「――……ん」
ポタポタと、頬に何かが落ちて濡れてる。冷たくて、なんとなく温かい。その感覚に重い瞼をゆっくり上げた。
「……すぐる、君」
目の前の女の子は悲しそうな顔をしながら、私を呼ぶ。
その鈴の音のような声に、喉を震わせようとするけど、出来ない。なんとか涙を拭ってあげたいと思うのに身体が重くて、動けそうにもない。
そんな自分のやるせなさに、ふっと笑ってしまう。
「―――!……――!!」
与えられてる声がどんどん遠くなっていく。けれど、彼女が生きてくれてることが何より嬉しくて。ひどく安心した。
重い瞼を上げてることすらできなくなり、自然と視界が真っ暗になる。
「っ、……!」
どこまでも、どこまでも堕ちるような感覚を覚えると身体がガクッと揺れた。
ハッとして目を開けば、見慣れた天井がそこにある。それに胸を下して、のそりと上体を起こした。
「また、か……」
「起きたのぉ?」
もう何度見たことか。物心を付いた時から見る夢にため息が出る。息を吐き出すとともに頭を下げれば、さらりと髪が顔にかかった。
普段、まとめている前髪も顔に張り付くものだから、邪魔臭くて髪を掻き上げれば、隣から甘い声が聞こえてくる。
「ああ、……もう仕事だからね」
「もっとゆっくりすればいいのにぃ」
「これでも売れっ子でね」
腕に擦り寄られるが、やんわり振りほどいてベッドから出た。
私の対応がつまらいのか、拗ねたように見上げる女性に愛想笑いしながら、適当な事を言うと彼女は頬を膨らます。
「ねぇ、また私と遊ばない?」
この女は分かっているのだろう。どうやれば、自分を魅力的に魅せることが出来て、男がどんな反応を示すのかを。
けれど、それが私の気分を害すと分かっていない。
たった一夜の遊びだと伝えているのにもかかわらず、自分は特別だと思い込んでるそれに吐き気すらしてくる。
「君とは、一度きりだよ」
ジャケットを羽織り終えると彼女の方へと振り返った。
人の好さそうな、笑顔を貼り付けてお別れの言葉を投げかけるとその空間から逃げるように去った。