てぽつりと言葉を零す。
 
神田は居心地が悪くなったのかよく分からないけど、舌打ちをして教室を出て行った。


「……ねえ、詩歌。だから、軽音が……」
「うん、やらないから。絶対に」

 
 今ならやるって言うと思ったのか、リナリーは私の顔を覗き込んで軽音楽への勧誘をしてくる。けど、最後まで言わさないのが私。
 彼女が紡ぎ切る前に断りの言葉を述べて笑顔を見せるとリナリーは拗ねた顔をした。


「詩歌、音楽嫌いなの?」
「……好きだよ、大好き。だから、絶対関わらないの」
「何、それ……?」
「さあ、何だろうねぇ」


 頑なに軽音楽への勧誘を断るから理由を考えて出た答えが“音楽が嫌い”だったらしい。彼女は眉を八の字にしては私に問いかけてくる。
 それはとても答えづらい。好きか嫌いかで聞かれると好き。でも、やるやらないはまた別なんだ。笑って答えてみるけど、頬が引き攣ってる感覚がする。どうか、気づかないで欲しいと思っているとリナリーはキョトンとした顔をして首を傾げる。
 それにほっと胸を下ろすと曖昧に濁すことにした。
 

「……すぐ誤魔化すんだから」
「あはは……ごめんごめん」
「でも、しつこくまた誘うからね!」

 
 私が濁したことによって彼女はは更に拗ねてしまったみたい。頬をぷくっと膨らませる姿に苦笑いしながら、謝ると逆にやる気を出させてしまった。

 それは……ちょっと、困るんだよなあ。9リナリーに言われると断りづらいもん。断ってるけど。

 
「うーん、断り続ける」
「諦めないもの……あ、もう生徒会に行かなきゃ!また明日ね!」
「頑張れ〜……」

 
 眉を下げつつも、揺らがない心のままに意思を伝えれば、リナリーはとても素敵な笑顔を浮かべて、私にとって恐ろしい言葉をくれる。
 ふと、見た壁にかかった時計。時を刻むそれに彼女は慌てた様子で教室を後にした。
 元気よくかけていく後ろ姿に応援しつつ、自席から立ち上がって窓から空を見上げる。

 
「屋上、気持ちよさそう〜……」

 
 見上げた空はとても澄んだ青色。ところどころ流れる白い雲が泳いでいた。洗濯物が乾きそうな晴天だ。
 気持ちはとてもいい。ニッと笑って廊下に出ると導かれるままに屋上へと駆け出した。

 

ALICE+