振り回されてます

 どうも、こんにちは。
 私は水の呼吸を習得した一鬼殺隊員です。
 紆余曲折ありまして、水柱・冨岡義勇さんの継子になりました。

 彼の継子となってから数年の月日が経ちますが、いまだに何を考えてるのか分からない時があったりします。


「義勇さん」
「なんだ」


 私はしかめっ面をして師範の名前を呼べば、代わり映えのしない表情で淡々と返事をされた。
 そう、なんの恥じらいもなく。


「そんなにこっちを見ないで貰えますか」
「……見ていない」


 私はよそよそしく視線をわざとそらしながら、本題を単刀直入に伝えれば、少しの間の後に返ってきた言葉。
 それは否定だった。


(おまっ……穴あきそうな程見といて何故嘘をつく!?)


 この状況を簡単に説明すると師範の屋敷に二人。

 炭治郎から来た文の返事を書こうと机に向かっていたら、いきなり入ってきて長い間じっとこちらを見つめてきていたのだ。

 それなのにも関わらず、何故嘘をつく必要があるのか。

 そんなのは私には到底わかるものではなかった。
 でも、心の中で突っ込んでしまうのは致し方ないと思う。


「見ていない」
「ど……んんっ…わ、分かりました……1千万歩譲ってそういうことにしましょう」


 ぎょっとして義勇さんの方へと顔を向けてみるも彼の表情は変わらなかった。
 その上、もう一度はっきりと自分の意見を押し通すように口にする。


 どうしたらいいんだよ。


 口に出かけそうになった少しの毒を飲み込み、心の中で吐き出せば、譲歩をしてみせた。


「……」


 言い負かせた。


 きっとそんなことを思ってるのか。
 遠慮なく見つめ続ける師範…いや、本当に譲歩しましたよ。


 しましたけどね?


「……だけど、近い!」


 いくらなんでも近い。
 思わず、本音を口に出していた。


「そんなに近いか?」
「ええ、どう見ても近いでしょう!?」
「……」


 急に大きな声を出したもんだから、さすがに驚いたらしい。
 いつもより少し目を大きく開けて義勇さんは不思議そうに首を傾げた。

 机に向かってる人間を10cmもない距離で見つめられたら、集中したくても出来ないってもんで。


 もはや、邪魔。
 こちとら文を認めてる最中です。


 限界突破した私は声を荒らげて反論をすると彼は眉間に皺を寄せ、ただ目で訴えかけてきた。


「いや、なんで"解せぬ"って顔されなきゃいけないんですか」
「よく分かったな」


 その表情が意図しているものを察知した私は呆れた顔をして、言葉を返すと彼は何度か瞬きをする。

 何が言いたいのか、私がわかったことに驚いたのかもしれない。


「何考えてんだか分からない貴方を観察してましたから分かるようになっちゃいましたよ」
「お前だって俺を見てる」


 こちとら、何年貴方の継子やってると思うんです?


 ちょっと得意げになりながらも、偉そうに言ってみると今度は思わない方向からの攻撃を食らった。


「そうだけど」
「なら、問題ない」
「いや、ありありですよ。私はちゃんと言葉にするけど貴方は口にも顔にも出さないからこちらが察するしかないから極めただけです」


 正論を言われてしまえば、肯定するしか手段はない。
 またもや、言い負かせたとばかりに義勇さんはドヤ顔をした。

 しかし、脇が甘い。
 反論の余地はまだまだある。

 私はため息を付いて観察の必要がどうしてあるかを語った。

  あまり多くを語らない。
 それが冨岡義勇という人間だからだ。


「……そんなに俺はく…」
「ええ、言動に現しません」
「……そうか」


 私の発言は不服らしい。

 更に眉間のシワを深く刻んで言葉を返そうとしたが、最後まで言い終わるのを待つまでもないと思って食い気味に言い返せば、義勇さんはどことなくしょんぼりしている…気がした。

 おっ、これは言い負かせられるんじゃない?


 そんな淡い期待を寄せながら、畳み掛けることを試みる。


「っていうか、いつまでこんな至近距離で観察するつもりです?」
「ダメなのか?」
「噂になりなりますよ?」


 ぐいーっと義勇さんの肩を押して顔を話すようにしながら、疑問を投げかければ、彼はいつもと変わらない無表情にも見える顔でこてんと首を倒した。

 何故、問いかけに問いかけ返すんだろう。

 そんなことを思いながら、私も答えることはせずにまたもや問いかけ返す。


 この話の着地点はあるんだろうか。


 義勇さんに話しかけててそんな不安を過ぎらながら。


「何の問題あるんだ?」
「義勇さんは私の師範で、私は義勇さんの継子ですよ?」
「そうだな」


 それでも、問題を提示しろとばかりに義勇さんは問い続けた。


 本気で分かってないのかな。


 だんだんイライラしてくるこのやり取りに我慢をしつつ、丁寧に話してみると彼はこくりと頷くだけ。


「それだけなのにデキてるとかなんとか言われるんですよ?」
「俺はお前なら別に構わない」
「…………………はい?」


 いや、察してくれよ。そろそろ。
 分かるでしょ。
 男と女なんだから、変な勘違いも生まれるでしょうよ。


 そんな意味を含んで刺々しく話せば、さらりととんでもない言葉が飛び出してくる。

 流石にその言葉の意味を理解するのに時間がかかった。


「……任務に行ってくる」
「ちょ、どういうことです!?」


 タイミングよく現れたのは義勇さんの鎹烏の寛三郎。
 その存在に気がつくと彼は立ち上がろうと膝をつき、屋敷を空けることを伝えた。

 なんとまあ、マイペースな義勇さんに驚きつつ、彼の言葉の意図を聞こうと羽織をぎゅっと握って問いかける。

 あまりにも予想外の出来事すぎて声の大きさを間違え、屋敷にいた鳥が飛んで行った。
 ついでにいうと、寛三郎も驚いてプルプル震えて座り込んでる。


「うるさい」
「なんて理不尽…!!」


 私の1番近くにいた義勇さんの耳は一番被害を蒙ってるけれど、そんなの私の知ったこっちゃなかった。

 でも、相当大きかったのかもしれない。
 しかめっ面した彼は小さくぽつりと呟いた。
 しかし、曖昧な答えだけ渡された私の気持ちも考えて欲しい。


 そんな思いから、尽かさずツッコミを返してしまった。


 珍しく言い負かせられたと思ったけど、結局今回も負けるのは私。
 いつも義勇さんに振り回されてます。



ALICE+