やっと

「はぁ…いつ見てもかっこいいなぁ」
「アンタ、まーた見てるの…」


 廊下を歩いているとふと目に入った人物にため息をついて賞賛の声をこぼすなまえに隣にいた友人は呆れたように言葉をかける。


「だって、あんなにかっこいい人いないよ?」
「たしかにかっこいいけど、歳考えなさいよ」
「26歳差はまだいける!」
「アンタねぇ…」


 なまえは力説するように友人に問いかけると彼女は呆れた顔をしてなまえの意見には同意するが年齢を考えろと彼女に説き伏せるように言う。

 しかし、なまえは右手で拳を作り、根拠の無い断言をすると友人は肩を落とした。


「…あ、理事長先生!こんにちは!」
「ああ、みょうじさん…こんにちは」


 ふと理事長と目が合うとなまえは嬉しそうに微笑んで駆け寄り挨拶をすると理事長も彼女の存在に気付いては挨拶を返す。


「そういえば聞いたよ。ピアノコンクールで優勝したそうだね、おめでとう」
「あ、ありがとうございます…っ!」


 彼は思い出したかのようになまえが優勝したことを祝うとまさかお褒めの言葉がもらえると思っていなかったのか彼女は頬を赤く染めてお礼を言う。


「A組の女子の中でトップの成績を収めている…これからも期待しているよ」
「はいっ!期待に応えられるよう頑張ります!」


 なまえが元気にお礼を言うと理事長はなまえに期待してるとの言葉をかけると彼女は嬉しそうに笑ってやる気を見せる。

 そんな彼女の姿にふっと笑いかけて立ち去った。


「はぁ…やっぱりいつ見ても素敵だよ〜」
(…確かに理事長もこの子には目を掛けてるのよね……)
「良かったわね、褒められて」
「ふふ、うん!」


 なまえは理事長の後ろ姿をうっとり見つめているとそんな彼女の背中と理事長の背中を目を行き来させて観察しては友人はなまえにぽんっと背中を叩くとなまえは嬉しそうに微笑んで首を縦に振った。


(…しかも、見る目が優しい……でも、まさか、ね…)
「どうしたの?」
「ん?別に何もないよ」


 笑顔を見せるなまえにふっと微笑む友人だか、少し過ぎった考えにありえないと頭の中で否定していると黙っていた友人を不思議に思ったのか、なまえは彼女に問いかける。

 声をかけられた友人は首を横に振って何でもないと口にした。


「本当に?」
「今日、いっその事告っちゃえば?」
「えー!?む、無理だよ…フラれるの分かってるもん」
「じゃなきゃ、アンタずーっと片想い抱えたままだよ?」


 心配そうに友人の顔を覗き込むなまえに彼女はにっと笑いながらなまえにとんでもない提案をした。

 友人の提案になまえは目を見開いて驚いてぶんぶんと顔を振って否定の言葉を口にすると切なそうな表情をして弱気な言葉を零す。

 彼女は好きになってはいけない相手を好きになった友人を眉を下げて背中を押すように言葉をかけた。


「……当たって砕けろ?」
「そうそう、慰めてあげるからさ」
「うう、それはそれで悲しみ……」


 しゅんとした顔をしてなまえは友人に問い掛けると彼女はわざとらしく明るく肯定し、その言葉になまえはまた肩を落としていた。



◇◇◇



(あんな話しててタイミング良くいた…!!しかも、誰もいない!!)
「あ、あああの…!!理事長先生!」
「ん?なまえさん、どうかしましたか?」
「あの…私、先生のことが好きです……っ!!」


 たまたま通りかかった廊下で1裏庭に1人でいた理事長を見つけたなまえは動揺しつつも周りをきょろきょろ見渡すが、誰もいないことに勇気を振り絞って理事長のことを呼ぶと理事長は振り返って誰が呼んでいるのかを理解すると彼女の名前を呼んで問いかける。

 なまえは俯いてスカートを握り締め、頬を赤く染めながら勇気を出して彼に告白をした。


「…気持ちは嬉しいが、答えられない」
「そう、ですよね…」
「私は犯罪者になりたくないからね」


 彼女から告白をされるとは思っていなかったのか理事長は少し目を見開いて驚くがいつもの表情に戻り、なまえの告白に対する返事をした。

 その言葉に分かりきってたとばかりになまえはスカートを握っていた手の力を抜いて覇気のない声音で返事に納得しようと言葉を返す。

 しかし、理事長はまた違った言葉を紡ぎだした。


「……え?」
「…だから、5年後」
「え…」


 その言葉に理解ができずになまえはふっと顔を上げて理事長を見ると彼は淡々と言葉を口から零す。

 また彼の言葉になまえは固まっていた。


「君の気持ちが変わらなければ私の元に来なさい」
「それって…」
「これ以上は譲歩しない」


 柔らかく微笑みながら理事長はなまえを期待させるような言葉を紡ぐ。

 その言葉の意図を確かめようとするなまえに彼は遮るようにそれ以上言うなとばかりに言葉を掛けた。


「っ、はい…!!」


 その言葉が嬉しかったのか頬を赤く染めたままなまえは笑顔で返事をした。


 そして…そう約束してはや、5年の月日が経った。


「みょうじさん、俺好きなんだ。付き合ってくれないかな?」
「…ごめんなさい、私好きな人がいるの」


 大学の構内にある体育館裏に呼び出されたなまえは告白を受けていた。

 相手はかなりのイケメンで彼はストレートに彼女に告白するがなまえは困った顔をして丁寧に言葉を返す。


「そっか…誰か教えてくれる?そしたら、諦められる気がするから…」
「ごめんなさい…きっと貴方の知らない人だから」
「そっか…ありがとう」


 イケメンは悲しそうな顔をするが諦めきれないのか相手を問おうとするがなまえは首を横に振って申し訳なさそうに微笑むとその彼女の表情を見て諦めたのか力なくお礼を言うと彼女の元から去っていった。


「…ただいまぁ」
「アンタも大変だね…大学入ってから声掛けられてさ」
「あはは…」


 振る側の辛さを噛み締めながら、待っていてくれる友人の元へと来たなまえはスマホを弄ってる友人に声を掛けると彼女の存在に気づいた友人はお疲れ様とばかりに声を掛けるとなまえは眉を下げて苦笑いした。


「まあ、元々可愛かったからね」
「大げさだよー…」
「で、また断ったの?」


 自慢げに笑いながらなまえを賞賛する友人になまえは力なく笑いながら言葉を返すと話を戻すように友人は彼女に問いかけた。


「好きな人いるのに受け入れられないよ」
「ってことは、アンタまだあの人のこと……」
「うん…ずっと好き」


 友人の問いかけになまえは困ったように笑いながら言葉を返すと呆れた顔をした友人は彼女がずっと想っている人物のことを口にする。

 なまえは頷いては切なく目を揺らして儚く笑いながら想っている人物の好意を認めた。


「はあ、…5年後に来いとか言われたんだっけ?」
「…うん」
「5年経ったってことは…あの人46!?」


 5年間、更に思い続けていたことに友人はため息をついて気だるそうに問い掛けると弱々しくなまえは頷く。

 友人は当時何歳だったのか思い出し、そこから指で数えるとなまえの想い人の年齢が出され驚きの声をあげた。


「も〜、すぐそこに持っていくんだから」
「親友を心配して言ってんの!……あの時、驚いたんだから。期待させるような言葉をあの人がアンタに言ったって聞いた時は」
「ふふ、私もびっくりしちゃったけど…嘘じゃないって分かるから」


 友人の反応にふわっと笑いながら、なまえは言葉をかけると友人はムッとした顔をして彼女に反論すると当時のことを思い出したのか眉下げてなまえに言葉を返す。

 なまえは後ろで手を組んで想い人のことを思いながら、友人に断言した。


「どーしてそこまで信じられるんだか…」
「だって、あの人は嘘はつかないもの」
「ったく…もー、惚気はお腹いっぱい……これから行くんでしょ?」


 友人は深いため息をついて呆れたようにぼやくとなまえはニコッと笑いながら彼女の言葉に言葉を返す。

 友人は惚気を聞かされて嫌になったのか頭をガシガシとかいてはじっとなまえを見つめて問いかけた。


「うん」
「あの人も今やバツイチだしね…私たちの卒業してからすぐ離婚したらしいしミクロレベルで可能性はまだあるね」
「ミクロなんだ……」


 乙女の顔で頷くとなまえを見てなまえはテーブルに肘をついて手のひらに顔を添えるとなまえを勇気づけようとしてるのかしてないのかよくわからない言葉をかけるとなまえは思わずその言葉にツッコミを入れた。


「…頑張っておいで」
「っ!うん!!じゃ、行ってくるね!」

 友人はふっと笑ってなまえの背中を押すセリフを言うとなまえは笑顔を向けると想い人の元へと走り去って行った。


「まったく…あの子の一途は凄いわー…」
「君は何してるんだ?」
「あー、浅野君…君に可愛い同い年のお母さんができるかもね」
「………………何の冗談だ」


 なまえの走り去って行く後ろ姿を見て友人は独り言を呟いているとたまたま通りかかったのか怪訝そうな顔をしている浅野学秀友人に問いかける。

 学秀の存在に気づいた友人は手をひらひら振ってはとんでもない発言をすると彼女の言葉に一瞬固まった学秀はさらに眉間に皺を寄せて友人に言葉を返したのだった。



◇◇◇



「それがここ…塾になるんだよね」


―どーしてそこまで信じられるんだか…


(ホントはね、少し…ううん……不安でいっぱいなの)


 なまえの想い人は5年前、生徒を危険な目に合わせたと糾弾されて経営権を手放すことになったがた静かに教育の仕事を始めたらしく彼女はその塾の前にたどり着いて建物を見上げていた。

 扉を開けて中に入りながら親友である友人が言っていた言葉を思い出しては自嘲気味に笑う。


(だって、あの時の私は15歳の子供。あの人は随分年上の大人だもん……でも、自分の気持ちには嘘は付けないから)


 スタスタと歩きながら当時のことを思い出して釣り合わないこともわかっていたのだろう。それでも彼女は自分の気持ちに嘘をつくことをしたくなかったのだ。

 目的地であるひとつの部屋の前へ辿り着くとなまえはコンコンっとドアをノックした。


「…どうぞ」
「失礼します……お久しぶりです、浅野先生」
「……久し振りだね、随分大人っぽくなった」


 扉の向こうから当時と変わらない声が聞こえるとなまえは深呼吸ひとつしてドアを開けてはゆっくり中に入り、ドアを閉じる。

 そして、ふわりと微笑んでは彼女の想い人…椚ヶ丘中学校元・理事長に挨拶をする。

 彼女の姿を目にした學峯はふっと笑いながら声を返すと彼女を褒める言葉を述べては席から立ち上がって彼女の元へと歩き出す。


「ふふ…あれから5年経ちましたから」
「そうか…もうそんなになるのか」
「ええ……浅野先生」


 學峯からのその言葉に少し驚いてはなまえはまた笑って時が経ったことをつげると彼もまた遠い過去を思い出しているのか遠くを見つめていた。

 そんか彼を見て頷きながら、なまえは彼を呼ぶ。


「…何かな?」
「あの時の、あの言葉に、偽りはありませんか…?」


 呼ばれた學峯はなまえを見て問い掛けるとなまえは緊張した顔をしながら"あの時"の言葉について問いかけた。


「…君は私が君より26も上だということを理解しているね?」
「はい…嫌な程に」
「ふっ…そうか」


 學峯は重い口を開けて事実をなまえに突きつけるが彼女はにこっと微笑んでは肯定すると彼は彼女の付け足した言葉が予想外だったのかふっと笑って言葉を返す。


「……」
「……君には未来がある」
「そう言って…また5年延ばしますか?」


 なまえは黙って學峯の言葉を待っていると彼は目をそらさずになまえの目を見て言葉を返すが#なまえはふわりと笑いながらおちゃめに問いかけた。


「…それでも気持ちが変わることはないのか」
「そうじゃなきゃ…貴方の元に来ませんよ」


 彼女の問いかけに驚いたのか目を少し見開いて言葉を返すとなまえは真剣な目をして彼の言葉に言葉を返した。


「全く君という子は…」
「ふふ…すみません、諦めが悪くて」


 珍しく困った顔をした學峯はため息をついて言葉を漏らすとなまえは眉を下げて微笑みながら彼に言葉を返す。


「いや、魅力的だよ。こんなおじさんだけど構わないかい?」
「ふふ、そんな貴方が好きです」
「私もだ…」


 學峯は首を振って否定すると彼女を賛嘆する言葉を口にする。

 そして、彼は彼女の頬にそっと触れて問い掛けると嬉しそうに微笑んでなまえは5年前にした告白を口にする。

 學峯も彼女の気持ちを受け取って言葉を返すと學峯はなまえに口付けた。



やっと

―5年越しの恋が始まる―


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