最後の記憶は定かではないけれど、三十路を過ぎていただろうことは覚えてる。 そして、今のこの生活水準が私の知るそれらより、はるかに文明が低く不便なことに驚いたのも記憶に新しい。 ふと目覚めて気が付いて理解できたことは、今の私が生きているこの世界──いや、時代は私の記憶にある時代より昔々ということだった。 それでも慣れてしまったからか、前世と呼べるような記憶の中で私はある程度のことには動じないぐらいの年齢になっていたからか、まあとりあえずはこの時代で生きようと決めたのだ。 「出仕?」 私がこの時代で生まれたのは村人という民草とか農民とか、簡単に言えば最下層でピラミッドの底辺位置に属する下層。 ご飯も粟や稗をお湯でふやかして腹を満たすような、貧しい村。 一日三食、白米やら麺類やら肉魚野菜と贅沢な暮らしをしていたからこんな生活、最初は耐えられそうになかったけれどやはり慣れというのは恐ろしい。 しかし、そんな暮らしの中で突如沸いて出たのが、城への出仕だった。 「各村々から最低一人、年頃の娘をな。どうやら人手不足で武家の娘様たちだけでは足りんらしい」 「そうなのですか・・・」 村長さんに呼ばれて受け取った紙には確かに、働き手になる娘を出仕させるようにという旨が書かれている。 本来、農民ならば読めない文字を読めるのは前の私が習字を好き好んで嗜んでいたおかげだ。 農民でありながら文字を読めるということと今現在、この村で年頃の娘は私一人だけ。 それに、城勤めの給金を仕送れば両親はおろか、この小さな村の人たちまでもが多少は食べるに困らなくなるだろう。 まあ、元々私しかいないのだから断れる筈もないのだけれど。 「馬もいないから歩いて行くしかないが・・・」 「道に迷わないよう、地図さえ頂ければ大丈夫です」 「地図も理解できるとは・・・・・・きっとその知識、役に立つだろう。頑張ってきなさい」 私の今の両親は寂しそうだったけど、城勤めの兵士や出入りの商屋さんにでも貰われなさい、と。 「城勤めは口実で玉の輿狙えってことかなぁ」 まあどこの世界もいつの時代でも、自分の子供は苦労してほしくないものなのだろう。 何だかなぁと思いつつ、私は一張羅の着物と村長さんから使い方や大切さを教わった僅かながらのお金を持って。 朝日が昇り切らぬ薄暗い中を出立した。