貴方の傷を


「はぁー……」

 部屋のソファに身を沈めてクッションに抱きつきながらなまえは溜息をつき、時計の針を眺めてる。
 時計の針はもう日付を変え、2時を指していた。

(……降谷さん、ちゃんと寝てるのかなぁ)
「前会った時はすんごいクマだったな……」

 彼女は眉間に皺を寄せて恋人の心配をする。
 どうやら彼女が以前会った時はクマを目の下に作っていたようだ。

「無理して会いに来なくてもいいのに……」
「せっかく会いに来たのに君は俺を帰すのか?」
「ふ、降谷さん……!?」

 なまえはクッションを強く抱き締めながら彼の体を心配して呟いた言葉は空気と一緒に溶けて消えると思っていたのだろう。 しかし、真上から何とも言えない声音でなまえへ問いかける声が聞こえるとと彼女は聞こえるはずの声が聞こえて驚きで起き上がって声の主の名を呼んだ。

「人を亡霊のように呼ばないでくれ」
「と、突然現れるから驚いただけです……!!」
「はは、分かってるさ」

 ふっと笑いながら降谷零は彼女を見下ろしてなまえに言葉をかけると彼女は恥ずかしそうにソファの端によりながらクッションに顔を隠して言葉を返す。
 彼女が言う言葉を先読みしていたのか降谷は笑いながら知っていたようにさらに言葉を返した。

「……」
「どうかしたか?」
「何かありましたか?」

 降谷の笑みに違和感を感じたなまえは彼をじっと見つめていると降谷は彼女に問いかけながら彼女の隣に腰を掛ける。なまえは突然彼に質問をした。

「……いいや」
「本当に?」
「ああ」
「……本当に?」

 突然の質問に降谷に少し目を見開いて驚きながら返事をするとなまえはつかさず別の言葉で問い掛けをするが降谷はそれに対しても肯定する。
 しかし、なまえは彼の言葉が信じられないのか念押しのように同じことを問いかける。

「本当だ……どうした?そんな質問攻めして」
「……傷付いてます」
「……怪我はしてないが?」

 困ったように降谷は眉下げて彼女の言葉に肯定すると彼はなまえが何故そこまで拘って問いかけるのかを疑問に思ったのか言葉を紡ぐと彼女は悲しそうな顔をしてポツリ言葉を零す。
 降谷は彼女の言葉に少し瞳を揺らしながら誤魔化すように言葉を返した。

「……ここが」
「……。」

 なまえはそっと降谷の胸に手を当てて彼の瞳を見つめながら傷付いている場所を示すと彼は黙ってなまえを見つめ返す。

「だから、この時間でも私の所に来た……違いますか?」
「……さあな」

 なまえは確信しているように言葉を紡ぎ、降谷に問いかけると彼は目を閉じて可とも不可とも取れない曖昧な言葉を返した。

「ふふ、降谷さんは猫みたい」
「猫?」

 そんな彼を見ていたなまえは思わず笑って降谷を猫に例えると彼は眉間に皺を寄せてオウム返しする。

「だって、猫は1匹になってじっと傷を癒すんです」
「だとしたら俺は猫じゃないな」
「え……?」

 くすくす笑いながらなまえは説明すると降谷は彼女の言葉を否定した。まさか否定されると思ってなかったのか彼女はきょとんとした顔をする。

「君の元へ来ている時点で1人で傷を癒す気がない」
「………ふふ、本当ですね」
「な、何を……」

 降谷は力なく微笑んでなまえの疑問に答えると彼女はふわっと微笑んで彼の言葉に同意するとなまえは手を伸ばして彼の頭を自分の胸に引き寄せて抱き締めた。彼女の行動に降谷は驚いて戸惑いながら彼女に言葉を掛ける。

「人の心音って落ち着きません?」
「……」

 なまえは微笑みながらまるで傷ついた猫を労わるように降谷の頭を撫でながら彼に問い掛ける。彼は彼女の予想外の行動に少し頬を赤く染めて大人しく彼女の心音を感じていた。

「心音って癒す力があるんです」
「……聞いたことないな」
「ふふ、持論です」
「聞いたことない訳だ」

 なまえは目を閉じて降谷の頭を撫で続けながら言葉を紡ぐと彼はポツリと呟く。なまえはまた柔らかく微笑みながら降谷の言葉を返すと彼はふっと笑って彼女の背中に手を回して抱き着き、なまえの胸に擦り寄った。

ALICE+