If…-初恋の人だったら-

「はぁ〜…かっこいいなぁ」
「あー、はいはい。それ何回目?」
「わっかんない」


 なまえはA組教室の後ろの窓際の席に座りながら肘を付いて手に頬を乗せながら、生徒に指示を出している少年を見てはぽつりと言葉を零す。

 彼女の前の席に座っていた彼女の双子の兄、カルマはイチゴ煮オレを飲みながら、彼女の戯れ言を聞き流しては呆れたように問いかけた。

 彼女はため息を付いて彼の問いかけに答えるがそれは彼の求めているものではない。


「それにしてもなまえって趣味悪…何でよりによって浅野クンなわけ」
「ん〜…初恋の人に似てるから、かな…」
「うわー…サム」


 呆れたように半目でなまえを見ては気だるそうに問いかけると彼女は眉を寄せて考えてはカルマの問い掛けに答えた。

 彼は苦虫を噛み潰したような顔をしてぼそっと呟く。


「うっさい!」
「まあ、せいぜい頑張んなよ…ていうか早く問題解きなよ」
「…望みないの、分かってるもん……あとこれ、分かんない」


 彼の言葉を聞き取ってしまったなまえはむっとした顔をしてカルマから顔を背けると適当な声援を彼女に送ると彼は彼女の机の上にある数学のプリントに目を向ける。

 なまえは拗ねたように諦めたような言葉を零すと現実逃避していた問題を早く解けと言われたことによって嫌そうに問題に目を向けた。


「俺の妹のくせに自信なさすぎ」
「カルマが自信ありすぎなの…双子なのにこうも違うなんて…」
「違うのは当たり前デショ、二卵性なんだから」

 
 彼女の口から出た言葉があまりにも弱々しかったからかカルマはため息を付いて椅子に寄りかかりながら、言葉を吐く。

 なまえは双子であるカルマとの似てなさに目を閉じ、ため息を付きながら、項垂れるが、カルマは冷静に彼女の疑問を理論的に答えた。


「こう、理屈で返してくるあたりもムカつく…」
「何をしているんだ…赤羽兄妹」


 なまえはカルマの答えに眉間に皺を寄せて文句を言っていると双子に歩み寄ってくる人物は呆れた顔をして双子に声を掛けた。
 

「ちょっとー、浅野クンー?まとめて呼ぶのやめてくんない?」
「君たちが一緒にいることが多いからだろう」
「あ、あのー…火花散らすのやめよ…?」


 カルマは双子まとめて呼んだ学秀に眉をぴくっと跳ねさせてはわざとらしく挑発するように問いかける。

 学秀は笑みを浮かべて彼の問いかけに冷静に答えるがその空気間に耐えられなかったなまえは冷や汗を掻きながら2人に恐る恐る中間に入るように言葉をかける。
 

「何言ってんの、なまえ。浅野クンが喧嘩腰なだけデショ」
「何言っているんだ、赤羽兄。君が喧嘩腰なだけだ」
「ほ、ほら。それだよ、それ!」


 カルマはヘラっと笑いながら、なまえに声を掛けては彼女の言葉を訂正すると学秀もまたカルマと同じように訂正してお互いのせいにしている姿を見た彼女は困ったように眉を下げて2人に突っ込みを入れた。


「…あ、浅野クン」
「なんだ、赤羽兄」
「なまえが数学で分からないところあるんだって教えてあげて」


 カルマは何かを思い出したかのように声を上げるとまるで先程のやり取りが嘘だったかのように学秀に声をかける。

 学秀はカルマに呼ばれたことに返事をするとカルマは鞄を持って席を立ちながら彼に突然なまえに勉強を教える様に言い始めた。


「へ?」
「…君が教えればいいだろう」
「俺、これから予定あるから無理。じゃーねー」


 なまえはきょとんとした顔をして変な声を上げると学秀は眉間に皺を寄せてカルマに反論するとカルマは飄々とした態度で学秀の言葉に否定してはすぐさま2人に背を向けて手を振って教室から出て行ってしまった。


「全く君の兄は適当だな…」
「う、うん…そだね……」
「…で、何が分からなかったんだ?」
 

 カルマの背を見送りながら学秀はぼそっとなまえにカルマの毒を吐くと彼女も戸惑いながら彼の言葉に同意する。

 学秀ははぁとため息を付いては気を取り直したようになまえに問いかけた。


「え、教えてくれるの…?」
「…君も僕のクラスの一員だ。当然のことだ」
「ありがとう…!」


 詰まっていた問題を教えてくれるような言葉を掛けた学秀になまえは目を見開いて驚いて問いかけると彼はふっと笑って彼女の問いかけに肯定の言葉を返す。

 なまえはその言葉に嬉しそうに笑みを浮かべて学秀にお礼を言った。
 

「…っ、どの問題が分からないんだ?」
「えっと、ここの問題です!」
「ああ、それはこの公式を応用して…」
 

 彼女の笑みに学秀は少し頬を赤らめて言葉に詰まるが話をさっさと戻すように数学のプリントに目を向けて分からない問題を問いかけるとなまえは彼の問いかけにあわあわしながら分からない問題を指差す。

 その問題に目を通した学秀はどこで躓いているのか分かったのか解き方を教えようとシャープペンを手に取り公式を書き綴り始めた。


(…もしかして、カルマそう仕向けてくれたのかな)
「…おい、赤羽さん。聞いてるか?」
「え、あ、はい!聞いてます!」


 公式を書き綴る学秀の手を見てなまえはカルマがわざと学秀と関われるようにしてくれたのかなどぼんやり考えていると彼女の分からない問題を丁寧に教えていた学秀は彼女の反応が薄いことに気が付き、眉間に皺を寄せて問いかける。

 なまえははっとしては条件反射のようにすぐさま肯定の返事をすると彼の教えを受けながら問題を解いていった。



◇◇◇
 


「浅野くんのおかげで分かったよ!本トにありがとう!」
「そんなに喜ぶなんて大げさだな」


 時間はあっという間に過ぎて夕方になっており、なまえは一緒に下校する学秀に笑顔でお礼を言うと学秀はふっと笑いながら言葉を返す。


「あ、桜の花びらが付いてるよ」
「っ、………」
「ふふ、どうしたの?」

 なまえは学秀の髪に桜の花びらが付いているのに気が付くと彼の髪に付いている花びらを摘まんで取ってはふわっと微笑みながら花びらを学秀に見せる。

 彼はなまえの笑みに目を見開いて驚くと少し頬を赤くさせては黙って彼女を見つめていた。茫然としている学秀になまえは面白くなったのか柔らかく笑いながら彼に首を傾げて問いかける。


「いや、…前にも同じようなことがあったと思い出しただけだ」
「前…?」
「幼い頃の話だ」


 はっとした学秀はふいっと顔を彼女から背けて桜の木を眺めながら彼女の問いかけに答えるとなまえは不思議そうに彼の言葉に疑問を浮かべていると彼はさらっと彼女の問いに答えた。
 

「え、聞いてみたい!」
「面白い話じゃ……」
「…ダメ?」
 

 学秀の幼い頃の話と聞いてなまえは目を輝かせて言葉を発すると学秀は困ったような顔をしてなまえの顔を見ながら言葉を紡ぎ掛けるが彼女はしゅんとした顔をした。


「…5歳の頃、桜の木の下で会った女の子のことを思い出しただけだ」
「へぇ…そう、なんだ…」


 しゅんとした顔をしたなまえにはぁとため息を付きながら彼は彼女を見ながら淡々と当時の話をし始める。

 まさかその思い出が女の子の話だと思わなかったなまえは胸の鈍い痛みに気が付かないふりをしながら言葉に詰まりながらも彼の言葉に相槌を打つ。


「…君みたいな赤い髪をした二つ結びの女の子が泣いていたんだ」
(……ん?)
「兄とはぐれて泣いてたようだが話を聞いてるうちに落ち着いたのかいつの間にか泣き止んでいた」
(うそ、……うそうそうそ…!!)


 学秀はそのまま当時の話を続けるがその時の女の子の特徴を話し始めるとなまえは違和感を覚えて不思議そうに彼の言葉に耳を傾けると彼はそのまま更に詳細を話すとふっと笑っていた。

 彼の言葉に思い当たる節があったのかなまえは少し頬を赤くして目を見開いて彼を見つめる。


「あの時の子…浅野くんだったんだ…」
「やっと気が付いたんだな…」


 なまえは驚きのままぽつりと呟くと学秀の耳は彼女の言葉を聞き取っており、彼女が思い出したことにふっと柔らかく笑みを受けべた。


(あの時の男の子…浅野くんだったなんて……初恋の人をまた好きになるなんて)
「…赤羽さん?」
 

 柔らかく微笑む学秀になまえは見惚れながらも初恋の人が学秀だった事実に先程より更に頬を赤らめていると何も反応のないなまえに学秀は不思議に思って彼女の顔を覗き込みながら彼女へ声を掛ける。


「あ、あの…どうして覚えてくれてたの?」
「……あの時も花びらを取った時の笑顔が印象的だったんだ」


 なまえははっと我に返ると学秀に戸惑いながら問いかけると彼は彼女の髪に付いている桜の花びらを摘まんで取っては優しく微笑みながら言葉を口にした。


「……そっか…ふふ、そっか!」
「ああ…」


 なまえは彼の言葉が嬉しかったのか今日一番の笑顔で納得したように言葉を返しては学秀の数歩先に歩みを進める。彼はそんな彼女の姿にふっと笑いながら手に持っていた花びらを離すと花びらは風に舞った。
 

「ねぇ、浅野くん」
「何だ?」


 なまえはくるっと振り返って学秀の方へ体ごと向けて彼の名前を呼ぶと彼は不思議そうに首を傾げる。
 

「あの時の男の子が浅野くんで良かった!」
「………ああ、僕もそう思うよ」


 なまえは桜の花びらが舞い散る中、にこっと笑いながら学秀に言葉を掛けると彼女のその姿に学秀は見惚れては小さな声でぽつりと彼女の言葉に同意した。
 

「……ん?何か言った?」
「いいや、何でもない」
「えー!絶対何か言ったよね!?」
「君の気のせいだ」


 学秀は小さく呟いていたため、彼女の耳までたどり着かなかったようでなまえは耳に髪を掛けて学秀に問いかけるが彼は首を横に振って否定しては彼女の元へと歩みを進める。

 しかし、なまえは学秀の否定の言葉に納得いかなかったのか問い詰める様に問いかけたがさらりと受け流されてしまったのだった。
 


IF…〜もし、彼が初恋の人だったら〜

2度目の恋の相手も貴方。
―これはもう運命としか言いようがない―


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