振り回され、振り回し
※シュミレーションゲーム風の選択式夢小説をTwitterで行いました。
※その結果を元に小説にしております。
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晴れ渡る青い空。
そこをうようよと気持ち良さそうに泳ぐ白い雲。
それを茫然と見上げる少女はトボトボとゆっくりとのどかな道を歩いていた。
(任務が無事終わった……ああ、蝶屋敷に行って、治療してもらおうかな)
平和な空を見上げたまま、彼女は心の中で今後どうするかを決めているらしい。
頬に怪我を治療した痕があることから、鬼との戦いで他にも負傷していることが窺えた。
(怪我が完治したら、任務。任務任務任務……いつになったら、終わるのやら……)
はぁ…と深いため息を付き、悶々と考えている様は現代で言うなれば社畜であろう。
怪我が痛いのか、それとも鬼殺隊員として動く毎日に気が重いのかはわからない。
けれど、彼女の背中はどこか丸まっているように見える。
そんな彼女の背後から近寄る影。
それは近寄り、彼女の肩をトントンと叩いた。
「……」
全く気配を感じなかったのだろう。
彼女は肩をびくりと上下に動かすとゆっくり後ろを振り返った。
「久しぶり!なまえ!」
「…久しぶり」
黒に赤が混ざる髪と瞳を持ち、鬼殺隊の対服を身に纏い、緑と黒の市松模様の羽織を羽織った少年の姿。
彼は爽やかな笑顔を浮かべ、彼女へと声をかけた。
知っている顔がそこにあったからだろうか。
彼女はほっと安堵の息を零すと言葉を返す。
「女の子なのに顔に傷を作ったのか?」
彼女の頬にある手当の痕。
炭治郎は眉を下げては彼女の頬に触れ、心配そうに問いかけた。
彼女の傷を見ようと炭治郎は顔を近づけている。その距離はもう5センチもない。
(おまっ、本当にそういうころだよ。それ、妹扱いかな?女の子に簡単に触れちゃダメだよ??)
仲間として心配しくれるのは嬉しいし、有難いだろう。
それでも、許可なく頬に触れられるとは思いもしなかったようだ。
彼女は息を飲み込みんで表情をどこかに落としてきたかのように無表情だ。
それでも、彼に言いたい文句の数々を心の中で披露する辺り、動揺しているのは確かだ。
「………どうかしたか?」
「いや、ごめん……無自覚たらしはどうやったら育つか考えてた」
彼はなんの反応も示せない彼女が不思議に思ったのだろう。
首を傾げ、問いかける。
その姿はとても純粋に彼女を心配していることが窺えた。
彼女は息を付くと謝罪の言葉を零し、呆れたようにぽつりと言葉を紡ぐ。
「え、あ、…ん?……普通に育ったけどなぁ」
彼女の言いたい意味を全く理解していないらしい。
彼は眉を寄せ、首を傾げるが彼の中で解決してないのだろう。
不思議そうに言葉を口にすると戸惑った表情を浮べるが、彼女と彼の顔の距離は変わらないままだ。
彼は緊張していなければ、照れても恥ずかしがってもいない。
(で、え?顔近いまんまなんだけど、なんで気にしないの??え?私、女として見られてない?)
きっと彼女は表情には出さないけれど、内心は羞恥で一杯だからこそ、その疑問が浮かぶのだろう。
自分ばかり、炭治郎に振り回されている。
それが無性にムカついたのか、彼女は頬を膨らませた。
頬にある傷はズキッと痛むが、それは気にしていられないのだろう。
「あはは、お餅みたいに頬を膨らませてどうしたんだ?」
(ぜんっぜんダメだあ!!爽やかな笑顔を間近でって、本当にずるいよ!顔整ってる人がやっちゃダメな奴!!)
彼は彼女が唐突に頬を膨らませたことに笑みを浮かべるだけで、彼女の意図を組む気はないらしい。
ただ爽やかな笑顔を彼女に向けるだけだ。
それに対して、思っていた反応と違う彼に対して彼女の心はかき乱されている。
その証拠と云っても良いほど、彼女は先ほどまで無表情を頑張って保っていたが、今は頬を赤くさせていた。
「顔、近い……」
顔が整った人間の笑顔にやられたらしく、彼女は負けたとばかりにぽつりと言葉を零す。
それは早く顔と顔の距離を離してくれ。
そういう意味が含まれている。
「ダメなのか?」
炭治郎はキョトンとした表情を浮べ、それはもう不思議そうに首を傾げた。
(ダメなのか??え、は??)
彼の言っている意味が分からないのか。
彼女は思わず、ピシリと固まる。
それはもう微動だにすることなく。
しかし、これは恋慕を抱いている相手に言われれば、誰だって固まるんじゃないだろうか。
「私たち、恋仲じゃないんだよ??」
彼女はハッと我に返ると、困惑した表情を浮べながら、炭治郎へ問いかける。
同期の距離。友人の距離。
それらを飛び越えた距離であることを彼に分かってもらおうと思っているのだろう。
その距離が許されるのは家族、又恋仲ぐらいのものなのだから。
「す、すまない…やっぱり嫌なんだな……」
炭治郎は彼女の問いかけに申し訳なさそうに謝罪を口にすると彼は彼女から顔を離し、普通の距離を取った。
彼女の言わんとしていることを理解したのだろうか。
それは分からない。
それでも彼はどこか傷付いた表情を浮べていた。
(恋仲ならわかる行動を
彼女は彼の傷付いてる表情に眉を寄せ、悶々と心の中で文句を言い続ける。
傷付けてしまったことにだろうか。
彼女の胸はツキンと痛みが走り、胸に手を添えた。
「なんでそんな顔をするの?」
期待しそうな心と期待したくない心。
それが彼女の中を半々に支配しているが、それでも確認せずにはいられなかったのだろう。
彼女はおずおずと彼へ問いかけた。
「え?」
「……だって、傷付いた顔をしてる…」
彼は落としていた視線を彼女に向けると目を見開く。
どうやら、彼は自分がどんな表情をしているのか分かっていないようだ。
彼女はそれが分かったのか。
複雑そうな表情を浮べ、言葉を口にする。
「なまえに触れられないのは嫌だなって、思ってしまって……」
「……」
炭治郎はぎこちなく笑みを浮かべると後頭部に手を添え、彼女の疑問に答えた。
それはもう自然と口から言葉が流れ出るが如く。
彼から紡がれたその言葉に彼女はまたもや固まった。
何度目よ、お?おい、長男?
彼女の目はそう言っていたに違いない。
もう一度言うが、この二人は恋仲でも何でもない。
ただの同期、ただの友人。
ただ、彼女が炭治郎に片思いをしているというだけの関係性だ。
そんな彼女に彼から告げられたその言葉は衝撃以外の何物でもないだろう。
「あの、さ、女の子にそんなに気軽に触れる?」
「なまえだからに決まってるじゃないか」
「っっっっ〜〜〜〜〜〜……」
炭治郎は誠実な人間だと思っていた。
それでもそれは錯覚で実は女たらしなのではないか。
そんな疑問が頭を過ったらしい。
彼女は頬を引き攣らせながら、言い辛そうに彼女へ問いかけた。
しかし、そんな彼女の疑問は彼の答えにより吹き飛ぶ。
むんっ!
炭治郎はそんな効果音がしそうな表情を浮べては自信満々に言った。
(惚れた弱みか、いや、この人が異常なんでしょ)
彼の言葉は狡いの一言だが、彼女は言われた言葉に悶える。
彼女は改めて自分が好きになった人は無自覚人たらしだということを自覚した。
「そーゆーとこだよ……すき」
彼女は両手で顔を覆い、小さな声でぽつりと零した。
炭治郎を好いていると云うことを。
「なっ!あ、え、……い、今…なんて言ったんだ!?」
彼女の声は彼の耳にしかと届いていたらしい。
炭治郎は顔を真っ赤にさせて眉を吊り上げ、彼女の両肩を掴み、問いかけた。
その様から、驚いていることが窺える。
(え、どうしたの?………あ、あれ?思わず、言っちゃった??言っちゃったよぉ!?……ど、どうしよう?)
彼女は炭治郎の慌てぶりにぽかんとしていた。
どうやら、先ほど小さな声で紡いだ言葉は無意識に口から出ていたようだ。
それを自覚すると彼女は目を回し、混乱した頭をフル回転させる。
頼む!もう一度、言ってくれ!!
黙ったままの彼女の肩をしかと離さず、炭治郎は言葉を紡ぎ続けた。
「ああ!!もう!そういうことはさ!?聞き返しちゃダメだよ!?っていうか、匂いで分かるよね!?あー!そうですよ!!私は炭治郎が好きですよ!!悪いですか!?」
どうしよう。
そう悩んでいたということは打ち明けるか、逃げるか。どちらにするかを悩んでいたはずだ。
それでも彼女は自身の肩を掴み、離さない。
尚且つ、ゆらゆらと揺らし続ける炭治郎から逃げられる気がしなかったらしい。
彼女は前者を選び取った。
それでも、羞恥が勝ってしまったようだ。
ブチ切れた彼女は息を付くことなく長々と文句を言いながら、告白をしたのだ。
文句を言わなくても良かっただろうに。
そう思うが、恐らく言わずにはいられなかったのだろう。
「わ、悪いなんて言ってな……本当か!?」
「だーから!何度も何度も聞かないで!?鼻はいいのに耳はくっそ悪いのかな!?もう!!長男でしょ!!一度で聞き取ってよ!?好きですよ!!!」
彼女が怒涛のように言葉を吐く姿に炭治郎は困ったように眉を下げ、否定しようとする。
しかし、彼女が言った文句の中の本音を理解すると目を大きく開き、嬉しそうにもう一度聞き返した。
それに対して彼女は眉をピクピクと動かし、更なる文句を口にするが、先ほどよりも荒々しい言葉遣い。
何度、同じ言葉を告げなければならいのか。
その思いからか、目には薄っすら涙が溜まっている。
彼女は大きな声ではっきりと恋慕を抱いていることを告げた。
好いた相手に何を喧嘩腰に告白をしているのだろうと我に返ったのか。
彼女はどこか疲れたような、情けないような表情を浮べる。
「す、すまない……う、嬉しくて……つい」
(嬉しくて?つい?……は?)
炭治郎は先ほどよりも顔を赤くさせ、ついでに言うなれば耳まで赤くさせて謝罪の言葉を口にした。
にやける口元を隠すように手で覆いながら、言葉を零す。
真っ赤になる彼にきょとんとしてしまい、その照れた顔をする炭治郎を茫然と見つめた。
「え、好きなの?」
もしかして、そんな期待を心の中でしていたのだろう。
しかし、彼女はそれをそのまま口に出している。
それもまた直球的な言葉だ。
あ、馬鹿。やらかした。
彼女の表情はそう物語っていたが、出て言葉は引っ込むことはない。
「そういう所だぞ……」
「………」
炭治郎は直球で問いかけられたことに、はぁとため息を付き、自身の顔を片手で覆い長ア、呆れたように言葉を零した。
(君には言われたくない……でも、もしかしたら、本当に…)
炭治郎にそういわれるのは癪なのか。複雑そうに心の中で言葉を紡ぐ。
そして、炭治郎に期待の目を向けた。
そんな視線を向けるのも無理もない。
ずっと片想いしていた人物と実は両想いかもしれない。
そう思ったら、誰だって同じように期待し、相手を見つめるだろう。
彼女は彼の言葉をただじっと見つめて、待った。
「俺もなまえが好きだ!」
彼はふぅと息を吐き、呼吸を整えると優しい笑みを浮かべてはっきりと告げる。
彼女が夢見た彼からのその言葉を。
彼から告げられた言葉に彼女は目頭を熱くさせ、思い切り抱きつき、背中に手を回した。
炭治郎はまさか抱き付かれると思わなかったのだろう。
慌てた表情を浮べるが、ぐずっと鼻を啜る音が聞こえると嬉しそうに彼女の背中に手を回し、ぎゅっと強く抱き締め返す。
(ああ、温かい、優しくて強い手だな)
彼女は力強く抱き締めてくれたその手に心があたたかくなると目から一滴の涙を流し、嬉しそうに眉を下げては彼に負けないようにぎゅっと抱きしめる手を強めたのだった。