第壱話




「ん……」

 ベッドの上で眠っていた銀色に薄い桜色を混ぜたような色をした長髪の女性はカーテンから零れ落ちた日の光に眉間に皺を寄せては寝返りを打った。

「おーい、ひめー…眠り姫ー?」
「………」
 
 ノックもせずにガチャっとドアノブを回して部屋に入る無粋な男は眠っている女性へ声を掛けるが、彼女は彼に言葉に返事をすることもせずにただ寝息を立てていた。

「…………んー……」
「…………何をしている、太宰」
 
 ベッドに近づいた男は眠っている女性の顔をじっと見つめては目を閉じてだんだんと顔を近づける。
 あと数センチで唇が重なるところで眠っていた女性は男の顎目掛けて手を掛けて抵抗するように押し上げると女性にしては低い声音で怪訝そうな顔をしながら女性を襲っている男性…太宰治の名を呼んだ。
 
「何って眠り姫には王子様の熱い口吸いでお目覚めが王道だよ」
「誰が王子だ、誰が」
「私に決まってるじゃないか」

 彼女に近づけていた顔を離してはふざけたように童話に出てくる眠り姫の話を持ち出した。彼女はベッドから起き上がりながら冷めた目を太宰に向けては突っ込みを入れる。太宰はふっと微笑んでは腰を折って彼女の顔を覗き込みながら彼女の言葉に答えた。

「ふざけるな…そこを退け」
「君は本当にツレないなぁ」

 女性は先ほどよりも更に不機嫌そうな顔をして彼に対して素っ気無い態度を取るとベッドから降りて立ち上がった。彼女の態度に太宰は曲げていた腰を正しては上を向きながら残念そうに言葉を零す。

「何度も言うが私はお前が大嫌いだ」
「うん、何度も聞いているけれど私は君が好きだよ」
「………話にならない」
 
 彼女はスタスタと歩いて部屋の扉にあるドアノブに手を掛けて扉を開けると太宰に振り返っては睨み付けながら毒を吐く。まるで吐き捨てるかのごとくだ。
 太宰はその言葉を聞いても受け入れるようにふっと笑って頷いては彼女が吐いた言葉と真逆を意味する言葉を紡ぐ。睨み付け続ける彼女は呆れたように息を吐くと部屋から出て行き、バタンという音を鳴らして扉を閉めた。

「…ああ、目が覚めたか…っ!?」
「国木田さん、誰です。あいつを私に寄越したのは」

 スタスタと歩く女性は事務所と書かれている部屋を無造作に開けると髪を一つに結んいる長身の男目掛けて歩みを進める。彼女の存在に気が付いた長身の男は彼女へ声を掛けるがその言葉は最後まで紡がせてもらえなかった。何故なら彼女は彼のネクタイをぐいっと引っ張って眉間に皺を寄せながら抗議の声を上げたからだった。

「お、俺だが……」
「前にも言いましたよね?私はあいつが嫌いなんです。嫌がらせですか?」
 
 不機嫌な雰囲気に気圧された長身の男…国木田独歩は頬に冷や汗を掻きながら太宰が彼女の元へ来た原因は自分だと発言する。彼女は黒い笑みを浮かべながら抗議の声を上げ続けた。

「それは分かっている。俺も嫌いだ」
「でも、君が目を覚ますには一番手っ取り早い方法は太宰に起こさせに行くことだからね〜」
「……乱歩さん」

 国木田ははあとため息をついては彼女の言い分を聞き終えると理解していることを示しては自身の感情をサラリと明かす。二人が会話をしている後ろの自席でぼりぼりと御菓子を食べながらのん気な声音で国木田をフォローをするような声が聞こえてくると彼女はそちらの方を向いて彼の名…江戸川乱歩の名を呼んだ。

「おや、目覚めたのかい?」
「晶子さん……ええ、最悪の目覚めでね」
「アンタは相変わらずだね……」
 
 事務所へ入ってきたボブヘアの女性は不服そうな顔をしている彼女へ声をかけると彼女は呼んだ人物…与謝野晶子の名を呼んでは与謝野の問い掛けに不機嫌に答える。不機嫌な姿を見た与謝野は眉下げて呆れたように言葉を零していた。

「それで私を眠りから覚まさせたからには…仕事ですよね?」
「ああ、何でもここ最近“人喰い虎”が出没しているらしくそれの調査だ」

 イライラしたまま国木田をキッと睨み付けながら問い掛けると彼は彼女の問い掛けに肯定して資料をパサッと彼女に渡しながら調査内容を簡潔に言葉にする。
 
「ふーん…人喰い虎ねぇ……」
「俺と太宰とお前で行く」
「…3人も要らないんじゃ……」
「もしものための増員だ」

 資料を見ながら“人喰い虎”に興味を示した彼女はそのワードをぽつりと紡ぐと国木田は今回の調査員が誰なのかを口にした。この職場は基本的に二人一組。
 そこに何故三人一組になるのかという疑問が浮上した彼女はその疑問を投げかけようと言葉を途中まで口にするが、国木田によって遮られて彼女の聞きたかった答えが返って来た。

「私としては国木田君が要らないと思うんだけどなー」
「お前に聞いていない」

 気配もなく突如現れた太宰は彼女を後から抱き締めながら残念そうに言葉を紡ぐと彼女は抱き締められていることに怪訝そうな顔をして太宰に冷たく言葉を返す。

「とにかくだ!社長が決めたことに文句を言うな」
「……あい、分かった………離れろ、太宰」

 面倒臭くなったのか国木田は言葉を切って、命令口調で2人に指示を出すと彼女はふうと息を吐いて大人しく国木田の言葉に従った。そして、未だ離れない太宰に対して睨み付けながら言葉を吐く。

「いいのかい?私から離れると君は聲を聞き取ってしまうじゃないか」
「……ここは問題ない。慣れた」
「ぐほ…っ……」

 太宰は不敵に微笑みながら抱き締めている女性を覗き込むように問い掛けると彼女は目を細めて冷たい目を向けて言葉を紡ぎながら彼の鳩尾に肘を打ちつけた。まさか肘で鳩尾を攻撃されると思っていなかった太宰はその衝撃を予想できずに腹部を押さえて悶える。
 
「強すぎる力ってのも難儀だねぇ」
「社長の異能力を持ってしても制御が難しいからねー」

  与謝野は眉下げて困った顔をしながら自身の腰に手を当てながら彼女の苦労に同乗する。乱歩はボリボリ御菓子を食べながら客観的事実を述べた。

「ここの連中は太宰以外、表と裏がほぼない」
「……アンタ、それ褒めてるつもりかい?」
「最大限の賞賛」

  彼女はふうとまた息を吐いては二人に対して言葉を述べると彼女の言葉選びに違和感を持った与謝野は眉を寄せて彼女へ問いかけると彼女は至って真剣な顔をして与謝野の問いに肯定する。

「いつまで話してる。さっさと調査に行くぞ」
「国木田君…もうちょっと余裕を持った方がいいよ」
「俺の手帳には雑談するなんて予定は書かれていない」

 国木田は怪訝そうな顔をして太宰と彼女を催促する言葉をかけると太宰は眉下げて彼にダメ出しをすると彼は眼鏡をくいって上に上げては太宰の言い分を跳ね除けた。

「……あ、国木田さん」
「何だ?」
「人喰い虎って触っても平気ですか?」

 どうでも良さそうに見守っていた彼女はふと思い出したかのように国木田を呼ぶと彼は彼女の方を向いて問いかける。彼女は少し期待の目を向けながら普通なら考えもしないだろうことを口にした。

「「………」」 
「え、あの…いいですよね?」
「ゴホンっ…まあ、…状況によるだろうな」

 彼女が口にした言葉を聞いていた4人は目を見開いて空気が冷たくなった。返答がない事に不安を覚えた彼女は少し戸惑いながらもう一度確認の問いをすると国木田は咳払い一つし、目を閉じては言葉を濁して彼女へ返答した。

(…ふふ、虎に会えるの初めてだからちょっと楽しみ)
((人喰い虎に触りたいのか……))

 彼の言葉に楽しみが出来た彼女は嬉しそうに微笑んでいるとその姿を見た4人は冷や汗を掻きながら彼女を見守っていた。


第壱話
『桜色ノ女子おなごハ眠ヲ欲ス』



ALICE+