ずっと欲しかったもの
部活の帰り道。山口くんは寄る場所があるからと別行動になった私たちはとほとぼと夜道を歩く。
私たち…というのは、長身のメガネ男子・月島 蛍が私の隣で歩いているからだ。
ちなみに家が隣同士の幼馴染で私の好きな人、です。
「…ねぇ、なまえ」
(………寒いなぁ…)
もう12月中旬ということもあって気温がとても寒かった。
夜空を眺めながら、頬に触れる冷たい風を感じていた私には彼の呼び掛けに全く気付いていなかった。
「……。」
「っ!?…い、いひゃい!いひゃいよ、へい!」
無視されたと思ったんだと思われる。
蛍は私の頬を摘んでは引っ張ってきたのだ。
私は予想外の痛みに目を見開いてはすぐに痛みを彼に訴えて彼の手を軽くバシバシと叩いた。
「ふっ、変な顔」
「……その変な顔させてるのは蛍でしょ」
彼は引っ張っていた手を頬から離してふっと笑いかけてきた。
言ってる言葉は全く以て失礼極まりない。
…けど、ふっと笑いかけた彼の笑みに内心ドキッとしてしまった。
私は少し悔しくて…内心を悟られないようにむっとした顔をして頬をさすりながらジト目で彼を責めるように言葉を投げかけた。
「呼んでも返事がなぃからデショ」
「う〜、寒いなーって考えてたんだもん」
私が責めるように言っても蛍はしれっとした顔をして言葉を返してくる。
その言葉は正論すぎて否定出来ない私は拗ねた顔をして両手をさすりながら話題を逸らそうとする。
「夜中から雪降るって天気予報でも言ってたよ」
「どうりで寒いわけだ…」
「手袋は?」
蛍は空を見上げながら私に天気予報の話をしてくれる。
その横顔をちらっと盗み見ると寒いから白い吐息が空気に舞っていてその姿がまた似合う蛍に少し頬を赤くしながら、私は言葉を返して自身の両手に吐息を掛けて暖をとっていた。
その姿に気付いた蛍は私に手袋の存在を聞いてきた。
「教室に忘れてきてしまいました」
「バカなの?」
「返す言葉がございません……あっ」
私は彼の問い掛けに眉を下げて悲しげに答えると容赦ない蛍の言葉が私を責める。
ぐうの音も出ない私はしょんぼりして肩を落としたけど、少しいいことを思いついて頭をあげて目の前の道を見た。
そして、彼より少し先を歩いて振り返って蛍を見た。
「どうしたの…って冷たっ…!」
「へっへぇ〜、蛍のほっぺた暖かい♪」
私の行動が不思議だったのか。
蛍は歩みを止めて私と向かい合うと首を傾げていた。
私はすかさずすきやりとばかりに背伸びをして蛍の頬を両手で包むように暖をとると彼は冷たい私の手に顔を顰めていた。
私はしてやったりとばかりに笑いながらぬくぬくと暖を取り続ける。
「…っ、離して」
「えー、やだよ。寒いもん」
「バカなの?帰れないじゃん」
寒さで少し赤かった彼の顔がまた少し赤くなったような気がした。
…気のせいかもしれないけど、意識してくれたなら嬉しい。
私はニコニコ笑いながら、頬から手を離さずに暖を取り続けると蛍は眉間に皺を寄せて憎まれ口をいう。
「バカじゃないもーん…しょうがないな…」
「……。」
バカにされて不貞腐れた私は渋々蛍の頬から手を離して帰り道を歩み始めた。
「ねぇ、なまえ」
「なぁにー?」
彼より少し先を歩く私を蛍は呼びかけた。
先程思い切った行動に出たことに今更恥ずかしく思うが、バレないように誤魔化しながら返事をする。
「……。」
「…蛍??」
「…………。」
呼びかけてきたのにそのあと何も言葉がないことに不思議に思った私は蛍のいる後ろへ振り返った。
そこには難しい顔をしていた。
「蛍、どうしたの?」
「今日、隣のクラスの奴に告白されてたデショ」
「な、何で知ってるの?」
黙ったまま私も見つめる蛍に近寄って声を掛けると蛍は唐突に話題を振ってきた。
しかも、出来れば避けて通りたい話題を。
私は驚いてどもりながらも問い掛けた。
「クラスの女子が騒いでた」
「あー…なるほど……」
しれっとした顔をしながら、淡々と私の問いに大して言葉を返されると私はクラスの女子たちの話している姿が目に浮かび苦笑しながら納得してしまった。
「…付き合うことにしたの?」
「えっ、何で!?」
蛍はちらっと私を見ては小さな声でまた爆弾質問をしてくる。
今日はいったいどうしたのだろうと思いながら驚きすぎて逆に問い掛け返してしまった。
「…違うの?」
「断ったよ、好きな人いるし…あ、」
不思議そうに首を傾げながら更に問いかけ返してくる蛍の姿に深くため息をついてはさらりと私も本音をこぼしてしまった。
口を閉じてももう遅い。
私の本音は空気に溶け込んでしまった後だった。
「っ、そうなんだ…」
「蛍ってさ、冷静でよく周りのこと見てるくせにそういうことは鈍感だよね」
私の言葉が意外だったのか言葉に詰まらせてさらりと納得した彼の姿に私の言葉の意図を理解してないんだと分かったのでつい意地悪な言葉を口にする。
「はあ?なまえには言われたくないんだけど…っ!?」
私の言葉に対抗するようにイラついた表情を見せながら、反論する蛍に思わず私は彼の胸ぐらを掴んで引き寄せて…口付けていた。
私の行動が予想外だったんだろう。
彼は今までに見たことない顔をして驚いていた。
「…いい加減気付いてよ、バカ蛍……」
「気付けるわけないデショ…」
私は自分のしてしまった行動に動揺すると同時に素直に伝えられない気持ちに切なくなって悲しくなったが、積極的な行動をした恥ずかしいという感情が勝って顔を赤く染めてしまった。
蛍もまた羞恥でなのか私と同じく顔を赤くさせていた。
「…好きだよ、蛍」
「順番逆じゃない?」
ここまできたら勢いで言ってしまおうと勇気を振り絞って蛍に大事に育ててきたこの気持ちを伝えた。
私が勇気を出して言った言葉がこのたった一言で片付けられてしまった、と思うとショックだった。
「っ、……思ってても言わないでよ…って言うか、早くフッて!」
「はぁ?」
どうしてそんな言葉しか言えない幼馴染なんだろうと心を抉られたような気持ちになってはやけくそになった私は彼に振ってくれるよう頼むと蛍は眉間に皺を寄せて不機嫌な声を出した。
「蛍が恋愛とか興味無いのわかってるから…!!また明日から普通の幼馴染みに戻るから……んっ!?」
私は早口で幼馴染の性格を理解してるからこそこの恋に決着をつけるためにリセットするために言葉を紡ぎ続けたが、それは途中で強制的に終了させられた。
何故なら、彼が口付けて私の口を塞いでしまったから。
「冗談じゃない、戻らせる気ないよ」
彼はそっと唇を離すと鋭い目で私を貫くように見つめてきて、彼の行動に驚いた私は目を泳がして混乱していた。
「どういうことよぉ…」
「なまえも大概鈍いよね」
混乱している私は訳が分からず思わず涙目になっていると見下したような顔をした彼に呆れたようにため息をつかれる。
「意味わかんない…」
「好きだよ、なまえ」
私はバカにされてることに気づき、拗ねたようにぽそりと言葉を紡ぐと彼は私の頬に手を添えて優しく微笑みながら口付けてくれた。
ずっと欲しかったもの
―それは君からの"好き"の2文字―